池田理代子原作のマンガ『ベルサイユのばら』(集英社刊)は、少女マンガ界に旋風を巻き起こした愛と革命の物語。連載から、宝塚歌劇団での舞台化やTVアニメ化、韓国でのミュージカル化を経て、1月31日(金)、完全新作となる劇場アニメ『ベルサイユのばら』が公開! 本作の主人公の一人、フランス革命を背景に時代の奔流のなかで生きる王妃マリー・アントワネットを演じるのは声優・平野綾さん。ミュージカルなど舞台でも活躍する彼女は、幼い頃からの『ベルばら』ファンを公言している。自らが取り組んだ新たな作品の魅力と、そこから得たかけがえのないものについて語っていただきました。

平野綾

俳優

平野綾

1987年10月8日生まれ。俳優。1998年に児童劇団に入団し、ドラマやCMに出演。2006年にアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』でブレイクを果たす。‘06年に歌手としてソロデビュー。'11年から舞台を中心に活動し、『レ・ミゼラブル』『レディ・ベス』『モーツァルト!』など大作に出演。2月から帝国劇場で始まる『THE BEST New HISTORY COMING』に出演する他、4月からは『AYA HIRANO LIVE TOUR 2025』の開催を控える。

マリー・アントワネットとは?
1755年、オーストリアの女帝、マリア・テレジアの15人目の子どもとして生まれ、1770年に当時フランス王太子だったルイ16世と結婚。1774年にフランス王妃となった実在の人物。華やかな宮廷生活から一転、革命の渦に巻き込まれるというドラマティックな人生を送った人物として、『ベルサイユのばら』のみならず、数々のフクション作品に登場している。

令和版『ベルばら』は、シスターフッドでできている

平野綾 ベルサイユのばら マリー・アントワネット 声優

——『ベルサイユのばら』(以下『ベルばら』)ファンとして、本作のオーディションには並々ならぬ熱意で参加されたとお聞きしました。

平野さん:この令和の時代に『ベルサイユのばら』に携わらせていただけるなんて思ってもいませんでした。ファンとして年季が入ってるもので、テンションの上がり具合は相当なものでしたね。オーディションでは自己PRの時間があったので、今までの私と『ベルばら』の歴史を一気にまくし立てました。母の持っていた原作マンガとの出会いから、テレビアニメ版、宝塚版も全部見て、ベルサイユ宮殿にも訪れたこと……スタッフさんが笑っていましたね(笑)。後々、吉村愛監督にも「熱い思いが伝わってきました」と言われました。

——歴代のメディアミックスに触れてきた平野さんにとって、最新の劇場アニメ『ベルサイユのばら』は、どんな作品になっていますか?

平野さん:個人的には「令和版『ベルばら』は、友情だ!」と思っています。物語にはさまざまな形の愛が登場しますが、異性愛以上に、アントワネットとオスカル(・フランソワ・ド・ジャルジェ)という二人の女性の友情の行方をピックアップしているところがとても現代的。

特に深く描かれているポイントは二人の対比。アントワネットはオーストリアから嫁いできた王妃、オスカルは男性として育てられ王妃に仕える近衛連隊長。女性としての生き方の対比もそうだし、お互いを支え合う大切な関係から、それぞれの信念を貫くために決別し、違う運命を選んだ二人のすごく切ない感情の対比でもあります。

オスカル マリー・アントワネット ベルばら

©️池⽥理代⼦プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会

——45年前に放送開始されたテレビアニメ版に比べると、今回の劇場版アニメは女性スタッフのクレジットが非常に増えています。「友情」や「シスターフッド」を感じさせる作品づくりが、ここに関係していると思われますか。

平野さんこんなにも女性の多い現場は初めてでした。普段のアニメーションの現場は男性スタッフが多い印象なのですが。

私は暑苦しいほどの『ベルばら』ファンなので「(映像化するなら、原作の)ここはこうしてほしい」という要望が強いのですが、今回はかなりドンピシャなところをついてくれていました。監督が誰よりも『ベルばら』のファンであるので「そのシーンでこういう表現をしてほしかったんです!」という共感ポイントがすごい(笑)。70年代の少女漫画ならではの描き方と、現代的な表現をアジャストさせていく感じは、制作をリードするのが女性中心だったことも大いにあるかもしれません。

平野綾 ベルサイユのばら マリー・アントワネット 声優 アニメ

——オスカルを演じた沢城みゆきさんとは二人でのアフレコを中心に、役づくり、関係性づくりを丁寧に行なったそうですね。


 平野さんはい、「お互い、この役で会えるってすごいよね」って、アフレコの初日、二人で話していたんです。沢城さんとは歳が近く、10代で声優デビューしたという経歴も似ています。長年一緒に頑張ってきた仲間であり、オーディションで私が落ちて沢城さんが受かっていたらめちゃくちゃ悔しかったし、レギュラー番組も長くご一緒していて、二人で乗り越えたこともいっぱいあります。

