今年の4月から保険適用になった不妊治療。読者の皆さんが気になる「不妊症になりやすいのはどんな人?」「不妊症にならないようにするには?」「もしも不妊症かなと思ったらどうすれば?」などの不妊症に関する基礎知識を、東京大学医学部附属病院で不妊治療に携わる廣田泰先生に5回にわたって教えていただきます。

廣田泰先生のイラストによる、連載第22回の扉

どういう状態を「不妊症」というの?

増田:最近、20代・30代でも将来の不妊を心配する人が増えていますが、そもそもどういう状態だと「不妊症」とされるのでしょうか?

廣田先生:避妊をせずに妊娠にトライした場合、半年から1年くらいで8~9割の人が妊娠します。このことから、妊娠を望む男女が避妊をしないで性交渉をしているにもかかわらず、1年間、妊娠しない場合を不妊症といいます。

また、排卵がなかったり、子宮内膜症や子宮腺筋症、子宮筋腫があったり、過去に骨盤腹膜炎などにかかったことがある女性の中には、妊娠しにくい人がいることがわかっています。1年間というのはあくまで目安ですので、このような病気があり、「不妊かもしれない」と心配であれば、1年を待たず受診していただいてOKです。

不妊症の定義 イメージカット

不妊症になりやすいのはどんな人?

増田:子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症などがある人は将来、不妊症になりやすいとのことですが、月経痛がひどい場合や月経不順も当てはまりますか?

廣田先生:はい、そうですね。まず、月経痛がひどい人は子宮内膜症の可能性があり、また将来、子宮内膜症になりやすいことがわかっています。そして、子宮内膜症は不妊症に関連する病気です。子宮内膜症の状態によって、不妊症の治療ステップを早めに進めたほうがいいかどうかといった判断もできますから、ひどい月経痛があり、妊娠を希望する人は産婦人科を受診していただいたほうがいいと思います。

今妊娠・出産の計画がなくても、将来妊娠したい、または妊娠を希望するかもしれないという人は、月経痛がつらければ受診することをおすすめします。月経痛や子宮内膜症の治療を早めに開始することで、将来の不妊症を回避できる可能性があります。

また、月経が不順な方は、排卵がうまくいっていなかったり、排卵が定期的に起こっていない「排卵障害」かもしれません。このような場合、子宮体がんなどの悪性の病気とも関係してくる可能性がありますので、ぜひ婦人科を受診してください。月経が定期的にきちんときていない月経不順は、そのままにしておいていい場合とよくない場合があります。診察しないとその判断が難しいのですが、早めにわかれば治療は可能です。

インタビュー中の廣田先生

廣田 泰(ひろた やすし)先生
東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座 准教授 

産婦人科医。医学博士。東京大学医学部医学科卒業。東京大学大学院医学系研究科修了。ヴァンダービルト大学研究員、シンシナティ小児病院研究員留学。東京大学医学部附属病院女性診療科・産科講師ほかを経て、2020年より現職。日本産科婦人科学会 専門医・指導医。日本生殖医学会幹事長、生殖医療専門医・指導医。日本内分泌学会内分泌代謝科専門医・指導医。『治療の難しい不妊症のためのガイドブック』の執筆・編集に携わる。
https://www.gynecology-htu.jp/refractory/

増田:月経の出血量が多い過多月経も、不妊症と関係がありますか? 

廣田先生:はい。過多月経も不妊症と関係する可能性があります。子宮筋腫の中でも、子宮内膜の内側にできる「粘膜下筋腫」があると、過多月経を起こしやすくなります。また、やはり不妊症と関連する子宮腺筋症という病気は、月経痛と過多月経の症状が両方起こるという特徴があります。

もし将来妊娠を望んでいて、月経痛、月経不順、過多月経などの気になる症状がある人は、あらかじめ婦人科を受診して治療しておくことはとても大切だと思います。 

産婦人科の受診はハードルが高いと思っている方も多いですが、気になることがあれば、どんなことでもいいので産婦人科に相談してください。特に、これまで一度も産婦人科を受診していないという人は、将来妊娠を希望するのであれば、不妊の原因となる病気がないか、早めに確認していただきたいと思います。大きな病院は手術が必要な人が受診するケースが多くて受診しづらいと思いますので、まずは近くの産婦人科を受診してみてください。

不妊を避けるためにも、月経痛や子宮内膜症の治療は早めに

将来、不妊症にならないために今できること

増田:将来の不妊症のリスクを減らすためにも、月経まわりの不調がある人は、婦人科を受診することが大切だということがよくわかりました。

廣田先生: お話ししたように、放置していい月経不順かどうかの判断や、重い月経痛がある場合に子宮内膜症がないかを調べておくことはとても重要です。月経痛は薬(低用量ピル、黄体ホルモン剤など)で治療できますし、子宮内膜症の予防や治療効果もあります。

低用量ピルは、月経痛の治療目的だけでなく、特に不調がなくても、月経をコントロールするために使うことも可能です。自分のスケジュールに合わせて、月経をコントロールして生活の質を上げるという選択肢があることを知っておいていただけるといいと思います。低用量ピルは卵巣がんや子宮体がん、子宮内膜症の予防にもなり、その結果、将来の不妊症の予防にもなる。デメリットが少なく、メリットは大きいと思います。

増田 : 妊娠や出産を考えている人にサプリメントをすすめるCMなどをよく目にしますが、こういったものも必要なのでしょうか?

廣田先生葉酸のサプリメントは、今、妊娠を考えているなら飲むとよいと思います。今妊娠を考えていない人に、将来の妊娠・出産のために…とおすすめするものは特にありません。もし今、飲まれているものがあって、それで体調が整うのであれば問題はないと思います。ただし、適正な量を超えてとることは控えてください。

増田:廣田先生、ありがとうございます。次回も引き続き廣田先生に、不妊治療の現状や、今回、保険適用の対象となった治療内容について詳しく教えていただきます。

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

取材・文/増田美加 イラスト/itabamoe 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/浅香淳子(yoi)

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