仕事、友情、妊活etc…20代後半から30代のyoi読者には、モヤモヤの種がいっぱい。簡単に解決することではないけれど、マンガを読んでちょっと心が軽くなったらうれしいですよね。『女子マンガに答えがある』などの著書で、マンガを通して生き方のヒントを提示してきたトミヤマユキコさんに、読者から寄せられたお悩みに効く“処方箋”のような一冊を選んでいただきました。
お悩み:仕事と妊活、どちらを選ぶべき?
「現在32歳で社会人10年目。責任ある仕事を任されたり、成果を出して達成感も持てたりと充実しています。これまでやってきた仕事にはある程度満足した結果が出せたので、まだ体力もある今のうちに転職や部署移動などで別のことにもチャレンジしてみたい…と思っています。そして、妊活・出産をするタイミングもそろそろ考えなければとも思っています。ただ、今妊娠してしまうと、仕事でチャレンジしてみたいことができないのではないか、逆に今妊活をしないと、後から不妊治療などが大変になるかもしれない…そのジレンマで、日々悩んでいます」
トミヤマ's 処方箋:おかざき真里著『胚培養士ミズイロ』
おかざき真里著『胚培養士ミズイロ』(小学館)
©おかざき真里/小学館
STORY
顕微鏡を覗いて精子と卵子を自らの手で受精させ、命を導く不妊治療のスペシャリスト・胚培養士(はいばいようし)。胚培養士の主人公・水沢の働くクリニックには、さまざまな不妊の悩みを抱える患者たちが日々訪れる。現在、14人に一人が体外受精で生まれる日本の、不妊治療現場のリアルを描く医療ドラマ。
仕事と妊活は二者択一? そう思っているあなたに読んでもらいたい
トミヤマさん:まず、いただいたお悩みを読むと、仕事に関することからは、「やりたい」という願望を、妊活・出産については、「せねば」という義務感を強く感じました。つまり、仕事と妊活・出産、この2つが同じ熱量で天秤にかかっていないんですね。さらに、この2つのどちらか一方に全振りしなければならない、と二者択一で考えている印象を受けます。そんなあなたに紹介したいのが、お仕事マンガの名作『サプリ』の作者、おかざき真里さんが、不妊治療の最前線の現場を描いた『胚培養士ミズイロ』です。
腕利きの胚培養士である水沢さんのクリニックには、死期が近いおばあちゃんにどうしてもひ孫の顔が見せたくて治療を頑張っている人や、血筋を絶やさないために子どもを産もうとしている梨園の妻など、さまざまな事情を抱えた人が訪れます。そのなかに、女優をやりながら不妊治療を続けている人がいるんです。相談者さんには、この話を特に読んでいただきたいです。
自分の「want」を見つめ直してみて
仕事と不妊治療を同時並行することは、すごく大変なこと。でも、それに取り組んでいる人がいる。相談者さんも本当に、仕事と妊活のどちらかを取って、どちらかを捨てなければいけないのか、また、自分はどうしたいのかをこの女優さんのケースを見て、今一度考えてみてはいかがでしょうか。
ここからはちょっとネタバレになりますが、この女優さんは、どちらかひとつではなくて、不妊治療と仕事の両輪があるからこそ、前進できる人として描かれています。やりがいのある女優の仕事も続けていきたいけれど、子どもを産むこともあきらめたくない。この2つの願いは、彼女に二者択一を迫るものではなくて、彼女の背中を力強く押し、前に進む力をくれるガソリンなんです。
相談者さんも、自分の願望、つまり「I want」の「want」の部分が何であるかをマンガで再確認して、その「want」を大事にするためにはどうすればいいか作戦を立ててみてはどうでしょうか。そうすれば、今いる暗いトンネルみたいなところから抜け出せるかもしれないなと思います。
まだ妊活は考えていなくても、知っておくといいことがある
この作品は丁寧な取材を重ねて描かれているので、私自身読んでみて、妊娠・出身に関する医療の最前線の勉強にもなりました。まだ将来のことは考えていないという方も、知っておくと役に立つ情報がいっぱい詰まっています。例えば、不妊の原因のほぼ半数は、男性側にもあるということ。もし、男性側に原因があった場合、どうパートナーとコミュニケーションを取ればいいのかといったことについてもヒントが得られます。
今、日本は不妊治療当事者と、そうでない人の間に壁があると思うんです。その両者の壁を薄くしてくれるという意味でも大事な作品だと思いますし、主人公の持つ高い技術と患者への真摯な向き合い方によって、物語はあくまで光を求めて明るい方向に展開して行くので、不妊治療のことをよく知らないがゆえに不安感を抱いている方が読むと、少し前向きな気持ちになれるんじゃないかとも思います。
撮影/井手野下貴弘 取材・文/海渡理恵 企画・構成/木村美紀(yoi)