自身もミックスレイシャルというバックグラウンドを持ち、美術大学の大学院でマイノリティの方々のリサーチを行っている、yoiクリエイターズのくどうあやさん。本記事では、くどうさんが出会ったマイノリティコミュニティに属する方へお話を聞き、どのような思いでそのコミュニティに属し、社会と関わっているのかを深掘りします。

【yoiクリエイターズとは?】
yoiの読者としての目線を生かし、語学やアート、文章表現などのクリエイティブスキルを発揮して、情報を発信していくクリエイターのこと。ビューティーやウェルネス、カルチャーや社会派の記事など、それぞれの得意分野でyoi読者におすすめのコンテンツを毎月配信します。メンバーは25年1月現在くどうあやさん、石坂友里さん、高橋琴美さん。

くどうあや

大学院生

くどうあや

都内の美術大学に通う大学院生。社会問題に関心を持って活動や研究を行う。イラストと文章を書くことが趣味です。

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今回インタビューをさせていただいたのは、ミックスルーツ(複数の国や地域、文化にルーツを持つ人)のコミュニティを主催するマヤさんです。実は私自身も友人からの誘いをきっかけに、半年以上前からコミュニティに参加しています。


今回はマヤさんにマイノリティコミュニティを作ることへの思い、自分自身を大切にするためにしていること、などについて伺いました。

マヤ

コミュニティオーガナイザー

マヤ

1991年千葉県生まれ、人生のほとんどを日本で過ごす。日本語・英語・ポーランド語のトリリンガル。
うつ病と醜形恐怖症の治療をきっかけに、ミックスルーツの見た目とアイデンティティについて考えはじめる。クィア。

マヤさんのミックスルーツのコミュニティってどんなとこ
ミックスルーツの人々が集まる紹介制のコミュニティ。マイクロアグレッションやジェンダー差別などがない、安心して集まれる居場所として食事会やアクティビティなどを企画している。

緩いつながりだからこそ集まれる人たちがいます

——最初に、集まりができたきっかけは何だったのでしょうか?

マヤさん 完全に私一人の思いつきで始めたんです。 私は以前、社交不安、いわゆる対人恐怖症にひどく悩まされていて、社交不安の人の集まりに1年くらい通っていたのですが、つらさを共有できる場所に行ったことですごくよくなったんです。

ミックスルーツの集まりは他にも存在しているんですけど、出会い目的のお花見とか華やかなパーティーが多くて、ゆっくり話せる場所がないことが問題だと思っていたんです。社交不安の集まりのように、つらさを安心して共有できる場所が必要だと思っていて。 そこで、社交不安の集まりをそのまま真似したコミュニティを私がつくろうと思い、何人かに声をかけたことで始まりました。

——今のコミュニティを続けていく中で生まれた新たな気づきはありましたか?

マヤさん 最初からずっと感じていることは、やっぱり自分の勉強不足です。どうしても自分の価値観や経験をベースに、ミックスルーツの人のことをとらえてしまっていたことに気がついて。仲良くしていて価値観も合うような人同士でも違っていると感じることがあるのに、ミックスという括りはすごく広く、色々な人が含まれる。だから、集まってきた人はみんなそれぞれ全然違っていたんです。
 
それが、出会い目的も含めた花見やパーティー以外の、語り合える集まりがない理由なのだとわかりました。多様すぎて自分が知らないことがたくさんあるから、ラフなスタイルで呼びかけてやったほうが楽なんですよね。

——継続していくために意識していることはあるのでしょうか

コミュニティを運営するうえで私がいちばん怖いのは、私がほとんど一人でやっているなかで、自分が裸の王様みたいになってしまうことで。 私より年齢が下の人も多いし、私の顔色をうかがうとか気を遣うとか、参加していて「なんか違うな」って思ったとしても言えない状況を作らないように気をつけようと思っています。参加するハードルを下げて、楽しく話している中で真面目な話も自然と出てきたり、自分の話をしてるうちに、個人的な家族の話や真面目な話も出てくるといいですね。

活動を続けることで、私自身がコミュニティの重要さをすごく感じられるようになりました。人と関わる喜び、根源的な人間の喜びみたいなものをすごく実感しているし、私はこれまでサードプレイスと呼べる場所がなかったんですけど、大人になってからでも作れるのだと強く感じました

——確かに、私がこのコミュニティにいていちばんよかったことは、職場と家族以外の友達が増えたことです。自身の体験やアクティビズムなど、学校や職場で会う人には話すことができない話を共有できる人がいると安心感があります。

マヤさん 
それがほんと大事!たまにしか来ない人でも、気兼ねなく参加できるようにはしたいと思っていて。あんまり内輪ノリみたいなことにも、なりすぎないようにしています。

年齢とか職業、出身地でつながっているわけではないから、色々な生活をしてる人がいて、なかにはコミュニティでの出会いが仕事につながった人もいるらしく、縁が広がっている感覚があります。

ただ、女性のシスジェンダー(生まれ持った性別と性自認が一致している)の方がほとんどなことは課題です。少し偏りがあると思っていて。紹介制ですし、女性が多くて安心して話せる場所なので、「あの子も誘おう」ってどんどん女性が集まってきて。男性やノンバイナリー(自分の性を男性・女性の枠組みに当てはめない)の方ももちろんいるんですけど、継続して参加してくれる人はどうしても女性が多くなってしまうんですよね。

