月経不順は、ストレスや疲れ、極端なダイエットなどが原因のこともありますが、背後に病気が隠れている場合も少なくありません。月経不順で考えられる病気とその治療法について、産婦人科医の池田裕美枝先生に伺いました。
月経はあっても排卵していない可能性が!
増田:月経不順や無月経の原因として、妊娠や腫瘍などの影響ではないことが確認できた場合、卵巣が正常に働かなくなり、月1回の排卵が規則的に起こらない「排卵障害」であることが多いというお話を伺いました。 これは、月経の出血はあっても排卵していない「無排卵月経」や、「多嚢胞性(たのうほうせい)卵巣症候群」という体質によるものもあるということでしたね【月経不順の原因:ドクタートークVol.28を参照】。
この、無排卵月経や多嚢胞性卵巣について教えていただけますか?
池田先生:まず、月経のような出血はあるのに排卵がない「無排卵月経」の場合ですが、月経周期が不順なことが多く、月経期間が短かったり長かったりとバラバラです。
月経不順で、月経量や月経期間に異常があり、基礎体温が高温期と低温期の二層に分かれていない“一相性”の場合に、「無排卵月経」と診断します。思春期や更年期の方に多く見られ、初経から1~2年は無排卵月経のことが多いのであまり心配することはありませんが、初経から3年以上たっても無排卵月経の場合は、不妊の原因になることもあります。
【基礎体温の平均的グラフ】
池田先生:無排卵月経の背後には、卵胞はつくられるのに、皮が硬くて排卵できない「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」が隠れている可能性も考えられます。多嚢胞性卵巣症候群は、妊娠が可能な年代の女性の約5~8%に発症するといわれています*。
*「日本内分泌学会」ホームページより
「多嚢胞性卵巣症候群」ってどんな病気?
増田:多嚢胞性卵巣症候群は、どのような病気なのでしょうか?
池田先生:初経からしばらくの期間、月経が不順なのは普通です。その後、徐々に月経は規則正しくなっていきます。けれども、多嚢胞性卵巣症候群の方の多くは初経からずっと月経不順です。
婦人科の診察で、①月経不順である ②卵巣に小さな卵胞がたくさんある ③下垂体ホルモンのアンバランスがみられる、の3つがそろうと、多嚢胞性卵巣症候群と診断されます。体質や環境などさまざまな原因が考えられますが、はっきりした原因はまだわかっていません。おもな症状は、月経不順、不正出血、無月経で、毛深くなったりニキビが多くなることもあります。肥満傾向や、血糖値が通常より高い場合もあります。
増田:多嚢胞性卵巣症候群とわかった場合、どのような治療をするのでしょうか?
池田先生:今すぐ妊娠を希望していない方は、低用量ピルなどで排卵を止めて、体の女性ホルモンバランスを整えるのが最も推奨される治療になります。でも、そうしないといけない、ということもありません。軽症の方で、肥満や糖尿病などがなく、時々排卵しているならば、治療しないで経過を見ても大丈夫です。なかなか月経が来ない場合は、3カ月に1回は月経が来るようにお薬を飲む、という方法をとる方もいます。今すぐの妊娠を希望している方の場合は、ホルモン療法を基本にして、飲み薬か注射の排卵誘発剤を用いて、排卵を起こして妊娠を目指すことになります。
やはり大切なのは、月経不順や無月経を自己判断で長期間放っておかないことです。月経が不順だなと感じたら、婦人科を受診して、その原因をきちんと確かめておきましょう。そのままにしていると、場合によっては、子宮内膜に異常な変化が生じ、子宮内膜増殖症や子宮体がんのリスクが上がってしまうこともあるからです。
一児の母でもある池田先生。多忙な毎日の中、丁寧に取材にお答えいただきました。
京都大学医学部附属病院産科婦人科 産婦人科医
京都大学医学部卒業。市立舞鶴市民病院、洛和会音羽病院にて総合内科研修後、産婦人科に転向。現在、京都大学医学部附属病院の女性ヘルスケア外来ほかを担当しつつ、同大学大学院博士課程にて、女性の社会的孤立や月経前症候群による社会的インパクトなどを研究。日本産科婦人科学会専門医、日本プライマリケア連合学会認定医ほか。NPO法人女性医療ネットワーク副理事長。京都大学リプロダクティブヘルス&ライツライトユニット代表。ソーシャルワークプラットフォームKYOTO SCOPE事務局代表。一児の母。
甲状腺が原因で月経不順になることも
増田:ほかにも月経不順でよくある病気はありますか?
池田先生:甲状腺の病気があります。女性は甲状腺の病気になりやすく、20人に1人が一生涯のうちに甲状腺の病気になるといわれています。甲状腺ホルモンが多すぎても少なすぎても、卵巣の働きを邪魔してしまうんです。月経不順が続くときは採血で甲状腺ホルモンもチェックしてもらうといいでしょう。ほかに、お薬の副作用で月経不順になる方もいますし、ごく稀に、ホルモン産生腫瘍のために月経不順になる方もいます。
ちなみに、排卵の時期に、少しだけ出血したことがある経験をした人は少なくないと思います。排卵時に起こる出血(排卵期出血)は、排卵直前にエストロゲンが変動することによる出血で、よく不正出血かも、と不安になる人がいますが、この出血には問題はありません。
婦人科に行きにくい。行ったのに説明がよくわからない…
増田:月経不順で婦人科を受診するのをためらってしまったり、婦人科を受診したが原因がわからなかった、という読者の声があります。
「月経が来なくなってから、ずっとそのままにしています。放っておいてはいけないことはわかっていても、婦人科を受診するのはためらってしまいます」
「月経が来ない月があって、婦人科に通っていますが、原因がわかっていません」
「月経が2カ月来ないときもあって、婦人科に行くと、20歳まで様子を見るように言われましたが不安です」
このような場合、どうしたらいいでしょうか?
池田先生:もしも月経が来なくなってから3カ月以上たっているようなら、勇気を出して婦人科を受診してください。なかには、女性ホルモンのエストロゲンがとても少なくなっている方がいます。若いうちからエストロゲンが出ていないと骨が弱くなるリスクが高くなり、将来、早いうちに背骨が骨折して曲がってしまうなど、美しく元気に老いられなくなってしまいます。そのときに後悔しないためにも、エストロゲンが分泌していない状態を放っておかないでください。
治療法は、ひとつではありません。専門家である医師と相談しながら選ぶこともできます。また、もしその医師の説明がよくわからない、納得いく説明をしてくれない、相性が合わないと感じたら、別の婦人科医に変えていいと思います。主治医を変えることに抵抗のある人がいますが、3カ所でも4カ所でも、納得のいく説明が得られるまで相談していただきたいです。
無月経のまま子宮と卵巣を放っておくと、治療に反応しなくなる方もいらっしゃいます。もう少し早めに来てくれたら治療ができたのに、と思うこともあります。私は、患者さんご自身が自分の体をケアしたり、管理したりする方法が見つかるように助言したいと思っています。将来の人生に危険が及ばないうちに、勇気をもって受診してください。
増田:心強い言葉をたくさんいただきました。3カ月以上続く月経不順は、放っておかず受診すること。これはぜひ覚えておきたいですね。池田先生、3回にわたってありがとうございました。
取材・文/増田美加 イラスト/itabamoe 企画・編集/浅香淳子(yoi)