不妊症と診断された人が抱える心の葛藤や不安、孤独感…。不妊治療で抱えるメンタルの悩みをどうケアしていくかは、重要な問題です。5回連載の最後となる今回も、東京大学医学部附属病院で不妊治療に携わる廣田泰先生に伺います。
不妊症の心の悩みのサポートは?
増田:不妊症と診断されるだけでも落ち込むのに、体外受精を何度行なっても妊娠が成立しないと、落ち込み・不安が増し、孤独感に苦しむ人も少なくないのではと思います。
体外受精や顕微授精で妊娠判定検査の結果が出たあと、うつになる人は、女性は4人に1人、男性は10人に1人*というデータもあります。不妊治療を行うカップルに対しての心のケアは重要ですね。不妊治療の人への心のケアは、どのようなものがありますか?
* 欧州ヒト生殖学会(ESHRE)「心理社会的ケアガイドライン」より
廣田先生:不妊治療の施設によりますが、心理的サポートをしてくれるスタッフがいるところもあります。不妊専門のカウンセラーやコーディネーターなどがそうです。
現在、不妊治療に際しては心理面をサポートするスタッフが必要であると考えられていて、生殖医療ガイドラインにも心理的サポートの項目が含まれています。まずは通われるクリニックや医療機関で、心のケアのサポートがないかを相談してみてください。
国は不妊治療への取り組みのひとつとして、「不妊専門相談センター」の設置を進めています。各都道府県や指定都市となっている地域では、不妊専門相談センターが設置され、不妊症に悩むカップルに対して、医学的、専門的な相談や不妊症による心の悩みなどについて、医師や不妊専門のカウンセラーなどの専門家が相談に応じています。併せて、診療機関ごとの不妊治療の実施状況などに関する情報提供も行なっています。
【不妊専門相談センターの全国一覧】https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000181591.html
また、現在は「不妊症・不育症ピアサポーター育成」のための研修事業も行われています。不妊症・不育症の方への精神的サポートとして、医師、助産師、看護師、心理職など専門職による支援だけでなく、過去に同じような治療を経験した方による寄り添い型の「ピアサポート」は重要です。
ストレスになる頻繁な通院。頻度の目安を知りたい!
増田:女性の場合、不妊治療は、頻繁な通院が必要だったり、通院日数の目安がはかりにくいことも不安の原因になりますね。男性も女性の周期に合わせて通院したり、治療への参加が求められることもあり、男性も精神的な負担やストレスを感じることがあると聞きます。企業にとっても、いつ休まれるかわからないのは負担になると思います。不妊治療にかかる通院日数や時間の目安があるといいのですが…。
廣田先生:不妊治療に要する通院日数の目安は、おおむね下の表のとおりです。ただし、日数はあくまで目安で、医師の判断や個人の状況、体調などにより増減する可能性があります。
【不妊治療で通院する日数の目安】
令和4年度診療報酬改訂の概要 不妊Ⅰ(概要、先進医療、医薬品、移行措置)より
廣田先生:例えば、体外受精や顕微授精をして胚移植(子宮に受精卵を戻す)をするときは、毎日注射をして、超音波検査やホルモン測定を行い、タイミングを計って採卵をする、といったステップがどうしても必要になります。平日になんとか会社を休んで診察に行ったら、また2日後に来てくださいと言われることもあると思います。
このように、不妊治療には通院が頻繁な時期があり、また、不妊治療の治療内容がステップアップすればするほど通院回数は増えていきます。そのときに慌てないで済むように、事前に会社や職場に話しておくことが大切です。それが、治療中のストレスや心理的負担を少しでも減らすことにつながります。
日中頻繁に休めない職場にお勤めなのであれば、少し遅めの時間帯まで不妊治療の外来を行なっている医療機関を選んだり、職場に近い医療機関を選んだりするなどの工夫はできるかもしれませんね。
治療先はどうやって選ぶ?
増田:医療機関選びも大切ですね。ちなみに、治療先はどうやって選ぶのがいいでしょうか?
廣田先生:規模の大きい不妊専門クリニックでは、新しい不妊治療もやっていますし、心のケアも含めてさまざまなサポートを行なっています。一方、不妊専門クリニックだと子宮内膜症や子宮筋腫などの手術はできないため、大きい総合病院や大学病院と連携している施設も少なくありません。
東京大学医学部附属病院でも、不妊専門クリニックと連携して、こちらで手術を行い、不妊治療は不妊専門クリニックでしていただくといったこともしています。
日本生殖医学会では生殖医療専門医の資格を認定していて、都道府県別の認定者一覧を公開しています。日本生殖医学会のHPから、資格制度>生殖医療専門医制度>認定者一覧で、都道府県別の生殖医療専門医が検索できます。ここから、お近くの通いやすい医療機関を探してもいいと思います。
増田:保険適用をきっかけに、現在いろいろなサポート体制が動き出していることもわかり、不妊症に悩むカップルだけでなく、これから妊娠・出産したいと思っている女性たちにも有益な情報を提供できたと思います。廣田先生、5回にわたって不妊治療についてさまざまな視点からお話しいただき、ありがとうございました。
東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座 准教授
産婦人科医。医学博士。東京大学医学部医学科卒業。東京大学大学院医学系研究科修了。ヴァンダービルト大学研究員、シンシナティ小児病院研究員留学。東京大学医学部附属病院女性診療科・産科講師ほかを経て、2020年より現職。日本産科婦人科学会 専門医・指導医。日本生殖医学会幹事長、生殖医療専門医・指導医。日本内分泌学会内分泌代謝科専門医・指導医。『治療の難しい不妊症のためのガイドブック』の執筆・編集に携わる。
取材・文/増田美加 イラスト/itabamoe 企画・編集/浅香淳子(yoi)