今年、第一子を出産した性教育YouTuberのシオリーヌさん。連載『SAY(性))HELLO!』では、出産を振り返って思うことや、始まったばかりの育児について、三度にわたってお届けします。Vol.2の今回は、育児にまつわるリアルな悩みや、仕事との両立について聞きました。
新生児の子育ては、大人二人でもいっぱいいっぱい
—— 第1回では、出産当日のお話を伺いましたが、実際、育児を始めてみていかがでしょうか?
つねに寝不足だし、体はあちこち痛むし、使いきった体力を取り戻せないまま次の日が来る、という毎日です。でも今のところ「想像以上に大変で、ほとほと困り果てている」というほどではないかも。私はいつもいちばん最悪の状況を考えて準備しておく性格で、かなりのところまで覚悟していたので…(笑)。
—— 出産直後のつくしさんのインタビューでは、シフト制で子どもを見ていると言っていましたね。
今も変わらずシフトを組んで回しています。しばらく続けてみてわかったのは、新生児の育児って、大人二人でも本当にいっぱいいっぱいということ。うちは実家のサポートなどを受けていないので、今、つくしか私のどちらかが風邪をひいたら、我が家はもう終わり。これがワンオペ育児の場合、親が自分の心か体、どちらかの健康を犠牲にしなくてはどうにも回らないのではないか、と思ってしまうくらいです。
号泣したり傷ついたり、揺れに揺れる産後メンタル
—— 出産してから今までで、特に大変だったことは何でしょうか。
特に産後すぐは、自分の体がまだ本調子ではないのに、なかなか休みがとれなかったことです。産後の出血も続いている、乳首は痛むけれど、母乳はどんどんあげなければいけない…。赤ちゃんは可愛いけれど、体が回復しきっていないところに、さらに大変なことがどんどん積み重なっていくという感じでした。
メンタル面でもかなり変化が。私の場合、やたら"感動屋さん"になってしまって、赤ちゃんを見るだけで可愛くて号泣、退院するときも「いい時間を経験させてもらったな」と号泣(笑)。産後の入院期間って、赤ちゃんと二人きりで育児しかすることがないから、非日常感がすごいんです。もうこんなこともないだろうなと思ったら涙が止まらなくなってしまって。いわゆる"産後ハイ"とは、このことを言うのか、と。
一方では、周囲からの言葉にいつもよりセンシティブになっていた自覚もありました。例えば、赤ちゃんを見た人に「お父さんにそっくりだね!」と言われると、「一生懸命産んだのに、私には似てないの?」と悲しくなったり、「安産でよかったですね〜」と言われると、「それでも大変だったから!」と傷ついたり。
—— 何げないひと言に敏感になってしまっていたんですね。
こればかりはホルモンバランスの問題なので、なかなか対処できるものではないのですが。それでも、自分の状態を客観的に理解して「産後はこういうものだから仕方ない」とわかっているだけで、だいぶ精神的な負担が違うと思います。「攻撃的になってしまうのはホルモンのせいだから、ごめんね」と周囲の人に伝えておくことも大切だと思いました。
仕事復帰に、後ろめたさを感じることへの違和感
—— シオリーヌさんは産後2カ月の育休取得後、最近お仕事に復帰されましたよね。パートナーのつくしさんが1年間の育休を取得されていますが、育児との両立はいかがですか?
赤ちゃんとの生活リズムがようやく確立したところで仕事に復帰したので、もう一度新しいリズムをつくり直しているところです。仕事をしつつ睡眠時間を捻出して、いかに自分の体力をチャージするか、そのバランスは今もまだつかめていないです。
復帰してからの大きな変化は、これまでつくしと私、それぞれが持っていた自分の時間が「二人の共有のもの」になったこと。私が仕事をする場合、その時間はつくしが育児をすることになります。つねに自分と相手のスケジュールを連携せざるを得なくなり、そこは少し心苦しくもあります。
仕事をするにしても、子どもができたときに男性が頑張って働くのは、"当たり前"と思われますが、女性が子どもを産んですぐに仕事を再開すると、「自己実現ができていいね」と思われがち。私も、「協力的な夫さんがいて、恵まれていますね」と言われることが多くて、弱音が吐きづらいなと感じてしまうことも正直あります。もちろん仕事は好きですが、家族を養うために働いている面もあるわけです。それでも、どこかで後ろめたさを感じてしまう部分もある。そこにモヤモヤを感じてしまいます。
産後ケアサービスが "贅沢なもの" でなくなる日を目指して
—— シオリーヌさんたちは、産後ケアサービスを積極的に利用して、その様子をYouTubeで公開していますね。
もっと産後ケアサービスが当たり前になってほしいんです。一部の人たちの"贅沢なもの"ではなく、「誰でも利用してもいいんだ」とか「こんなサービスもあるんだ!」という気づきになったらいいなと思い、積極的に動画にしています。しっかり休むことで心に余裕が生まれて元気に子育てができるし、結果的に産後うつ防止にもつながる。
—— 実際に利用してよかった産後ケアサービスはありましたか?
「産後ケア入院」はすごくよかったです! 母子で入院して病院のサポートを受けられるサービスで、私の場合、産後2カ月の時点で、出産した病院に2泊3日で入院しました。費用は計3万円弱。補助金が出る自治体も多く、比較的安価に利用できます。食事の準備や、掃除、洗濯もしなくていいのでたっぷり休めたし、何より助かったのは、入院中いつでも赤ちゃんを預かってもらえること。授乳以外の時間はほとんど赤ちゃんを見てもらって、原稿チェックや動画の編集、自分の好きなことなどをしてリフレッシュできました。
—— そんな素晴らしい制度があったんですね!
そうなんです。ただ、まだまだ産後ケア入院自体が、"産後うつなど、緊急性の高い母子だけが利用するもの"と考えられている面もあって。もっとリフレッシュ目的での利用が広まったらいいなと思います。どの自治体でも、「子育てが不安」「寝不足で心身が疲れている」などの人は誰でも利用できるようになってほしい。
助産師として病院に勤務していたこともありますが、実際に自分が当事者になって感じたのは、産後ケアがこんなにも救いになるんだ、ということ。産後のお母さんは、ひと晩ぐっすり寝るだけで、心身ともにすごく元気になれる。そこから、「この選択肢をもっと当たり前のものにしていかないとダメだ!」と考えるようになりました。実は今、自分で産後ケア事業を立ち上げようと計画中で。起業に向けて、子育てしながらビジネスプランを練っているところです!
—— それはすごい! 今後の展開楽しみにしています。
次回は、出産を経て大きく変化するシオリーヌさん自身の心と体との向き合い方、
つくしさんとのパートナーシップなどについて伺います。お楽しみに!
取材・文/板垣千春 写真/橋本美花 企画・編集/種谷美波(yoi)