今話題の漢方薬店『LAOSI』。代々木公園にほど近い、渋谷区の神山町にある店舗では、令和のくすりやこと、店長の松浦さんが漢方初心者にも優しく教えてくれるのだとか! 街中で見かける漢方薬局・薬店とどう違うの? 漢方のカウンセリングとは? 気になっている人も多いのでは? そこで今回は、実際に日々漢方やサプリを取り入れつつも、なかなか心身の不調が改善されないエディターが『LAOSI』のカウンセリングを受けてみました!

教えていただいたのは
松浦 尚子(まつうら ひさこ)

漢方薬店『LAOSI』店長・薬剤師

松浦 尚子(まつうら ひさこ)

北海道生まれ。漢方薬局を営む両親のもと、幼い頃から漢方が身近な環境で育ち、自身も薬剤師の道へ。薬剤師として多くの病院や調剤薬局に勤務。2021年から縁あって『LAOSI』の立ち上げに参画。養生や漢方によるセルフケアをより身近にするべく、店頭に立つ日々。最近ではインスタライブや商業施設でのPOPUP、音声メディアでの発信など活躍の幅を広げている。

東京渋谷 漢方 漢方薬店 LAOSI 店内

感度の高い人がこぞって訪れると話題! 東京・渋谷区の漢方薬店『LAOSI』とは?

スタイリッシュな外観なのに、どこか懐かしさを感じて思わず暖簾をくぐってしまいたくなるような店構え。扉を開けると心地いい音楽と、ウッディさの中に爽やかに広がる柑橘系の香り。ゆったりとした時間が流れる空間の中で、松浦さんが笑顔で出迎えてくれました。

——とっても素敵な店内ですよね! 漢方薬のディスプレイもスパに隣接したブティックのようで思わず見入ってしまいます。まずは、『LAOSI』のコンセプトについて教えてください。

松浦さん
:皆さんが思う漢方って、すごく取っつきにくくて、入りにくい。なおかつ値段高い…というようなイメージじゃないですか? それを払拭したくて、『LAOSI』は誰でも気軽に入れるところ、漢方の間口を広げるをコンセプトとしたカフェのような漢方薬店です。気になった漢方薬を手軽に試してもらえるように、1包から購入できるようになっています。

購入した漢方薬や、漢方薬膳茶や季節ごとの限定ドリンクを店内で飲むことも可能。テイクアウトできるオリジナルのお菓子「養生バー」もあります。実はこれ、yoiにも登場していた国際薬膳師の有田千幸さんと養生の話をしていたときに、体に優しいものを食べたいけれど、コンビニで選ぶのはなかなか難しいよね、という会話をしたのがきっかけなんです。それなら一緒にやろう!と、作ったものなんですよ。グルテン、添加物はもちろん、動物性原材料もフリーなんです。

——松浦さんが漢方の世界に入られたきっかけも教えていただけますか。

松浦さん
:私の実家は、北海道の田舎にある小さな薬局を営んでいて、両親ともに薬剤師だったんです。小さいときから何かあればまず漢方が出てくるのが当たり前だったんですよね。自然な流れで両親と同じ薬剤師の道を歩み、西洋学や中医学を学んでいくうちに、もっとセラピストのような立場で、心身の不調に悩んでいる人のお手伝いができたらいいなと考えるようになったのがきっかけです。

——私自身、定期的に漢方薬局で漢方を購入していたんですが、先生が淡々と症状をPCに打ち込んで、10分くらいでお会計をして終了という感じでちょっと寂しくて…。『LAOSI』に来てみたら、まだ10分も経っていないのに、こんなにリラックスしていることに驚いています(笑)

松浦さん:入っていらしたときは、すごく息が上がっていて緊張感が伝わってきました(笑)。私が常に意識しているのは、来てくれた人にまずはリラックスしてもらうこと。そのためには、私もオープンマインドでありつつ、その空間の中でお話を聞くと、本人が感じていることや気がついていること以上に、いろんなことが引き出せるんです。私は体に触れられない分、その人の話し方や立ち振る舞い、声の大きさ、そのすべてが情報源なので、よ~く見ていますよ!(笑)

皆さん、自分のことは自分でケアするとなったときに、どうしたらいいかわからないという人が多いと思うんですよね。カウンセリングで今の生活のこの部分が不調を作り出しているから、ちょっとやめてみたら?みたいなアドバイスをして、そこから“養生”として、生活習慣や食生活のこともお伝えしています。必要だったら、そこに漢方薬でお手伝いしたりもします。

東京渋谷 漢方 漢方薬局 LAOSI 店内 店内メニュー カフェ

漢方の体質について

松浦さん:漢方の体質タイプって一見難しいように見えますが、実は考え方はシンプルなんです。元となるのが、人の体の中を巡っているエネルギーである「気(き)」、血液と栄養の「血(けつ)」、水分の「水(すい)」。気血水のバランスが取れていることが心身ともに健康である状態と考えますが、気血水のバランスがくずれている場合は、どれがが足りないのか、もしくはたまっているのかを診ていきます。