集英社 yoiクリエイターズ ミックスルーツ

みんな違っているからこそ緩さを大切に

——コミュニティの中で、メンバーのためにも自分のためにも大切にしていることはありますか。

マヤさん まず、コミュニティ内のグラウンドルールを設けています。ですが、本当はもっと積極的にルールを伝えるべきだという反省はあります。また、基本的に「去るもの追わず」という感じで、メンバーそれぞれの人生のリズムを尊重するようにしています

そして、色々人に相談して進めるようにしています。 最初はもうちょっと自助会的なものをイメージしていたのですが、人数が増えてきたことによって、背負いきれなくなってしまって。私はほとんどの人を知っているけれど、 メンバーの人同士は全然面識のない人同士なこともあります。 メンタルケアは、やっぱりプロの領域なので、メンタルに関わる話をするときには、話す内容に気を付けるようにしています。

——やっぱり人が増えると、悩みなどが完全に共有できるものではなくなってきますね。みんな悩みや体験を共有したいからコミュニティに参加しているけれど、多様な人がいるので見方も人それぞれ違っていますし。

マヤさん
 そうなんです。リアルでのイベントのほか、オンラインでやり取りすることもありますが、特にオンラインの文章でのやり取りだと、細かなニュアンスがなかなか伝わらないことも多くて。本当はオフラインの集まりに絞ったほうがそういった話をしやすいんですけれど、いちばんつながりを必要としているのはコミュニティのある都市部以外に住んでいる人たちなんです。オンライン上のコミュニティを無くしたくはなくて、バランスが難しいです。

——マヤさんのコミュニティは明確なゴールに向かって活動を進めているのではなく、安心して集まれる居場所を継続してる感じがします。

マヤさん たまに「目的は何ですか」って聞かれるんですけど、なんて言えばいいかわかんなくって。
ミックスルーツの人は社会に課題感を持って活動をしてるメンバーが多いので、そういう話題は多いけど、それもエネルギーがないとできないことなんです。

メンバーの中には社会的な活動をするエネルギーはないという人もいるし、メンバーが増えるにつれて、みんなの希望を叶えるのは無理だなと思うようになりました。 全員にとっていい集まりをつくることは難しいです。細く長く続けたいので常に試行錯誤してるぐらいがちょうどいいと思っています。

ひとつ、言われてうれしかったのは、この集まりで「こういう戦い方もあるんだと思った」って言ってもらったことです。私は戦ってるとかいう意識はなくて、友達もできて得してるし楽しいなという感覚だったのですが、世界を変えるためにはデモなどのわかりやすく華やかな社会運動がよしとされがちだけど、そうではなくて、コミュニティの場をつくるということでも小石を投じるぐらいには貢献できているのかなと思いました

——マイノリティのコミュニティは意図的に緩い繋がりでいようとしないと、どんどん社会的になるか、福祉的になってしまうイメージがあります。話を聞いていて、仲間を助けたいという気持ちは持ちながらも、まずはメンバー本人たちが安心できる場を継続することが大切だと感じました。

マヤさん ほんとそうなんです。みんなどうにかしたいって気持ちはあるし、 特に下の世代に対して何かしてあげたいという思いも強いんです。だから、食とか音楽とかをテーマにした企画をして、真面目な話もゆるい話もできるようにしたいです。ミックスルーツの人で集まっていると、自然とミックスルーツ的な視点が入ってくるんです。みんな、食べ物だったり、音楽や映画などの知識偏差値がすごく高いんです。色々な国の料理を食べる機会が多かったりするから、広い視野を持っている人も多いと感じます。

集英社 yoiクリエイターズ ミックスルーツ 2

オンとオフを分けて、頑張りすぎないことも大切です

——マヤさんはコミュニティでメンバーと活動する時間と、自分自身のために使う時間、仕事、家族の時間など、それぞれの時間の使い方を意識していますか?

マヤさん 
それぞれの時間は、はっきりと分けている方です。SNSを見ない日を作っていて、昔使っていた古いスマホを利用して、普段使っているスマホは引き出しにしまうようにしています。それくらい100%分けないと、ずっとコミュニティのことを考えてしまいます。

以前はオンラインのグループで、私が全部のコメントや投稿にリアクションして全てに返信しないとって思ってた時期があったんです。オンラインだといつ反応があるかわからないから。投稿してくれた人は反応が欲しいだろうし、それなら私が反応しないとって、ずっと思ってた時期があって。

くどう マヤさんはSNS上でも、対面で会う時のようにメンバーを気にかけている印象があります。それをずっと続けるのは大変ですよね。

マヤさん 私はメッセージとかSNSにすごく影響されてしまうタイプなのに、メンバーのインスタのストーリーを確認して、全部ハート押してチェックしないとって思ってたんです。担任の先生みたいになろうとしてしまったんです。その時はちょっとノイローゼになりそうで辛かったですね。

でも、これは無理だと思って。今は私が反応しなくても他の人がしてくれればいいし、緩くコミュニケーション取った方が投稿する側も反応を気にしなくていいから、気軽に投稿できるかもしれないと思っています。

——自分のために続けてる習慣はありますか

マヤさん リストを3つに分けて管理しています。「絶対やるべきこと」、「まだやりたいこと」と「やれたらいいこと」。 紙に書いて分けることが多くて、そうすると大小がはっきりするし、やれたらいいなは正直ほとんどできてなくてもいいことにしてます。心療内科で教わったことなんですけど、リストでできたら斜線を引いて消すんじゃなくて、横に丸を書いて加点式にするんです。私の場合は、花丸を書いて自分に「よくできました」ってやってます。好きな色のペンとか買ってきて。すごく小さいことですけど、気分が変わりますね。

くどう それ凄く良いです。自分を褒める習慣があると気分が上がりますよね。

イラスト・取材・文/くどうあや