子宮筋腫の治療法にはいくつもの選択肢があり、治療しないでいい場合もあります。治療法をどのように選ぶのがよいのか、経過観察と言われた場合はどうするのか、引きつづき、産婦人科医の北出真理先生に伺いました。
治療をすべき? しなくていい? どうやって決める?
増田:子宮筋腫があることがわかったあと、どんな治療を選んだらいいのか迷うことがあります。また、医師によって説明が違うこともあります。自分に合った方法をどんなふうに考えたらいいのでしょうか?
北出先生:子宮筋腫は命にかかわる病気ではありません。筋腫があること自体が治療の対象になるのではなく、筋腫によってつらい症状がある場合に、治療の必要性が出てきます。
子宮筋腫は、症状がなければ基本的に治療する必要はありません。ですから、まずは子宮筋腫の状態を正確に把握して、本当に治療する必要があるのかを見極めることが大切です。子宮筋腫の状態を見たうえで、手術が必要なのかそうでないのかを判断し、すぐに手術の必要がない場合は、筋腫と共存しながら生活する方法を考えていきます。
症状がないときは、いつまで様子を見ていればいい?
増田:病院で「経過観察をしていきましょう」と言われた人は、いつまで経過観察をすればよいのでしょうか?
北出先生:症状がないか、ごく軽い場合には、何も治療をせずに3~6カ月に1回、定期的に検査をして、筋腫の経過を診ていくのが一般的です。経過観察していく過程で、過多月経や貧血などの症状が出てきたり、急に大きくなったりするような変化があれば、そこで治療を考えます。ただし、子宮が骨盤を超えるほど大きい場合や悪性が少しでも疑わしい場合は、症状がなくても手術をすすめられることもあります。
また、例えば妊娠を希望するようになるなど生活に変化があれば、筋腫が妊娠や出産の妨げになる可能性がありますので治療を考えます。なかなか妊娠しない場合も、症状がなくても手術を受けたほうがよい場合もあります。ライフプランは、年齢や社会的状況によって変化していきます。一人一人のライフプランの変化に合わせて、治療法も見直していきましょう。
婦人科全般の専門家である北出先生に、オンラインでインタビューさせていただきました。画面左は増田さん。
順天堂大学医学部附属順天堂医院産婦人科教授
順天堂大学医学部卒業。同大学産婦人科入局。子宮筋腫のほか、子宮内膜症、不妊、月経異常など、婦人科全般にわたる診療を行なっている。手術としては腹腔鏡手術を専門とし、患者さんの体への負担が少なくて済む、侵襲の低い手術を心がけている。同じ女性の目線から現代女性の多忙なライフスタイルにも配慮した医療を目指す。日本産婦人科学会専門医、産婦人科内視鏡技術認定医、日本生殖医学会生殖医療専門医、女性ヘルスケア専門医、スポーツドクター。『医者に聞けないことまでわかる子宮筋腫』(主婦と生活社/監修)
子宮筋腫の症状がある人は、どんな治療を選択する?
増田:過多月経や腰痛などのつらい症状がある場合は、どのような治療になりますか?
北出先生:つらい症状がある場合は、手術か、薬による治療かを選択します。手術には、子宮を残して筋腫のみを摘出する「子宮筋腫核出術(かくしゅつじゅつ)」と、子宮を摘出する「子宮全摘術(ぜんてきじゅつ)」があります。
薬による治療は、ひとつは「GnRH(ジーエヌアールエイチ)アゴニスト」や「GnRHアンタゴニスト」により女性ホルモンを低下させて閉経と同じような状態にする「偽閉経療法」。もうひとつは、子宮筋腫によるつらい症状を改善する「対症療法」があります。けれども、偽閉経療法は継続期間が6カ月間というしばりがあるため、一時的に子宮筋腫を小さくする事はできても、根本的に治すことはできません。根本的な治療は手術しかありませんが、「子宮筋腫核出術」では術後何年かのうちに再発することも少なくありません。将来的に妊娠の希望がなければ、再発やがん化の心配がない「子宮全摘術」がベストではあります。
増田:筋腫だけを取り除く手術でも再発することがあるのですね? これから妊娠、出産を考える人は子宮全摘術はできないわけですから、どのように考えたらいいか困ってしまいますね。
北出先生:子宮筋腫の治療法を選択するうえで、忘れてはならないのがやはりライフプランです。結婚、出産、子育て、仕事など、自分の人生をどう生きるかによって、子宮筋腫とのつき合い方も決まってきます。