よく私は「〇〇タイプ」、あなたは「〇〇タイプ」ってひとつに当てはめがちですが、大体皆さん複数のタイプに当てはまります。気・血は陰と陽の関係にあり、切り離すことができず一緒に動いているので、気・血が足りなければ、必要なエネルギーや血液が少ししか作られず体の中で詰まりやすい状態になります。と同時に、滞る部分も出てくるというわけです。

東京渋谷 漢方 漢方薬店 LAOSI 店内 五臓別こころの不調 図

五臓別こころの不調

気虚…気が不足している
気滞…気が停滞している
血虚…血が不足している
瘀血(おけつ)…血が停滞している

陰虚…水が不足している
水滞…水が停滞している

東京渋谷 漢方 漢方薬店 LAOSI 店内 オーナー 薬剤師 松浦尚子さん

漢方薬の種類について

松浦さん:漢方薬は、生薬を水で煮出して作る「煎じ薬」、煎じ薬をインスタントコーヒーのように吹き付けて乾燥させて作る「エキス顆粒剤」、エキス剤をカプセルに入れた「カプセルタイプ」、生薬を細かく砕いたり粉末にする道具で粉砕し、ハチミツと混ぜて丸めた「丸剤(かんざい)タイプ」などがあります。風邪の引きはじめに適した『葛根湯』のように“湯”の文字がつくものは、煎じ薬のことを指しています。エキス剤であれば、お湯で溶いて服用すると煎じ薬に近づきますね。

漢方薬局・薬店に行かれた人ならわかると思いますが、価格は煎じ薬が最も高価で、その次にエキス顆粒剤、そして錠剤がきます。煎じ薬は生薬の成分を直接取り入れられるので、断然効果が優れています。錠剤は基本的にコーティングが固いため、効くまで時間がかかるといわれています。煎じ薬と同じような効果を出すためには、それだけの期間と金額をかけてないと相当しないぐらい。

『LAOSI』でもお客さまが本当に辛い症状の場合は、その人に合わせて煎じ薬を処方しますが、
長い期間は必要ありません。多くても一週間分くらいがほとんどです。それぐらいすごい効き目なんですよ。ガツンと効くので、皆さんミラクルだって驚かれますが、自分の力をちょっと見くびりすぎてる気がします。煎じ薬もすごいけれど、それ以上に人間が持つ自然治癒能力ってものすごい! 自然治癒能力を最大限に活用しながら、漢方薬を取り入れていってほしいなと思います。

『LAOSI』の処方の基本のキは…食養生

東京渋谷 漢方 漢方薬店 LAOSI 店内 薬膳 食養生 食材

松浦さん:すべての「気・血・水」が生まれる場所が“胃腸”です。血を巡らそうと思っても、そもそも血がつくられていなかったら巡りようがないですよね。胃腸を整えることで血が増えていくわけです。そのために必要なのが、食生活の見直し。

消化の悪い食べものや小麦製品やカフェイン、体温より低い食べものや飲みものはできるだけ避けて、基本は和食をおすすめしています。暑くてどうしても冷たい飲みものが飲みたい!というときは、冷たいものを飲んだあとに必ずお湯を飲んだりして、体を温めることが大切。そうして胃腸を休めることが第一段階の指導になります。

皆さん、不調に対して、じゃあビタミンCやサプリメントをとろうみたいに、プラスすることには慣れていて過剰に足していってしまうんです。でも、それをマイナスすることで、体がとてもラクになる。サプリメントを飲んでいても、体が栄養を吸収できる状態じゃないことが多いんです。それって、金銭的にも勿体ないですよね。なので、サプリメントをとるなら、まずはインスタントでもいいから、毎日一杯お味噌汁を飲んでみてください。それだけで腸内環境が変わって、自律神経も整います。体の調子が整って栄養を吸収できる状態になったら、サプリメントはまた再開してもいいし、何ならもうサプリメントがいらないくらい調子がいい!なんてこともよくあるんですよ。

急にサプリメントをやめる
ことに不安を感じる人もいるかもしれませんが、1カ月ではなくて、1週間、数日だけトライしてみましょうか。となると、気持ちがラクになりませんか? 例えば1日2、3杯飲んでいたコーヒーも1杯にしてみるとか。最初からストイックにすると、途中で嫌になってしまうので、できる範囲で無理なくやっていくことがポイント。それで体感を得られると、あえて自分でこっちのほうが体が楽だから、むしろ積極的に改善していきたいという状態になります。ぜひやってみてください!

