小野陽子先生のイラストによる、連載第9回の扉

集英社の女性誌10誌による、1万4000人以上を対象としたアンケートの結果、10代~20代の女性たちには生理前の最終週の時期に、イライラや落ち込み、不安などのメンタルに関する悩みが多くみられることがわかりました。生理前に、特に精神状態が強い場合には、PMDD(月経前不快気分障害)の可能性もあります。PMSとPMDDはどこが違うのでしょうか? 産婦人科医で心療内科医の小野陽子先生にお答えいただきます。

今月お話をうかがうのは…
小野陽子先生

産婦人科医/心療内科医

小野陽子先生

日本産科婦人科学会専門医。日本女性医学学会専門医。日本女性心身医学会認定医。女性の心身の不調の背景には社会的・環境的要因が影響していると感じ、産婦人科研修後、心療内科でも研修。女性が自分自身で心と体の対話を大切にできるようサポートしていく女性医療を心掛けている。近日、Addots GINZA「女性の心と体の相談室」を開設予定。

PMDDとはどんな病気? PMSとはどこが違うの?

増田:PMS(月経前症候群=premenstrual syndrome)の症状のうち、イライラや気分の落ち込み、不安、怒りっぽいといった精神的な症状が重い場合は、PMDD(月経前不快気分障害=Premenstrual Dysphoric Disorder)の可能性があるとのことですが、PMDDとはどんな病気でしょうか?

小野先生:おっしゃるとおり、さまざまな不調が起こるPMSの中でも、"特に精神的な症状が重く、一年間のほぼすべての月経前に、日常生活や社会生活に非常に大きな支障をきたすもの"はPMDDと呼ばれます。

これはPMSと別の病気というわけではなく、「PMSの中でも精神的な症状が重いタイプ」と考えられています。PMSもそうですが、PMDDは月経周期に伴って起こる女性特有の症状なので、まわりの人に理解してもらいにくく、一人で悩んでいる方も多いのではないかと思います。PMSとPMDDの症状を一覧にしてみましたので、参考にしてみてください。

PMSとPMDDの症状の違い

PMDDはどうして起こるの?

増田:生理前になると、対人関係に摩擦が生じるほど情動が不安定になるPMDD(月経前不快気分障害)は、2013年に診断基準がつくられた比較的新しい病気なのですね。PMDDの原因やメカニズムはわかっているのでしょうか?

小野先生:残念ながら、いまのところ原因やメカニズムは明らかになっていないのです。ですが、PMSやPMDDはプロゲステロン(黄体ホルモン)が分泌されている黄体期に症状が出現し、プロゲステロンが低下する月経の時期にはやわらいでいきますので、プロゲステロンが症状になんらかの影響を与えていると考えられています。

ただ、血液中のホルモン量と、PMSやPMDDの症状やその程度との間には、直接の関係はないことがわかっています。

大切なことは、PMSもPMDDも、「女性ホルモンの過不足」や「女性ホルモンバランスの乱れ」があるから起こるものではないということです。卵巣に病気があるわけでも、卵巣の働きが悪いわけでもない。むしろ、ちゃんと女性ホルモンが分泌されていて、排卵があり、月経の周期が整っている女性に起こる症状なのです。

女性ホルモンの1カ月のリズムグラフ

【ひと月の女性ホルモンのリズム(変動)】
女性の体には、およそひと月の月経周期があり、このグラフのようなホルモンのリズムを毎月繰り返しています。PMSやPMDDは、排卵を伴う女性のホルモンリズムの中で、排卵から次の月経までの間の黄体期に起こるのです。

家族に当たってしまう、まわりに迷惑をかける…と悩む人が多くいます

増田:読者の声を改めて見てみると、「家族に当たってしまう」「人間関係が絡むことがつらい」などの声が多くあります。

「生理前にすごくイライラして家族にひどい態度をとってしまう。腹痛で、横になっていないとダメ」
「情緒不安定状態になり、まわりに迷惑をかけそうで怖いです。外では気持ちを保ってはいても、家に帰ってからがつらい…」
「生理前の期間は人との関係を良好に送れません」
「生理前だけ、悲しくなったり、ムカムカしたりする。すごく落ち込むときもあります。そんな不調を頑張って隠そうと、ニコニコ笑顔で仕事するのがつらい。また、隠しきれずに、ときどき人に当たってしまう自分が嫌になります」
「小さなことでイライラして家族に当たってしまう。友達との関係が面倒になって、口数が減って心配させてしまう」
「生理前は、憂鬱な気分で夕食を作ることすら手をつけられず、家族に迷惑をかけてしまう」

こんな症状なら、病院を受診していいのですよね?

インタビュー中の増田さんと小野先生

インタビュー中の増田さん(左)と小野先生(右)

小野先生:ここに挙げていただいた症状は、PMDDでとてもよくみられる症状です。ぜひ病院を受診していただきたいですね。受診の目安は、「自分がつらい」と思うかどうかです。どんな形でも、つらいと思うようならためらわずに受診してください。

つらさには、症状の重さだけでなく、対人関係への支障や日常生活の問題などももちろん含まれます。病院で相談・治療を行うことで、つらい症状を改善して、自分らしい生活を取り戻すことにつながります。治療法については次回、詳しくお話ししますね。


 


増田:小野先生、ありがとうございます。次回は、PMDDの症状を具体的に改善する方法について、さらに詳しく伺います。

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

撮影/島袋智子 イラスト/itabamoe Photo by Boyloso/iStock/gettymages 取材・文/増田美加 企画・編集/浅香淳子(yoi)