今年4月から保険適用になった不妊治療には、年齢制限と回数制限があります。何歳までなの? 何回できるの? 年齢制限があるのはなぜ ? また、高度な不妊治療を行なっても、やはり妊娠には年齢の壁があるのでしょうか? 引きつづき、東京大学医学部附属病院で不妊治療に携わる廣田泰先生に伺います。

廣田泰先生のイラストによる、連載第24回の扉

不妊治療の保険適用に年齢や回数の制限があるのはなぜ?

増田:不妊治療の保険適用には、治療の回数や年齢の上限があるそうですが、回数制限と保険が適用される年齢を教えていただけますでしょうか?

廣田先生タイミング法、排卵誘発法、人工授精などの「一般不妊治療」では特に年齢制限はありません。体外受精、顕微授精などの「生殖補助医療」では、女性の年齢が不妊治療開始時に43歳未満とされています。男性の年齢制限はありません。

また回数については、初めて治療を開始する年齢が40歳未満の女性は、胚移植回数が1子ごとに通算6回まで。40歳以上43歳未満の女性は、胚移植回数が1子ごとに通算3回までとなっています。保険診療の回数制限は、保険診療のもとで行なった回数のみをカウントしますので、過去の治療などは除いて考えることができます。

窓口で支払う負担額は、保険適用される治療費の約3割程度になります。治療費が高額になる場合には高額療養費制度も適用されます。


【保険適用となる不妊治療の年齢と回数制限】

保険適用の不妊治療の年齢と回数制限

(リーフレット)不妊治療の保険適用 より

保険適用が可能な年齢は、なぜ43歳未満なの?

増田:40歳以上のカップルの不妊治療も増えているといわれていますが、43歳未満と制限されているのは、どうしてなのでしょうか?

廣田先生:35歳を超えると、急激に妊娠率が低下するだけでなく、流産率も上昇してしまいます。体外受精だけでなく、自然妊娠でも、妊娠できる力は35歳以降に急速に低下することが知られています。年齢による妊娠率や流産率の低下は、日本国内の体外受精の治療成績を示す下のグラフを見てもわかります。やはり「妊娠しやすい年齢」というものはあり、そのため、保険適用の年齢も43歳未満としたのだと思います。


【日本国内の体外受精の治療成績】

男性不妊、女性不妊、原因不明の場合の不妊治療の流れ

ARTによる妊娠率・生産率・流産率(2019年)ARTデータブック2019年より引用

年齢とともに、妊娠できる力は下がっていく

増田:不妊治療すれば、誰もが妊娠、出産できるわけではないということですね。

廣田先生:残念ながら、そうです。グラフにあるように、年齢と不妊との関係は大きく、年齢とともに妊娠率も出産率も下がり、43歳くらいを境にさらに大きく低下します。逆に、年齢とともに流産率は上がっていきます。

増田:女性は年齢が上がるに従って、卵子の質が低下していくのですね?

廣田先生:女性の卵巣内にある原始卵胞はすべて出生前に作られていて、新たに作られることはないのです。ですから、実年齢と同様に卵子も年を重ねていきます。

また、不妊症の原因となる病気の状態によっても妊娠しやすさは異なります。女性は加齢とともに、婦人科の病気にかかる確率が上がります。今は、女性の社会進出やライフスタイルの変化によって晩婚化・晩産化が進んでいます。そのため、子宮内膜症や子宮腺筋症、子宮筋腫などのリスクが上がり、これが不妊症や流産・早産の原因になることもあります。不妊治療を行う際も、年齢が妊娠しやすさに大きく影響することを、若いうちから理解しておくことは大事ですね。

一方で、体外受精や顕微授精などの高度な不妊治療になるほど、妊娠率は上げることが可能です。妊娠・出産したい気持ちが強ければ、希望に合わせて、早いうちに治療をステップアップさせて、妊娠の確率を上げる治療を行うことも選択できます。年齢や不妊の原因、女性の体調などいろいろな要素を踏まえて、どのように治療を進めるかは、お二人でよく話し合いながら決めていただきたいと思います。

これからは、妊娠できる能力(妊孕能)は年齢によって大きく影響を受けることを知ったうえでライフプランを立てること、また、企業を含めた社会全体がそれをサポートする体制づくりが必要だと思います。

増田:ありがとうございます。パートナーと一緒に人生のプランを立てて、妊娠・出産の時期を考えることが大切になってきますね。ライフプランを考えるうえでも、働きながらどう不妊治療をしていくかが大切になってくると思います。次回は、仕事と不妊治療の両立について、どんな制度を利用できるかも含めて、廣田先生に伺います。

廣田 泰(ひろた やすし)先生

東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座 准教授

廣田 泰(ひろた やすし)先生

産婦人科医。医学博士。東京大学医学部医学科卒業。東京大学大学院医学系研究科修了。ヴァンダービルト大学研究員、シンシナティ小児病院研究員留学。東京大学医学部附属病院女性診療科・産科講師ほかを経て、2020年より現職。日本産科婦人科学会 専門医・指導医。日本生殖医学会幹事長、生殖医療専門医・指導医。日本内分泌学会内分泌代謝科専門医・指導医。『治療の難しい不妊症のためのガイドブック』の執筆・編集に携わる。

https://www.gynecology-htu.jp/refractory/

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

取材・文/増田美加 イラスト/itabamoe 企画・編集/浅香淳子(yoi)

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