私たちのひさしぶりの共演作が『ベルばら』。ようやくまた会えた作品でこうした関係性を演じられることがすごくうれしく、不思議なことだと思っています。アフレコの合間に二人で話せるのはほんの短い時間でしたが、得られたものは大きかったです。お互いが歩んできたそれぞれの道での経験を吸収し合って、お芝居につなげていけたように思います。

「自分を変わらず保ち続けるための戦い方」に共感を覚える

平野綾 ベルサイユのばら マリー・アントワネット 声優 横顔

——お互いにキャリアを重ねてのお二人の共演が、オスカルとアントワネットの関係性にシンクロするようです。平野さんが、今、この年齢でアントワネットを演じて感じたことを教えてください。

平野さん
小さい頃から自分のことを男の子だって思っていた私にとって、オスカルは永遠の憧れでもありました。宝塚歌劇団でオスカルを演じてみたいという夢もあったんです。身長が足りなくてあきらめましたけれど。でも今、年を重ねて、共感できる部分が多いのはアントワネットに変化しました。今まで声のお仕事でいただく役柄は元気な印象の役が多かったので、14歳でフランス王家に嫁いだ頃のアントワネットのほうがイメージしやすかったんじゃないかと思うんです。けれど今回、物語の中盤以降のアントワネットの方が演じやすいと感じました。それは女性として、また人としての経験が着実に自分の身についていることを実感できた瞬間でもありました。

革命に巻き込まれ、アントワネットの周囲からは味方が次々といなくなっていく。時代の流れに逆らわず飲み込まれながらも誇りを失わず、自らの命と共にひとつの時代を終わらせるという責任を全うしました。そこがすごくかっこいいところだと思います。 

ベルサイユのばら 劇場アニメ マリー・アントワネット

©️池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会

——平野さんが自分自身をマリー・アントワネットに重ねた部分はどんなところですか。

平野さん自分を変わらず保ち続けるための戦い方をしているところは、自分に似ているなと思いました。世間で言われていることと、自分が本当に思っていることが違うときでも、自分の内面を外にはあえて出そうとしない。自分にできることを、自分の持ち場で着々とやる。そんなところに共感を覚えます。

自分の後ろに、数々のアントワネットが見えるような演じ方を

平野綾 ベルサイユのばら マリー・アントワネット 声優 アニメ映画 

——アントワネットは実在の人物で、世界的にも無数の作品の中で演じられてきたキャラクターでもあります。そういう意味でのプレッシャーは感じましたか。

平野さん
もうプレッシャーだらけです(笑)! 宝塚版の『ベルばら』だけでも名だたる方々が演じていらっしゃいます。諸先輩方、それぞれのマリー・アントワネット像があると思うんですけど、その姿の片鱗が思い浮かぶように。……私がすべてを踏襲するなんておこがましいんですけれど、ジャンルを網羅できるような役づくりをしたつもりです。

私自身が舞台で演じていることもあって、声だけで表現することにとどまらず、声の「見せ方」を考えるアプローチを駆使しました。今回の劇場アニメの奥に、宝塚の舞台が見えたらいいなと思いながら演じていました。
舞台の仕事で10数年、しっかりと地に足をつけて続けられてきた感覚があるので、作品ができ上がったとき、一歩一歩進んできたことは間違っていなかったな、よかったなと思いました。

——アニメ、舞台のジャンルを横断し、なおかつ『ベルばら』愛に満ちた平野さんならではのアントワネット像が、約2時間の劇場アニメの中に凝縮されているようですね。

平野さんアントワネットの周囲では、歴史を動かす大きな出来事がいくつも起きます。映画では描かれていなかったり、歌中の背景で終わってしまうくらい一瞬なのですが、ものすごい経験の中でどんどん懐が深く、肝がすわっていくというか、腹が決まっていく。そういうことがセリフひとつを聞くだけで、すぐわかっていただけるような表現にしようと心がけました。冒頭のシーンからラストまで、大きく成長するアントワネットを見届けてください!

劇場アニメ『ベルサイユのばら』1月31日(金)全国ロードショー!

劇場アニメ『ベルサイユのばら』 ポスター

原作:池田理代子

監督:吉村 愛/脚本:金春智子

キャラクターデザイン:岡 真里子/音楽プロデューサー:澤野弘之/音楽:澤野弘之、KOHTA YAMAMOTO/アニメーション制作:MAPPA/製作:劇場アニメベルサイユのばら製作委員会/配給:TOHO NEXT、エイベックス・ピクチャーズ/後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ

オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ:沢城みゆき/マリー・アントワネット:平野 綾/アンドレ・グランディエ:豊永利行/ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン:加藤和樹 ほか/ナレーション:黒木 瞳

主題歌:絢香『Versailles - ベルサイユ - 』

©️池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会 

撮影/森川英里 取材・文・構成/久保田梓美 企画/木村美紀(yoi)