子宮筋腫は、子宮にできる良性のコブのようなもので、30歳以上の女性のおよそ20~30%*1にあるといわれている身近な病気です。一方で、人によってはつらい症状が起きたり、不妊症の原因になったり、治療の選択に困ったりすることも。子宮筋腫の症状、種類、治療の選択法、不妊への影響などを、子宮筋腫に詳しい産婦人科医の北出真理先生に3回にわたってお話しいただきます。
*1日本産科婦人科学会ホームページより
順天堂大学医学部附属順天堂医院産婦人科教授
順天堂大学医学部卒業。同大学産婦人科入局。子宮筋腫のほか、子宮内膜症、不妊、月経異常など、婦人科全般にわたる診療を行なっている。手術としては腹腔鏡手術を専門とし、患者さんの体への負担が少なくて済む、侵襲の低い手術を心がけている。同じ女性の目線から現代女性の多忙なライフスタイルにも配慮した医療を目指す。日本産婦人科学会専門医、産婦人科内視鏡技術認定医、日本生殖医学会生殖医療専門医、女性ヘルスケア専門医、スポーツドクター。『医者に聞けないことまでわかる子宮筋腫』(主婦と生活社/監修)
子宮筋腫があると、どんな症状が起こるの?
増田:子宮筋腫は30代~50代の女性にとってよくある病気で、私も30代の頃に見つかりました。できれば予防したい人も多いと思いますが、どのような原因で起こるのでしょうか?
北出先生:子宮筋腫の原因は、女性ホルモンのエストロゲンの過剰分泌という説もありますが、詳しいことはわかっていないのです。発見される年齢で多いのは、30代後半から40代です。閉経を迎えると、エストロゲンの分泌がほとんどゼロになるためか、症状がほとんどなくなる人が多いですね。
子宮筋腫の原因が解明されていないため、現在のところ予防法は残念ながらありません。定期的に婦人科検診を受けることで、早期発見できれば、経過を見ながら適切に治療計画を立てることもできます。症状があったら、早めに婦人科を受診してください。
増田:私も30代の頃、婦人科検診で子宮筋腫が見つかりましたが、症状はほとんど感じませんでした。疑わしい症状にはどんなものがありますか?
北出先生:子宮筋腫を持っている人のうち、60~70%は増田さんのように無症状だともいわれています。筋腫に一生気づかない方もいるくらいです。症状には個人差があって、筋腫の大きさ、できる場所によって、症状の種類や現れる時期が変わってきます。子宮筋腫の症状でいちばん多いのは、過多月経。月経がダラダラと続いたり、大量の出血が起こったり、レバー状の塊が月経血に混ざっていることもあります。子宮筋腫で起こりやすい症状リストをまとめたのでご覧ください。
【子宮筋腫の気になる自覚症状 チェックリスト】
□月経時に出血量が多い
□ 月経が10日以上ダラダラ続く
□大きいレバー状の血の塊が出る
□貧血(動悸、階段を上ると息が切れるなど)がある
□頻尿
□下腹部の膨満感、しこり感、張り感がある
□月経以外にも腰痛、下腹部痛がある
オペの合間をぬって、リモートでのインタビューをさせていただきました。
子宮筋腫の種類によって症状が異なる?
増田:子宮筋腫の種類によって症状が異なるということですが、どんな種類があって、それぞれどのような特徴があるのでしょうか?