漢方で改善される? 女性エディターの悩みは…疲れやすさ・イライラ感

東京渋谷 漢方 漢方薬局 LAOSI 店内 カウンセリング オーナー 薬剤師 松浦尚子さん 

まず初めに、問診票に体質の悩みや既往歴、今現在飲んでいる薬やサプリメント、漢方薬を記入します。筆者の場合は近所の漢方薬局で処方してもらっている女性特有のイライラや不安感に効くものや、肌にうるおいを与えるもの、血をつくる働きがある漢方名を記入しました。

——子どもが2人いるのですが、家だと怒ってばっかりなんです。そんな自分が嫌になりつつ、気づいたら「疲れた~」が口癖になっていたりして。

松浦さん
:すごく大変な時期ですよね。それでは、舌の表と裏を見せてください。(エディター舌を見せる)なんでそんなに脱水してるんだろう? 舌にひび割れがあって、すごく脱水してるんですよね。うるおう作用のある漢方薬を飲んでいるのに、うるおっていない。お店に入ってきたときの様子や舌の出し方から、緊張型なタイプというのも伝わってきました。酸っぱいものをとりすぎていませんか?

——喉が渇いたという感覚があまりなくて、日頃から水分はあまりとっていないと思います。梅干しやレモンが大好きで、酸っぱいものを食べたい!という思いがつねにあるかも。お菓子を買うときは、カリカリ梅や某梅シリーズ、レモンの輪切りなどを選んでいました。

松浦さん
:ただ単に酸っぱいものが好きではなくて、人間はストレスや緊張感を感じると酸味をとりたがってしまうんです。酸のものって胃酸と同じで、酸が強すぎると胃に負担がかかって胃腸の働きを弱めてしまいます。無意識に体にギュッと力が入った状態が続いてしまい、なかなか緩まらない状態になってしまうので、緊張感を取るためにもまずは酸っぱいものは控えて。

そして水分量は改善したほうがいいですね。でも、水分をとっても腎が弱いから、ためられないんじゃないかな。
腎陰虚”ですね。漢方でいう腎とは、生殖や成長・発育、ホルモンの分泌、免疫系などを併せ持つ“生命エネルギー”のこと。卵巣機能や女性ホルモンとも深いかかわりがあります。女性は28歳で腎の充実度のピークを迎え、年齢とともに徐々に減っていくんです。

そして出産すると、子どもに精を与えるので腎がガクンと減るんです。そのまま腎が回復する前に、睡眠不足などによって再び腎を消費してしまうから、なかなか回復しない。産後からバリバリ働いているという人に多いんですよ。

東京渋谷 漢方 漢方薬局 LAOSI  図 7の倍数と「腎」の充実度

7の倍数と「腎」の充実度

——まさに…!産後3カ月から保育園に入れて日中仕事しながら、足りない分は夜中の2時くらいまで仕事していました。ヘビーすぎて記憶がすっぽり抜け落ちています(笑)

松浦さん
:それと下半身の冷えも腎を衰えさせてしまう要因のひとつ。一日中座っていたり、立っていたりするような足腰に負担がかかることで、腎は弱ってしまうんです。お仕事も関係していそうですね。

すでに血を補う漢方は飲んでいるけれど、血をつくる土台となる漢方が処方されていないんです。本来は“腎”という土台があったうえで、血や水を補っていくんですが、今の状態は船底に穴が空いている状態。一生懸命注いでも漏れていってしまっています。いちばん必要なのは、“補腎”。うるおいが非常に不足しているので、そこをケアしていきましょう。

また、人間はうるおいで熱を冷ましているので、うるおいがなくなると体の中に乾燥による熱が生じて、冷ませずに暖かい空気として頭にたまっちゃうんですよ。これがイライラの原因。これらは“腎の隠虚”といわれ、腎の中でもうるおいを司るところです。これらを補充するために使用するのが、カメの甲羅です。ぜひ「亀鹿霊仙廣(きろくれいせんこう)」を飲んでみて。

また、補腎の役割がある鹿角という鹿の角が含まれていて、子宮を温めたり、ホルモンの力を上げてくれる作用があります。あとは目をすごく使うお仕事だと思うので、ここもポイント。目を酷使すると血を消耗してしまうんです。ストレスや目を使うことで腎はもちろん、肝も弱りやすくなるのですが、そこをケアしてくれるのが“クコの実”。スープに入れたり、おやつ代わりにとるといいですね。

今は体のうるおいがものすごく足りない状態なので、まずはこれで水分保持能力を上げて。しっかりと船底の穴を塞いで、ちゃんと水がたまるようにしていきましょう!

漢方 薬局 LAOSI 亀鹿霊仙廣(きろくれいせんこう)

亀鹿霊仙廣(きろくれいせんこう) /救心製薬株式会社

——肝心な血をつくる土台となるものがなかったんですね…! ほかにもこれ飲んだらいいよという漢方薬もありますか? 煎じ薬は必要ですか?

松浦さん
必要ないです!(笑)。私はなるべくちょっとで、ひとつのお薬で済ませたいんですよね。そして、その人にとって段階もあります。体が何の準備もできていないのに、いらないものを与えても意味がないから。さらに、漢方薬は極力長く飲んでほしくないので、そのためにも食養生も一緒にやってもらっているんですよ。体が持つ本来の力を信じて、無理せずに改善していけたらいいですね。

撮影/柳 香穂 構成・取材・文/木土さや