「PMDDのイライラが止められない」「甘いもの欲求とイライラが同時に来て止められない」「何もしたくない」「理由もなく泣いてしまう」「彼とケンカばかり…」などなど、集英社の女性誌10誌によるアンケートでは10~20代の女性たちのPMDDの悩みがたくさん寄せられました。今回も、産婦人科医で心療内科医の小野陽子先生に、読者の相談にのっていただきました。
産婦人科医/心療内科医
日本産科婦人科学会専門医。日本女性医学学会専門医。日本女性心身医学会認定医師。女性の心身の不調の背景には社会的・環境的要因が影響していると感じ、産婦人科研修後、心療内科でも研修。女性が自分自身で心と体の対話を大切にできるようサポートしていく女性医療を心掛けている。近日、Addots GINZA「女性の心と体の相談室」を開設予定。
PMDDの止まらないイライラ、どうしたら?
増田:読者のみなさんからのPMDDの悩みでとくに多かったのが「止められないイライラ」でした。
「PMDDだとわかっていても、イライラしてどうしても止められない。自分に疲れる。生理になったらなったで、今度は痛みとの闘いで、鎮痛薬が手放せないです」
「ただイライラしてしまい、頭痛と眠気でさらにイライラ。負のループになります」
「とにかくなんでもストレスに感じて負担が大きい。車通勤なので運転中のイライラが事故に繋がりそうで怖い」
「イライラが止まらない、同時に甘いものが食べたくて仕方がない」
このような悲痛な声に、アドバイスをお願いできますでしょうか?
小野先生:イライラは、脳内のセロトニンの分泌が低下することで起こる症状です。セロトニンの分泌の低下は、女性ホルモンのプロゲステロン(黄体ホルモン)が月経前に変動することで起こると考えられています。月経前にイライラが増えるのはこういったメカニズムが関与していると推察されています。
ですから、イライラすることで自分を責めないでください。イライラして些細なことも我慢できなくなるのは、生物学的なメカニズムから考えると必ずしも異常とは言えないのです。また、自分のイライラへの気付きは、今後の症状改善に繋がる重要なポイントです。
イライラして甘いものが食べたくなる、眠くてコーヒーをたくさん飲んでしまうというのはよくあるパターンですが、残念ながら、これは症状を軽減するどころかますます悪化させる習慣です。この時期だけは、カフェインと砂糖を減らしましょう。また、喫煙はPMDDの症状を4倍増悪させるというデータもありますので、禁煙を心がけましょう。この時期は、いつも以上にゆったりと過ごす意識が必要です。意識的に日程を詰めないように調整をしてみることも有効です。
また、PMDDやPMSがある人が生理痛もつらい、というのもよくあることです。PMDDのイライラも、つらい生理は生理現象ではなく、れっきとした病気なのですから、我慢せず、ぜひ婦人科を受診し肥料を始めてみてください。PMDD、PMSやつらい月経痛に悩む方は、低用量ピルなどの薬剤で治療すれば改善されることも知っていただきたいです。若い方や初めての方は特に、内診(女性生殖器の触診や視診)を不安に思う人もいるかもしれませんが、PMDDやPMSの診察でしたら、最初は内診も行いませんし、相談だけでももちろんOKです。心の症状が重いなど、必要な場合は精神科や心療内科と協力して治療に当たらせていただきますのでご安心ください。
3児の母としても多忙な日々の中、精力的に女性医療に力を注ぐ小野先生
やる気がなくなる、落ち込んですぐ泣いてしまう…
増田:やる気が起こらず、不安でネガティブなことばかり考えてしまう、すぐ泣いてしまう…というPMDDの症状に悩んでいる人もたくさんいます。
「何もかも面倒くさくなる。何もかもやる気をなくしてしまう」
「悲観的になってしまい、自分がいなくてもいいんだと考えてしまう」
「生理前になると全てのやる気がなくなる。体全体がむくむ。便秘になる」
「生理前すごく気分が落ち込んで、少し怒られたり、イヤなことがあっただけで泣いてしまう。不安感と絶望感が強くなり、ネガティブなことしか考えられない」
「ちょっとしたことで、すごく凹んでしまい、泣いてしまう。職場でもこうなることがあるので困っている」
「生理前のうつ状態がひどい。時には死にたいとまで思うことも…」
また、不安とイライラ、両方の感情に押しつぶされそうになっている人もいますね。
「わけもなく不安になって泣いたり、無性に他人の言動にイライラしてしまったり、情緒不安定になる」
