子宮頸がんは、がんの中でもめずらしく、ワクチンで予防ができるがんです。ワクチンを接種していない人に比べて、ワクチンを接種した人が子宮頸がんになるリスクは、10~16歳のワクチン接種で88%低下、17~30歳のワクチン接種で53%低下したという研究報告もあります。10代の早いうちにワクチンを接種したほうが、子宮頸がんになるリスクが大幅に減ることがわかる結果です。HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンをご自身でも接種した、産婦人科医の柴田綾子先生に、ワクチンで子宮頸がんを予防する方法を伺います。
HPVワクチンってどんなもの?
増田 子宮頸がんを予防するHPVワクチンとは、どんなワクチンなのでしょうか?
柴田先生 HPVには200種類以上のタイプがあるのですが、全部が悪さをするわけではなくて、そのうち子宮頸がんの原因になるものは、約15種類あることがわかっています。また、その中でも16型と18型が子宮頸がんの原因の50~70%を占めています。
この「悪さをするHPV」の感染を予防するのがHPVワクチンです。HPVワクチンを接種して抗体ができると、その後、性行為をしても細胞にHPVがくっつきません。抗体が長い間定着し続けるので、子宮頸がんになるリスクをかなり減らすことができます。
淀川キリスト教病院 産婦人科で診療にあたる柴田先生。リモートでの取材中、画面越しに撮影させていただきました!
気になるワクチンの副反応は?
増田 ワクチンの副反応などのリスクを心配している人も多いのですが…。
柴田先生 HPVワクチンは、新型コロナのワクチンと同様、筋肉注射を腕にします。50%以上の人が、一時的に腕が腫れたり、硬くなったりします。また、10%未満の人に発熱、10~50%未満の人に頭痛、関節痛などが一時的に出ることもあります。でもこれらは体に抗体ができるときの反応なので、数日でよくなります。新型コロナのワクチン接種で起こる副反応の発熱より、HPVワクチンによる発熱は少ないといわれています。
HPVワクチンに関しては、2013年にテレビや新聞で、体に力が入らない、歩けない、広範囲に広がる痛みや手足の動かしにくさなどの副反応が報道されました。その印象が今も残っている人がいると思います。その後の調査で、これらの症状は、HPVワクチンを打った人と打ってない人に同じ割合で起こっていることがわかりました。これらの症状は思春期に起こりやすく、ストレス反応が影響している可能性が考えられています。ちなみに、このような重篤な症状が出た人は、ワクチンを接種した1万人あたり5人でした。
増田 もちろん、ワクチン接種による副反応のリスクはゼロではないですから、心配な人は、かかりつけ医や自治体に相談してみるのもいいですね。
柴田先生 はい、そのとおりだと思います。海外の国々では、60~80%の女子や男子が、国のワクチンプログラムに沿ってHPVワクチンを接種しています。でも日本はまだ接種率が1.9%。子宮頸がんにかかる人、子宮頸がんで亡くなる人をこれ以上増やさないためにも、ぜひワクチン接種を検討してほしいと思います。
HPVワクチンは3種類。どれを選べばいい?
増田 いま、日本で使われているHPVワクチンは3種類ありますが、それぞれの特徴を教えてください。
柴田先生 日本で使われているHPVワクチンは、2価(子宮頸がんの原因となる16型、18型の2種類のHPVを予防する「サーバリックス®」)、4価(16型、18型に、尖圭コンジローマを予防する6型、11型もあわせた計4種類のHPVを予防する「ガーダシル®」)、2021年に承認された9価(6型、11型、16型、18型に加えて、子宮頸がんの原因31型、33型、45型、52型、58型の9種類のHPVを予防する「シルガード9®」)の3種類です。
増田 2021年11月に、HPVワクチンの定期接種の積極的な勧奨を8年ぶりに再開すると厚労省から発表になりました。これからは、小学校6年生から高校1年生までの女子は、定期接種として3回分、無料で接種しやすくなりますね。
柴田先生 はい。現在、無料定期接種の対象になっているのは、2価と4価のワクチンです。
2価や4価のHPVワクチンは、子宮頸がんになりやすい16、18型HPVの感染を予防し、子宮頸がんの約70%を防ぎます。9価のHPVワクチンでは、約90%の子宮頸がんを防ぐことができるといわれています。
増田 2価、4価、9価、どのHPVワクチンを選ぶのがいいでしょうか?
