yoiクリエイター「くどうあや」さんが今イチオシのギャラリー「space Un」を訪問!自身もアフリカのルーツを持ち、美大の大学院に通うくどうさん目線で、ギャラリーの見どころをご紹介します。

【yoiクリエイターズとは?】 yoiの読者としての目線を生かし、語学やアート、文章表現などのクリエイティブスキルを発揮して、情報を発信していくクリエイターのこと。ビューティーやウェルネス、カルチャーや社会派の記事など、それぞれの得意分野でyoi読者におすすめのコンテンツを毎月配信します。メンバーはくどうあやさん、石坂友里さん、高橋琴美さん。

くどうあや

大学院生

くどうあや

都内の美術大学に通う大学院生。社会問題に関心を持って活動や研究を行う。イラストと文章を書くことが趣味です。

今回訪れたのはギャラリー「space Un」。日本とアフリカをアートでつなぐプラットフォームで、オープン当初から存在は知っていてかなり気になっていたギャラリーですが、今回、セネガル人アーティストと日本人アーティストの二人展「Intimité (アンティミテ)」のアーティストトークに参加するために、初めて訪問しました。 

日本ではまだ触れる機会の少ないアフリカのアートですが、国によって異なる文化が織りなす多彩で奥深い表現に満ちており、独自の盛り上がりを見せています。 近年、アフリカのアーティストの重要性は世界の美術館でしだいに認識されており、アートシーンを語るうえで欠かせないキーワードのひとつとなりつつあります。

spaceUn ギャラリー アート 展覧会

space Unってどんなところ?

まずはギャラリーspace Unについて紹介します。
青山の銀杏並木からほど近い、落ち着いた雰囲気のエリアに位置するspace Un。静かな住宅街の一角に、ガラス張りの洗練されたギャラリーが佇んでいます。一見、スタイリッシュな外観ですが、中を覗くと木材や紙を用いたあたたかみのあるアート作品が並び、文化的なぬくもりを感じさせてくれます。

space Unは2024年4月20日(土)にオープンしたギャラリーです。 設立のきっかけとなったのは、神戸・パリ・ベルリンを拠点に活動するアートコレクター、エドナ・デュマ氏の、アフリカ現代アートへの情熱とアフリカ人アーティストを支援したいという強い思いだそう。そのビジョンに共鳴した俳優でアーティストの中野裕太氏の協力を受け始まりました。

space Unは、展示空間としてだけでなく、音楽イベントや朗読会など、多分野にわたるプログラムを展開し、アートを通じたコミュニティの場としても機能しています。また、日本とアフリカ諸国の文化交流に焦点を当てた展示会やレジデンシー・プログラムを積極的に行い、異なる文化をつなぐ架け橋の役割を果たしているんです。

文化が交差するレジデンシー・プログラム

「レジデンシー・プログラム」とは、アーティストが一定期間滞在し、リサーチや制作活動を行うプログラムのことです。space Unでは、日本とアフリカのアーティストが互いの国に一定期間移住し、現地の環境に身を置きながら創作活動を行う取り組みを実施しています。

このプログラムの拠点となっているのは、奈良県吉野川のほとりに佇むコミュニティハウス 「吉野杉の家」 です。ここでの滞在を経たアーティストは、space Unのギャラリーで個展を開催するのですが、美術館でキュレーションされた展示を見るのとは異なり、異国の地での滞在によって生まれる技法の変化や心理的な変容が、作品に独自の新鮮さをもたらしているのが興味深い点です。

普段、異国の文化や美術を知ろうとするとき、まず思い浮かぶのは民族博物館のような、収集と研究を専門とする施設ではないでしょうか。しかし、文化とは本来、人々の生活とともに息づくもの。特定の場所で体系的に学ぶだけでなく、日常の中で自然に触れられることが、より深い理解につながるのではないかと考えさせられました。

ギャラリーの扉を開き、作品をじっくり鑑賞するのもよし。通りすがりにガラス越しに展示を眺めるだけでも、文化との距離は確実に縮まっていく。そんな身近で開かれた空間が魅力なのかもしれません。

spaceUn ギャラリー アフリカ アート レジデンス・プログラム

セネガルと日本がつながる

2024年12月7日から3月2日まで開催されていた二人展「Intimité (アンティミテ)」は、セネガル人アーティスト、セリーニュ・ンバイェ・カマラ氏と、日本人のアーティスト半澤友美氏による二人展です。

レジデンス・プログラムで、両アーティストがそれぞれ相手の母国に滞在し、異文化の環境で制作した作品が同時に展示さ
れることで、自身の文化と滞在先の文化がぶつかり生まれる新たな表現を見ることができました。

spaceUn セネガル アーティスト 制作

カマラ氏は奈良の吉野杉の家で2週間過ごし作品を制作しました。紙や木材、金属などの素材を用いて作品で物語を紡ぎます。

彼の作品には常に「人」の存在があり、ひとつの展示として構成されることでコミュニティの姿が見えてきました。これらの作品は、滞在中に出会った人々からインスピレーションを受けたそうです。

カマラ氏の作品で興味深いのは、同じモチーフであっても観察する視点が、育った文化に大きく影響を受けているということです。例えば、自然や人といった普遍的なテーマを扱っていても、彼の作品にはアフリカのアート特有の視点が表れていると感じました。

spaceUn ギャラリー アーティスト 制作風景

半澤氏はセネガルの首都ダカールで、現地に暮らす著名なアーティスト、アイッサ・ディオーヌの家に滞在して制作をしました。繊維を重ね合わせて紙を作る手法で作品を制作しており、これまで研修で国外に滞在して作品を制作してきた経験がありますが、セネガルはまったく未知の地。まったく言語や文化が異なる地に約1カ月滞在して作品を制作したんだそう。 

ギャラリーで流れている滞在時の記録映像には、ディオーヌ邸の庭で落ちている葉や花びらを集める半澤さんの様子を見ることができます。日本から持ち込んだ繊維と、セネガルで織ったコットン、紙、草花が混じり合って生み出される「秘密の庭」にはどこか懐かしさを感じられました。 

完成したアート作品だけではなく、滞在中に出会った人々との交流や、素材に対する向き合い方などに、互いの国の独特な価値観が表れているところが面白く感じられます。

会期初日の12月7日には、オープニングイベントとして、アーティストトークが開催され、キュレーションで本展に関わったウセイヌ・ワッドとカマラさん、半澤さんが登壇しました。 

spaceUn ギャラリー アート 展示風景

印象的だったのは、半澤さんのセネガルについて言語も文化も知らない状態で急に行くことになったという体験談です。セネガルのことを学ぶ時間がない状態で出発し、現地に滞在したからこその純粋な交流と観察を、アーティストトークや展示を通して擬似体験できたような気がします。

トークイベントにはさまざまな国の人々が集まり和やかに交流しており、アットホームな雰囲気がとても魅力的でした。また、アフリカと日本のアート作品を中心としたコミュニティとして、活気を生み出していることも実感できました。

「Intimité」とはフランス語で「親密さ」を意味します。異国の文化が出会うことで生まれる親密さというあたたかさが空間全体に現れていました。

space Unでは、アフリカのさまざまな国のアーティストが関わりながら展示やイベントを開催しており、展示は年に4~6回開催されています。暖かな空間で、窓際のベンチに腰を下ろしてゆったりとアート作品を鑑賞してみてはいかがでしょうか。

space Un
住所
:東京都港区 南青山2-4-9 1F
営業時間:水-日12:00-7:00pm(月火休廊)
公式Instagram:https://www.instagram.com/spaceun.tokyo/

写真・イラスト・取材・文・構成/くどうあや