北出先生:子宮筋腫には、大きく分けて、漿膜下(しょうまくか)筋腫、筋層内(きんそうない)筋腫、粘膜下(ねんまくか)筋腫の3つのタイプがあります。それぞれの特徴について、子宮筋腫ができる位置の図とともにご説明しますね。これらの筋腫は併発することも多く、種類の違うものがいくつも見られる場合もあります。
【子宮筋腫ができる位置とそれぞれのおもな特徴】
≪漿膜下(しょうまくか)筋腫≫
子宮の外側を覆う漿膜のすぐ下にできて、子宮の外側に突き出すように大きくなります。かなり大きくなるまで症状が出ないので、気づかないことも多い筋腫です。子宮筋腫の約20%がこのタイプ。大きくなると、頻尿や腰痛などの圧迫症状がみられることもあります。
●有茎漿膜下筋腫
漿膜下筋腫の中で、茎ができてキノコ状になったもの。まれですが、茎の部分がねじれて茎捻転になると、吐き気や下腹部の激痛を起こすこともあります。
≪筋層内(きんそうない)筋腫≫
子宮の筋層内で成長する筋腫で、小さいうちは症状はほとんどありませんが、大きくなると、子宮内膜の圧迫により過多月経などを引き起こし、不妊症の原因になることもあります。子宮筋腫の約70%がこのタイプ。
≪粘膜下(ねんまくか)筋腫≫
子宮の内側を覆っている子宮内膜の粘膜のすぐ下で成長する筋腫で、子宮内部に向かって大きくなります。小さくても過多月経や重症貧血、不妊症などの原因になりやすい筋腫です。
●有茎粘膜下筋腫
粘膜下筋腫の中で、茎ができてサクランボのようにぶら下がったものです。子宮口から腟内に飛び出したものは筋腫分娩といって、出血が多く、感染しやすいのが特徴です。
●頸部筋腫
子宮口に近い、子宮頸部にできる筋腫。全体の5~10%と非常に少ないタイプです。肛門を圧迫したり、腰痛が起こったりすることもあります。膣を圧迫している場合は、出産時に帝王切開が行われることもあります。
病院ではどんな検査を行うの?
増田:子宮筋腫の種類によっては、つらい症状があったり、不妊の原因になるものもあるのですね。筋腫があるのかないのか、あるとすればどの種類の筋腫なのかは、病院で検査をすればわかりますか?
北出先生:まずは、通いやすい婦人科のクリニックを受診するのもひとつかと思います。大学病院や大きな総合病院は、紹介状がないと特定医療費がかかったり、待ち時間が長いなどハードルが高いと思いますから。初めての診察では、問診、内診、経腟超音波検査、子宮がん検査(1年以内に行なっていない場合)、採血(貧血などを診る)を行うのが通常です。
経腟超音波で診れば、筋腫の数や大きさ、できている場所などは、ある程度わかります。すぐに妊娠を考えている場合や不妊症の場合、ほかの病気もあることが疑われる場合は、さらに詳しい検査をするために、MRI検査などを必要に応じて行うことがあります。
MRI検査は、婦人科クリニックではできないことも多いので、連携する病院や検査機関を紹介してもらい、結果が出たら、また婦人科クリニックの医師に継続して相談していくことができます。なかには、子宮筋腫だと思ったら子宮腺筋症や卵巣腫瘍(らんそうしゅよう)、子宮肉腫だったということもあります。その場合も、MRIである程度、診断ができますので、大切な検査です。
増田:婦人科クリニックでの診察や検査のとき、月経になってしまっても大丈夫でしょうか? 予約日に生理になってキャンセルしてしまったという声もよく聞きます。また、低用量ピルを飲んでいても検査には差し支えないですよね?
北出先生:月経中でも診察に影響はありません。生理と思っていても、もしかしたら不正出血ということもあるかもしれません。婦人科医にとっては、月経中の診察をすることはごく普通のことです。また、低用量ピルを飲んでいても、診察にはまったく問題ありません。
子宮筋腫を大きくしないために日常生活でできることは?
増田:子宮筋腫を予防する方法がないことは、先ほど伺いました。とはいえ、婦人科で検査をして子宮筋腫があることがわかった場合、これ以上大きくならないようにしたいという人は少なくないと思います。生活改善などで、筋腫を成長させないようにする方法はないのでしょうか?
北出先生:子宮筋腫の予防だけとは限りませんが、規則正しい生活、バランスのよい食事、適度な運動習慣、ストレス解消は、健康を維持するために大切です。
しかし、食べものや生活習慣、行動などが子宮筋腫の根本的な原因とは言えませんから、生活習慣や食生活の改善だけで筋腫の成長を止めることは難しいのです。また、筋腫は遺伝する病気ではないとされています。ただ、筋腫が起こりやすい体質が受け継がれていて、家族間に子宮筋腫や子宮内膜症が多いということはあると思います。
増田:ありがとうございました。20歳を過ぎたら、症状がなくても、定期的に婦人科を受診しておくことは大切ですね。次回は、治療法の選び方について、引きつづき北出先生に伺います。
取材・文/増田美加 イラスト/itabamoe 内藤しなこ 撮影/佐藤健太 企画・編集/木村美紀(yoi)