小野陽子先生のイラストによる、連載第10回の扉

10代~20代の女性たちの声を聞くと、生理前に心の症状が強く起こるPMDD(月経前不快気分障害=Premenstrual Dysphoric Disorder)に悩んでいる人が少なくありません。イライラや落ち込み、不安などのメンタルの悩みがたくさんあることがわかりました。「PMDDになりやすい人は?」「どう対処すればいい?」について、産婦人科医で心療内科医の小野陽子先生に伺いました。

今月お話をうかがうのは…
小野陽子先生

産婦人科医/心療内科医

小野陽子先生

日本産科婦人科学会専門医。日本女性医学学会専門医。日本女性心身医学会認定医師。女性の心身の不調の背景には社会的・環境的要因が影響していると感じ、産婦人科研修後、心療内科でも研修。女性が自分自身で心と体の対話を大切にできるようサポートしていく女性医療を心掛けている。近日、Addots GINZA「女性の心と体の相談室」を開設予定。

PMDDを起こす人とそうでない人がいるのは、なぜ?

増田:生理(月経)のある日本女性の約70~80%が、月経前になんらかの症状があるといわれています。なかでも、生活に支障を感じるほど強いPMS(月経前症候群)のある女性の割合は約5.4%で、特に思春期の女性はPMSが多いともいわれています*1。またPMDDは、月経がある女性の1.8~5.8%程度の割合だそうです*2。
PMDDになりやすい人の特徴はあるのでしょうか?

*1 月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)|公益社団法人 日本産科婦人科学会 (jsog.or.jp)
*2 DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル; 日本精神神経学会日本語版用語監修, 医学書院: 171-174, 2014

小野先生:PMDDになりやすいのは、以下のような方です。

PMDDになりやすい人の特徴

けれども、PMDDの原因は明確にはわかっていませんので、PMDDになりやすい理由も、ここにあげたものだけではありません。要因はひとつではなく、性格や物事の捉え方の傾向、食生活の偏り、運動不足、喫煙などの生活習慣、環境や対人関係のストレス度合いなどが複合的に絡み合って、症状の現れ方に影響を及ぼしているのではないかと考えられています。

PMDDには、どう対処すればいい?

増田「イライラして人に当たってしまう。PMDDがひどいため薬を飲みたいけれど、市販薬は高いし、人によって違うのでしょうが、私の場合、効果はイマイチ。病院へ行って治療することは可能なのでしょうか?」という読者からの声がありました。PMDDへの対処法を教えてください。

小野先生:まずは、「PMDDかな?」と思ったら、月経があった日やその前後の体調の変化を“症状日誌”に記録してみてください。日誌でなくても、手帳やカレンダーでも、スマホの記録でもいいんです。自分の心と体に何を感じたか、そのとき生活でどんなことが起きたか、書き留めてみましょう。異常を認めた日に印をつけるだけでもOKです。ポイントは、「基礎体温の測定を行わないこと」です。症状日誌は完璧を目指すのではなく、続けてみることがとても重要です。慣れてきてかあ、基礎体温をつけてみても遅くありません。

2カ月くらい続けると、どんな症状が何日間続いているか、症状が起こるときに自分に何が起きているか、きっといろいろなことが見えてきます。予測もできるようになるかもしれません。また、このPMDD症状日誌は病院でPMDDの診断をするときにも役立ちます。

増田:なるほど! 自分が食べたものを記録する(レコーディングダイエット)だけで、ダイエットが効果的になるのと同じですね。予測できれば、対処もしやすいですよね。

小野先生:PMDDかもしれないと私のもとに来院された患者さんの中には、月経周期とはまったく関係なく症状が出ている方も多くおられました。「月経前は体調が悪い」と思い込んでいる方も多く、実際に日誌をつけてみたら、PMSやPMDDではなかったという方もいます。

■PMS(PMDD)症状日記は、こちらのサイトにもあります。参考にしてみてください。
「生理のミカタ」

どんな治療法がありますか?

増田:メンタルの不調の場合、どこを受診すればよいのか迷う方も多いと思いますが、PMDDの場合も婦人科を受診していいのですか?

