子宮腺筋症(しきゅうせんきんしょう)は、子宮筋腫、子宮内膜症とともに、女性に多い病気です。子宮筋腫や子宮内膜症とはどう違うのか? 将来の不妊との関係は? など気になることについて、子宮腺筋症に詳しい産婦人科医の平池修先生に3回にわたって取材しました。
平池先生に、リモートでインタビューさせていただきました。
東京大学医学部附属病院 女性診療科 准教授
東京大学大学院医学系研究科・医学部 生殖・発達・加齢医学専攻 分子細胞生殖医学准教授。医学博士。東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院女性診療科・産科助教、スウェーデン王国カロリンスカ研究所招聘研究員、公立学校共済組合関東中央病院産婦人科医長ほかを経て、2015年より現職。日本産科婦人科学会専門医・指導医。日本産科婦人科内視鏡学会技術認定 技術認定医(腹腔鏡・子宮鏡)。日本女性医学学会認定ヘルスケア専門医・指導医。日本生殖医学会生殖医療専門医・指導医ほか。
「子宮腺筋症」とはどんな病気?
増田:子宮の病気のひとつ、子宮腺筋症とは、具体的にどのような病気なのでしょうか?
平池先生:子宮腺筋症は、子宮の最も内側にある子宮内膜組織が、子宮の筋層の中に侵入してできると考えられている良性の病気です。子宮内膜症は子宮以外の場所に子宮内膜が生着してできる病変のことをいいます。子宮にできる良性の病気という点では、子宮筋腫とも似ています。
増田:日本女性の子宮腺筋症の罹患率は5~70%(平均20~30%)*とされていますが、数字の幅が大きく、実際にどれくらい子宮腺筋症にかかっている人がいるのか、わかりにくいように感じます。また、発症する年齢やどの年代の罹患率が高いのかなどの正確なデータもないのでしょうか?
*「研修ノートNo.102 子宮内膜症・子宮腺筋症」 日本産婦人科医会 (jaog.or.jp)
平池先生:子宮腺筋症は、30代後半以降が、最も病変がわかるようになって症状が出現してくる年代であることは確かだと思います。けれども、正確な罹患率や発症する年齢層については明確なデータがない、というのが実際です。
どのような症状が起こりますか?
増田:子宮腺筋症の症状について教えてください。
平池先生:子宮腺筋症は、子宮内膜症のように強い月経痛を引き起こしたり、子宮筋腫のように月経量が増加し(月経過多)、貧血になったりします。症状の面では、子宮内膜症や子宮筋腫と似ている点が多々ありますね。
また、子宮腺筋症は、月経時以外に下腹痛や腰痛、出血を起こすこともあります。性交痛、排便痛、慢性骨盤痛、腹部膨満感なども起こりやすいとされていますが、それは子宮腺筋症の患者さんが子宮筋腫、子宮内膜症を同時に合併していることが多いからです。また、子宮腺筋症の患者さんは不妊症になることもしばしばあります。これらのことからも、現代女性のQOLを大きく損なう病気のひとつであることは間違いありません。
子宮腺筋症も、子宮筋腫や子宮内膜症と同じように、女性ホルモンの影響を受けて症状が悪化します。そのため、閉経すると病変は小さくなり、症状も消失することがほとんどで悪性化は稀と考えられています。
【子宮腺筋症】
病変と子宮筋層との境界が不明瞭です。子宮の一部分が厚くなることもありますが、病状が進むと子宮筋層全体がぶ厚くなります。
参考資料/『治療の難しい不妊症のためのガイドブック』東京大学医学部産婦人科研究班(厚生労働省令和3年度子ども・子育て支援推進調査研究事業)
https://www.gynecology-htu.jp/refractory/dl//hunin_guide3.pdf
子宮筋腫や子宮内膜症との違いは?
増田:子宮筋腫や子宮内膜症と共通点が多くあるとのことですが、どのようなところが似ていて、どう違うのでしょうか?
平池先生:子宮腺筋症の2大自覚症状は、痛みと過多月経です。そして、不妊になりやすい疾患でもあります。先ほどお話ししたように、症状は子宮筋腫や子宮内膜症ときわめて似ているため、自覚症状だけでは見極めがつかないと思います。
子宮腺筋症、子宮内膜症、子宮筋腫の特徴がわかるように、イラストと表でまとめましたのでご覧ください。
【子宮内膜症】
卵巣、腹膜が、子宮内膜症ができやすい場所です。このほか、子宮裏面のダグラス窩もできやすいところです。
【子宮筋腫】
子宮筋層にできるこぶ(良性腫瘍)です。子宮腺筋症とは対照的に、子宮筋腫は、境界明瞭なこぶ(腫瘍)を作って、子宮筋層と病変との境界がはっきりしているのが特徴です。
【子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症との症状の比較】
表中の空欄、+、++、+++:疾患ごとに症状の程度を相対的に表した。
百枝幹雄 編集 子宮筋腫・子宮内膜症・子宮腺筋症 診療マニュアル 診断と治療社 2013.p.4
【子宮腺筋症は、子宮筋腫、子宮内膜症と合併することも多い】
百枝幹雄 編: 子宮筋腫・子宮内膜症・子宮腺筋症 診療マニュアル 診断と治療社 2013 より引用改編
平池先生:このように、子宮腺筋症は、子宮内膜症や子宮筋腫と症状の面ではとてもよく似ている病気です。なので、症状だけではこれらのどの病気か見極めがつきません。また、これらの病気は同時に合併する人が多いことも知られています。
ですから、つらい月経痛がある、過多月経があるなど、月経に関連した不調を抱えている人は、放っておかないでまず婦人科を受診して診察を受けていただきたいと思います。
増田:ありがとうございます。まず私たちにできることは、つらい痛みや過多月経を放っておかないことですね。つらい月経痛があるということは、それだけで正常ではない可能性があることを知っておくことが大事。不調を抱えている人には、ぜひ婦人科を受診してほしいと思います。次回は、婦人科でどのような検査をして子宮腺筋症を診断するのか、不妊との関係についても詳しくお伺いします。
参考資料/
子宮腺筋症 | 東大病院 女性外科 (gynecology-htu.jp)
No.102 子宮内膜症・子宮腺筋症 – 日本産婦人科医会 (jaog.or.jp)
子宮腺筋症 | 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ|厚生労働省研究班監修 (w-health.jp)
取材・文/増田美加 イラスト/帆玉衣絵 内藤しなこ 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/木村美紀(yoi)