増田:子宮筋腫で過多月経や腰痛などつらい症状がある場合のお薬の治療は、子宮筋腫を一時的に小さくする「偽閉経療法」と、症状を緩和する「対症療法」があるとのお話でしたが、それぞれについて詳しく教えてください。
北出先生:まず、偽閉経療法は、GnRHアゴニストやGnRHアンタゴニストというホルモン剤を使って、女性ホルモンであるエストロゲンを低下させ、筋腫の成長を抑える治療法です。現在のところ、GnRHアゴニストは注射剤、GnRHアンタゴニストは経口剤であり、後者の方が構造上の特性から効き目が早くきれもいいといわれています。子宮筋腫が大きくなるのはエストロゲンの影響といわれていますので、エストロゲンの分泌を抑えることが治療になるのです。人によりますが、この薬によって筋腫が半分くらいに縮小する人もいます。
ただ、デメリットもあります。前述したように継続治療は6カ月間しか行えず、次の治療まで6カ月以上間をあける必要があるため、小さくなった筋腫が休薬期間に再び元に戻ることがあり得るのです。また、個人差がありますが、治療中には月経が止まると同時に、ほてりやのぼせ、イライラなど、更年期症状を認めたり骨量が低下してしまうなどの副作用もあります。これらの特性を考え、偽閉経療法は長期間にわたって行うより、術前治療や閉経逃げ込み療法として使用するのが一般的となっています。
低用量ピルや黄体ホルモン剤による治療も
増田:子宮筋腫による症状をやわらげる対症療法では、どのようなお薬を使いますか?
北出先生:一般的には、疼痛には鎮痛薬、貧血には鉄剤を投与しますが、経血量がとても多い場合には、保険適用の範囲内で低用量ピルや黄体ホルモン製剤(経口剤、子宮内挿入型)を使う場合もあります。低用量ピルは、過多月経や月経痛などの症状をやわらげるほか、卵巣がんの発生を抑えるなど多くの効能があります。
すぐに妊娠したいという人には向きませんが、手術はしたくないという人に、とりあえず症状を抑える目的で処方されることも少なくありません。低用量ピルにはエストロゲンが含まれているため、筋腫を大きくする危険があるとして日本では子宮筋腫の治療に使われない時代がありましたが、最近ではほとんど心配ないといわれています。
低用量ピルや黄体ホルモン製剤には子宮筋腫に直接働きかける効果はありませんが、筋腫によるさまざまな不快な症状をやわらげることはできます。月経量が少なくなるため、貧血がある人にもいいと思いますが、低用量ピルは血栓症、黄体ホルモン製剤は不正出血のリスクもあり、主治医が定期的に症状を確認する必要があります。
痛みがつらい人の治療の選択肢は?
増田:痛みがつらいという人には、どのような治療がありますか?
北出先生:もちろん低用量ピルでもいいですが、痛みがひどい場合は、我慢しないで鎮痛剤を飲むという選択もあります。子宮筋腫と子宮腺筋症や子宮内膜症が合併する方も少なくないのですが、そういう方の場合、最もつらいのが月経痛です。痛みがひどい場合には、我慢せずに鎮痛剤を使用することが大切です。鎮痛剤は体に悪いからと思って、痛みがあってもギリギリまで我慢する方がいらっしゃいますが、かえって逆効果です。
痛みは、あるレベルを超えると、鎮痛薬が効きにくくなるという特性があります。特に月経痛は、痛くなる時期がある程度予測できますから、痛くなる前に服用しておくといいと思います。そうすることで、薬の効き目が早くなり、使う薬の量も少なくて済みます。
過多月経で貧血がある人には?
増田:子宮筋腫の過多月経で、貧血がある人も少なくないとのことですが、貧血にはどのような治療をするのでしょうか?
北出先生:過多月経による貧血を予防するには、鉄分を多く含む食品をとることが大切です。しかし、粘膜下筋腫などで大量に出血があるような方は、食事だけで症状を改善するのは難しいので鉄剤を服用します。
鉄剤を服用すると、吐き気、下痢、食欲不振、便秘などの副作用が出ることがあります。副作用がひどいときは、飲むのを少しお休みして様子を見てみましょう。鉄剤には、数種類の錠剤のほか、注射剤もありますので、副作用がつらければ種類を変えてみるのもひとつとは思います。
増田:手術による治療と、お薬による治療の選択肢がよくわかりました。ライフプランによって、一人一人選び方が違っていいのですね。次回は、不妊や妊娠との兼ね合い、さまざまな手術の種類と違いについて、北出先生に伺って参ります。
取材・文/増田美加 イラスト/itabamoe 内藤しなこ 撮影/佐藤健太 企画・編集/木村美紀(yoi)