柴田先生 9価ワクチンがいつから定期接種で受けられるようになるかは、今のところわかっていません。ですから、無料接種が受けられる年齢なら、2価、または4価のHPVワクチンを早い時期に接種することをおすすめしたいです。個人的には、性感染症の尖圭コンジローマも一緒に予防できる4価がいいのでは、と思います。
無料定期接種の対象外となる高2以上の女子の場合は、費用は自己負担になりますが、2価、4価、9価のいずれのワクチンも接種できます。ただ先日、2022年4月からの3年間、1997~2005年生まれの女子が無料接種を受けられるようになる措置が厚労省から発表になりましたので、この世代の人は、ぜひ無料で接種できる2価か4価を打つのがいいと思います。今は新型コロナの流行で、定期接種の期間に変更が出ている自治体もありますので、事前に問い合わせてみてください。
また、現在は男子にも4価のHPVワクチンが承認されています。肛門がん、咽頭がんの予防になりますので、費用は自己負担ですが検討してみてください。男女ともに、自己負担の場合、2価、4価は1回15,000~17,000円×3回。9価は、1回33,000~36,000円×3回という費用が必要です。
HPVワクチンの予防効果を高めるのに9価ワクチンを選ぶのは有効ではありますが、性交渉を経験する前に接種することのほうがもっと大事。9価ワクチンが定期接種になるのを待つのではなく、ワクチンを早めに接種することをおすすめしたいですね。
出典「VPDを知って、子どもを守ろう。」サイトより(注:サイト内文書には記載されていないが、肛門がん、咽頭がんの予防効果もある)
https://www.know-vpd.jp/index.php
HPVワクチンを接種したほうがいい人は、どんな人?
増田 「ワクチンは、セックスを経験してしまったら接種しても意味がない」と思っている人もいると思います。性交渉を経験してからでも、10代20代で接種するメリットを教えてください。
柴田先生 いくつかの研究を総合して分析した論文で、26歳までは、性交渉のあるなしにかかわらずHPVワクチンを接種する効果が高く、メリットがデメリットを上回るという研究結果があります。さらに、45歳までの女性なら、ワクチンを接種することで子宮頸がんや前がん病変の異形成を予防する効果があることも報告されています。
もちろん、45歳以降でもHPVワクチンを接種することは可能です。ただし、ワクチンは治療薬ではないので、すでに感染してしまっているHPVを消すことや、治すことはできません。けれども、ひとりの人が同時にいくつものタイプのHPVに感染していることは少ないので、ワクチン接種によって、いま感染していないHPVのタイプに将来感染することを防ぐことはできます。
増田 柴田先生、具体的なアドバイスをありがとうございます。次回も引き続き、HPVワクチンと子宮頸がん検診について、お話を伺います。
淀川キリスト教病院 産婦人科医
日本産科婦人科学会産婦人科専門医。日本周産期・新生児医学会周産期専門医(母体・胎児)。名古屋大学情報文化学部を卒業後、群馬大学医学部に編入。沖縄で初期研修を開始し、2013年より現職。世界遺産15カ国ほどを旅した経験から、母子保健に関心を持ち、産婦人科医に。著書に『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社)、『産婦人科研修ポケットガイド』(金芳堂)、『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社)ほか。NPO法人女性医療ネットワーク理事。
撮影/島袋智子 イラスト/itabamoe Photo by Manit Chaidee/iStock/iStock /Getty Images Plus 取材・文/増田美加 企画・編集/浅香淳子(yoi)