yoiのローンチから約2年続いてきたメイクアップアーティスト・吉川康雄さんの連載「世界はキレイでできている」が、ついに最終回を迎えます。そこで、連載1回目から吉川さんのお話を聞いてきた担当編集の木下理恵(集英社yoiエディターズ/マキア編集部所属・副編集長)が、印象的だった過去のお話を含めて対談形式でお届けします。
自分を大切することに気づくと、本当の意味での心地よさや他人をリスペクトできるようになれます
木下:ご好評いただいていた吉川さんの連載が、今回をもっていったん終了となります。吉川さんにとってyoiとはどのような存在でしたか?
吉川:最初にyoiのコンセプトを伺ったとき、単純に『スゴイ!』と感銘を受け、すぐに参加を決意しました。まさに世の中の人が必要にしている媒体だと思ったんです。
木下:yoiはこれまでの出版社にはない形態で、集英社のさまざまな編集部から1名の編集者が編集委員メンバーとして選出されるのですが、マキア編集部からは私がyoiの担当になったんです。そこで、yoiのコンセプトを体現されていて、アンバサダー的にご一緒してくださる方を提案するのに、真っ先に吉川さんが頭に浮かび、オファーをさせていただきました。
吉川:僕が始めたビューティブランド『UNMIX』は“自己肯定”がテーマ。人間らしさに重きを置き、自分を大切にすることから始めたい、ということを提案していたので、yoiのお話を聞いたときに、すごく共通性を感じました。とはいえ、“yoiのために自分が頑張らないと”、なんて気負いは全然なく、ただただ“待ってました!”という思いばかりで(笑)。とにかくyoiとはうれしい出合いでしたね。連載のタイトルが「世界はキレイでできている」と決まったときもすぐに気に入ってしまったほど。そういうのも含めてしっくりきた連載でした。
木下:そう言っていただけると本当にうれしいです。現在、アメリカにお住まいの吉川さんとは、オンラインでいろいろとお話をさせていただきましたね。“自分を大切にする”ことを軸に、目の前の仕事に対する向かい方や行き詰まりやすい人間関係とか。
Vol.5より。『UNMIX』のプロダクトに込められた思いを語っていただきました。
吉川:もともと僕は自己肯定感が低かった。でもいろんなことが起こる人生の中で、“自分こそが自分を労ってあげられるただ一人の人”ということに気づけたことが、生きていくための勇気になったんです。自分へのリスペクトの気持ちが生まれると、他者の存在も同じようにリスペクトすべきものという考えにつながりました。でもそのためにはいろいろな努力とインテリジェントがないとダメなんだと日々感じます。誰にとっても人生は簡単ではないからこそ、UNMIXやyoiを通して皆さんとシェアしたかったんです。
木下:なるほどー、と納得することばかりなのですが、実践となるとなかなか難しいもの(苦笑)。自分(の意見)を大切にするあまり、自分勝手になってしまうんじゃないかとしりごみしてしまう自分もいます。
吉川:Vol.36『私とあなたのセルフラブ』でもお伝えしていますが、“自分を大切にする”と、“自分勝手”の違いは、他者に対してリスペクトがあるかどうか、感謝があるか、ということだと思うんです。例えば、何かがうまくいったとき、自分だけが素晴らしいのではなく、まわりの人のおかげという要素は必ずあります。それに気づいて感謝できるか。誰でも自分だけで今の自分はできていないはず。当たり前ですが、他者あっての自分。だからこそ自分を大切にしつつも、他の人の生き方も大切にしてあげなくっちゃね! 自分とは違う他者の意見を論破する必要もなく、どっちが正しいとか結論を出さなくてもいいんじゃないでしょうか。
近年は、SNSでの辛辣なコメントが問題になりますが、『どっちが正しいか』ということを言葉で戦う必要はありません。そもそも、そこにある答えは1つじゃありませんから。人の個性はいろいろあり、そこには正解がいっぱいあるんです。物事をなんでも“白か黒か”で判別するなんて、そんな不毛なことはないと思うんですよね。
Vol.36より。花は植木鉢を狭いと感じるのか、守られていると感じるのか?
皆さんが目指してほしいのは、“自分が笑顔でいられる環境”を作っていくこと
木下:吉川さんのお話を通して気づいたのは、自分の気持ちの変化。Vol.43『人はみんな変化する』で『年齢に関係なく、誰でもダイナミックに変化し続け、今の自分を作っている』という言葉は、ハッとさせられました。自分自身、その日その日の体調や心情で、他人から受けた言葉や態度の受け取り方が全然違うんですよね。昨日は大丈夫だったのに、今日はイラっとしてしまったり。特に気持ちは、毎日大きく変化していることを改めて実感しました。
吉川:自分の状況によっての気持ちの変化は確かに大きいですよね。うちも娘がティーンエージャーだった頃、彼女のまわりでいろいろなことが起こり、メンタル的に本当に大変でした。そのときに僕たち家族ができたのは、『僕たちは絶対的に味方だと』ということを伝え続けたことでした。そして少しずつ会話ができるようになりました。21歳になった今は、アート系の学校に進み、そこで自分の居場所を見つけ、自分は孤独ではないということを感じたようで、最近はとても落ち着きましたけど。
木下:出会いと新しい居場所があって本当によかった。そんな経験があって、Vol.11『家族、パートナー、友人との距離感って?』のお話になったんですね。
吉川:どんなに幸せにそうに見えても『すべてに満足して自分はOK』なんて人は、おそらくいないんじゃないでしょうか。さまざまな悩みがある中で、笑顔になれることを目指していろいろな努力をしていると思うんです。たとえ今まで苦労やネガティブな出来事に遭遇していなかったとしても、長い人生をそのまま終わることなんて残念だけどないはずだから、どんな人にとっても他人事ではないと思うのです。
例えば自分のメンタルを蝕まれるような苦手な人の近くにいるようなら距離感を取るしかないと思います。自分を対等に認めてくれないような人とは一緒には居られませんからね。
生き方や考えは違っていても、“自分が自分らしく笑顔でいられる環境”を作っていくのは、誰にとっても大切なことだと思うんです。
Vol.43より。静かだけど、毎日変化しているカボサンルカスの夕日。
木下:こうしてお話をしていると、いつまでも話題が尽きませんね(笑)。“自分を大切に”“自分が笑顔でいられる環境を作る”を、心に刻み込みたいと思います。最後に、読者にひと言お願いします。
吉川:始まったものは、必ず終わりを迎えます。ただただ、皆さんにありがとうございました、ですね。yoiの連載で僕の考えをシェアできたのはとても有意義でした。
僕はこの夏に長年患っていた膝の手術をしたのですが、2カ月経った今でもまだ痛みがあるんです。寝ても覚めても痛いから、リハビリを頑張ろうと思っていても、しょんぼりしちゃうんです。人ってやっぱりメンタルの部分が大きいんですよね。でも、多くの人に支えられることで、頑張ろうとする自分がいる。結局、人は他人によって強くなれるんです。だからこそ、これまでも、そしてこれからもずっと、みんなに感謝をしていきたいと思っています。
取材・文/藤井優美(dis-moi) 撮影/Mikako Koyama 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)