「生理前になると、途端にふさぎ込み、うつっぽくなり、さらにイライラして何もやる気が起きなくなる」
小野先生:不安、落ち込みなどの内向きの気分低下と、イライラ、怒りっぽいなどの外向きの気持ちは、一見、真逆に見えますが、実は本質は同じところにあります。脳内のセロトニンの影響を受けて、情動が不安定になっているのです。「自分なんかいなくてもいい、いっそのこと消えてしまいたい、絶望感が強い」などの強い気分の変動は、非常に危険なサインです。すぐに精神科を受診なさってください。治療を行うことで本当に過ごしやすくなります。
そして、必要な治療をして気持ちが安定すれば、自分が望むやりたいこと、楽しいことがたくさんできます。治療を行なって症状が落ち着いて来られると、「どんなに自分がつらかったがよくわかりました。もっと早く来ればよかった」と、多くの方がおっしゃいます。ぜひ、医師を頼ってください。
体調と気分が少しよくなったら、「静」から「動」の順番で動いてみましょう。まずは好きな映画やテレビを観たり、音楽を聴いたりしてリラックスできるといいですね。近所の公園などで、外の空気を胸いっぱい吸ってみるだけでもいいんです。花や植物を見たり、空を見上げたりしながら散歩するのもおすすめです。
「出かける気力も体力もない、自分ひとりになれる部屋がない」という方は、好きな入浴剤を入れて、ゆったりとしたバスタイムを自分にプレゼントするのもいいでしょう。お風呂はすぐに用意ができてリラックスできる、自分だけの贅沢な空間です。
PMDDでパートナーとケンカばかり、どうしたらいいの?
増田:生理前の時期に、毎月、家族や夫、彼に当たってしまって、ケンカして自己嫌悪に陥ってしまうという方もたくさんいらっしゃいました。
「イライラしてしまって、彼と喧嘩になってしまう。もともと腰痛があるのですが、さらにひどくなってしまってキツイです」
「生理前のイライラで彼に八つ当たりをしてしまい、自分がどんどんイヤになって泣いてしまう」
「彼が浮気してないかとか不安が募る。頭の回転が悪くなり、体も思う通りに動かない」
「パートナーへ八つ当たりして、家ではすぐ不機嫌になってしまう」
「PMDDがひどいときは、話そうとすると号泣してしまい、会社や夫に迷惑をかけるのがつらい」
「生理前や生理中にイライラして、家族や彼にあたってしまう。腹痛や眠気で、横になりながら耐えているため、勉強がはかどらない」
止められないイライラと自己嫌悪…本当につらいと思います。治療してPMDDがよくなるまでの間、何かいい解決法はないでしょうか?
小野先生:パートナーや家族にイライラをぶつけてしまい、ケンカしてしまうというご相談はとても多いです。自分の大切な人にイライラをぶつけてしまったあとは、とても落ち込みますよね。
対策としては、まず、怒りの標的になってしまう相手に、ご自分のPMDDのことをぜひ話してください。PMDDの症状が現れる月経前ではなく、体調がよくて気持ちが安定している時期(月経後の1週間)がおすすめです。相手がPMDDという病気のことを知らないと、あなたへの誤解につながっている可能性もあります。イライラは、あなたの本来の性格や言動ではなく、病気が原因であることを知り、理解し、協力してもらうのです。
PMDDでは症状が出てくる時期が予測できることを有効に使って、「今月は来週がしんどい時期なの」とあらかじめ伝えておきましょう。そして、パートナーや家族には、家事などの肉体的・精神的な負担を減らしてもらうよう協力してもらいましょう。やらなければならないという気負いが減ると、心に余裕がもてます。
また、あなたから相手へのリクエストは、できるだけわかりやすく具体的に伝えましょう。たとえば「家事の〇〇を請け負ってほしい」「○月×日(月経4日目頃、自分の症状が落ち着いてくる日)までは私は荒れることが予想されます」「この時期はひとりにしておいて」「私がPMDDのせいできつく当たってしまうことを気に病まないでほしい」など。
精神科、心療内科を二人で受診するのもいいと思います。婦人科も、予約のときに話しておけば、カップルで受診できるところもあり、医師からPMDDやあなたの不調の状態を説明してもらうこともできます。ひとりで抱え込まずに、ぜひ専門家である医師に相談してください。
増田:小野先生、3回にわたって、PMDDについて読者の悩みに答えていただいてありがとうございました!
撮影/島袋智子 イラスト/itabamoe Photo by Boyloso/iStock/gettymages 取材・文/増田美加 企画・編集/浅香淳子(yoi)