小野先生:もちろん婦人科でも大丈夫です。月経前に心の症状が強く現れることを自覚しているようであれば、精神科や心療内科を受診していただくのもいいと思います。精神科や心療内科も、ひょっとすると受診しにくいと感じている方もおられるかもしれませんが、体と心がリンクしている病気ですので内科と同じ感覚で受診してもらえると良いと思います。

でも、もし精神科や心療内科の敷居が高いと感じるようであれば、PMDDの疑いが強い場合でも、まず婦人科を受診して問題ありません。状況を確認しながら、必要な場合には、精神科をご紹介させていただきます。

増田:病院ではどんな治療をするのでしょう?

小野先生:治療には大きく分けて、①薬物療法 ②精神療法があります。これらを患者さんのタイプや症状によって、組み合わせて行います。

薬物療法では、PMDDの場合、うつ病や不安症などに効果があるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という薬が有効とされています。海外では、数種類のSSRIが、PMDDの治療薬として使われています。また、婦人科では、低用量ピルを使うこともあります。PMSの身体的な症状には、低用量ピルが効果的です。ただし、PMDDの重い精神的な症状は、人によって改善されないこともあります。PMDDの方にも、症状によっては漢方薬が有用な場合もあります。

また対症療法では、不眠には睡眠導入剤など、不安には抗不安薬や抗うつ薬、頭痛には鎮痛剤、むくみには利尿剤などを検討します。ただ、症状と薬剤を一対一対応で処方するのではなく、他の治療法との兼ね合いを考えながら必要に応じてお出しします。

精神療法は、認知行動療法、マインドフルネス(瞑想)、自律訓練法などが有効とされています。これらの精神療法は精神科・心療内科で受けられることが多く、残念ながら婦人科では行なっていないことがほとんどです。精神療法を希望される方は、まずは精神科・心療内科にお問い合わせの上で受診をしていただくことをおすすめします。

インタビュー中の小野先生

インタビュー中の小野先生

セルフケアで軽くする方法は?

増田:病院に頼ることも大切ですが、自分でケアできることもあれば、教えてください。

小野先生:自分の症状に気付き、きちんと向き合うことは大切ですがなかなか難しいものです。ですが、生活を整えることで、治療薬の効果まで変わってきます。PMDD症状日誌の記録を見て自分のリズムがわかったら、「この時期は無理しない」と割り切ることも大切です。PMDDは月経が来れば症状軽減・回復するので、可能な範囲で仕事の量やスケジュールを調整してみましょう。

もちろん、生活習慣を整えることも心がけてください。夜ふかしをしたり、食事の時間がバラバラなら、規則正しい生活を送れるようにしたいですね。また、お菓子だけ、サラダだけのような偏った食事はできるだけ避けて、塩分控えめで栄養バランスのいい食事を摂ることも症状の安定につながります。

カルシウム、ビタミンD、鉄、ビタミンB群、ビタミンEなどを意識して摂りましょう。ヨーグルト、緑黄色野菜、レバー、ほうれん草などはおすすめ。症状を悪化させるので、甘いもの(精製糖)、チョコレート、カフェイン、アルコールはできるだけ控え目に。禁煙はとても重要ですので、ぜひ心がけましょう。

有酸素運動も症状改善にいいといわれています。ウォーキング、ヨガ、水泳、自転車など、適度な運動は、症状を改善するのに有効です。時間がない人は、1日15分歩くだけ、CM中にスクワットだけでもいいので取り組めそうなところから行なってみてください。音楽や映画を楽しむ、マッサージなどのリラクゼーションに通うなど、普段からストレスをうまく発散できる方法を見つけておくのも有用です。「心地よいこと」「リラックス、リフレッシュを感じられること」は、PMDD、PMSの改善だけでなく、長期的な健康にもプラスになります。

また、自分がストレスに感じることは何かを認識しておくこと。そして、そのストレス源から距離を置いたり、周囲にヘルプを求めることは大切です。




増田:小野先生、具体的なセルフケアをありがとうございます。次回も引き続き、止められないイライラ、落ち込み、不安、そしてパートナーとのケンカなど、読者の方からの相談にのっていただきます。

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

撮影/島袋智子 イラスト/itabamoe Photo by Boyloso/iStock/gettymages 取材・文/増田美加 企画・編集/浅香淳子(yoi)