子宮腺筋症は、つらい月経痛と過多月経が特徴的な病気です。生活の質を著しく低下させるだけでなく、将来の妊娠、出産への影響も大きいことがわかりました。前回に引き続き、産婦人科医の平池修先生に、子宮腺筋症の不妊への影響について詳しく伺います。
不妊や妊娠、出産と「子宮腺筋症」との“密”な関係
増田:月経痛と過多月経が子宮腺筋症の2大症状だというお話を前回、伺いました。つらい月経痛と過多月経がある人は放置せずに婦人科を受診することが大事ですが、子宮腺筋症は、婦人科ではどのように発見されているのでしょうか?
平池先生:つらい月経痛(月経困難症)、過多月経が子宮腺筋症の2 大症状ですので、子宮腺筋症の患者さんの79%が、つらい月経痛や過多月経の症状で受診したことをきっかけに発見され、診断されています。また、不妊の悩みで受診したのをきっかけに、子宮腺筋症が見つかるケースも5%あります。その一方、まったく症状がないにもかかわらず子宮腺筋症であると診断されるケースも多々あります。
子宮腺筋症があっても必ずしも不妊になるわけではありませんが、体外受精や胚移植をする患者さんは、子宮腺筋症に罹患していることによって着床率・妊娠率が低下し、流産率が上昇する傾向にあることが、最近のデータからわかってきています*。
*「研修ノートNo.102 子宮内膜症・子宮腺筋症(2)診断」 日本産婦人科医会 (jaog.or.jp)
増田:子宮腺筋症は妊娠、出産にさまざまなかたちでかかわってくるのですね。
平池先生:そうですね。逆に、流産手術(子宮内容除去術)が子宮腺筋症の発症リスクになることもわかっています。そのため、ちょうど妊娠、出産期からその後の更年期世代の女性に好発する病気でもあるのです。
これに関しては、子宮腺筋症と妊娠中の合併症との関連もあるのではと考えられています。私の所属する東京大学医学部附属病院では、子宮腺筋症がある方の妊娠においては、流産、妊娠高血圧症候群、前置胎盤・低置胎盤、早産などの周産期合併症が増加する傾向を報告しました。
このように、子宮腺筋症は、つらい月経痛、過多月経などの症状によって生活の質を著しく低下させるだけでなく、不妊症や流産だけでなく、産科合併症を増加させる要因でもあるのです。
にこやかにインタビューにお答えくださった平池先生。右は増田美加さん。
東京大学医学部附属病院 女性診療科 准教授
東京大学大学院医学系研究科・医学部 生殖・発達・加齢医学専攻 分子細胞生殖医学准教授。医学博士。東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院女性診療科・産科助教、スウェーデン王国カロリンスカ研究所招聘研究員、公立学校共済組合関東中央病院産婦人科医長ほかを経て、2015年より現職。日本産科婦人科学会専門医・指導医。日本産科婦人科内視鏡学会技術認定 技術認定医(腹腔鏡・子宮鏡)。日本女性医学学会認定ヘルスケア専門医・指導医。日本生殖医学会生殖医療専門医・指導医ほか。
子宮腺筋症が疑われる場合に必要な検査とは?
増田:ますます、月経痛や過多月経があったら早めに婦人科を受診することの重要性がわかりました。受診した際はどのような検査をするのでしょうか?
平池先生:婦人科では、おおむね次のような流れで診察します。
①問診で、「どのような症状が、いつ(月経時期)、どの程度あるのか」について聞きます。特に、月経痛と過多月経の症状で、どの程度生活に支障があるのかという点が、治療を考えるうえで重要です。
②内診(必要に応じて直腸診)を行なって、子宮の大きさ、子宮の可動性、痛みがあるかどうか、ダグラス窩や卵巣の状態を診ます。
③経腟超音波検査で、子宮、卵巣の状態を診ます。
④血液検査で腫瘍マーカー(CA125)をチェックします。症状の強い子宮腺筋症では陽性になりやすいですが、軽度の子宮腺筋症では病気があっても陽性にならない場合があります。CA125は、子宮内膜症でも陽性になりますが、月経時期に測定すると高くでる傾向があることに注意しなくてはいけません。
⑤ 子宮腺筋症の位置、広がり、子宮内膜症があるかどうかを判断するためにMRIを行います。MRIによって、子宮筋腫と子宮腺筋症の区別や悪性(子宮肉腫など)の見極めもある程度できます。
このような検査で総合的に診断をします。近年では特に、超音波やMRIなどの画像検査の進歩によって、子宮腺筋症が診断される機会が増えています。
子宮腺筋症になると、必ず不妊症になるの?
増田:子宮腺筋症があると、不妊症になるリスクが高いと考えたほうがよいのですね?
平池先生: 子宮腺筋症があっても、必ず不妊になるわけではありません。将来、妊娠・出産の希望がある場合、無症状か、鎮痛剤や鉄剤で対処が可能なくらい症状が軽いなら、そのまま妊娠・出産を考えてもよいと思います。
すぐに妊娠を希望している方にはホルモン剤などの治療が行えませんので、月経痛や月経過多が強い場合には、早期の妊娠を目指して、まず不妊の検査や治療を行うことをおすすめしています。なかには、不妊治療として体外受精・胚移植のような高度生殖医療が必要になる場合もあります。
子宮腺筋症で妊娠した場合、子宮腺筋症があることによって、先ほどお話ししたように、早産や流産が起こりやすくなる可能性があります。下腹痛や出血などに注意しながら、慎重に経過を診ていくことが必要になります。
増田:妊娠、出産の時期を終えた更年期世代の女性に子宮腺筋症があった場合は、どうなのでしょうか?
平池先生:子宮筋腫と同じように、女性ホルモンが低下すると、子宮腺筋症の病変は萎縮して小さくなります。そのため、閉経後は月経痛や過多月経は消失します。
ですから、無症状、症状が軽度または閉経後の方は、ホルモン療法や手術による治療を行う必要はあまりありません。症状が強い場合でも、ホルモン療法で閉経までなんとか逃げきれれば、閉経後は治療が不要になります。
予防のためには月経痛をそのままにしないこと
増田:なるほど。妊娠、出産の希望があるかどうか、年齢的に更年期にさしかかっているかどうか、症状が軽いのか重いのかなどさまざまな条件によって、対処の仕方が変わってくるのですね。
平池先生:そうですね。子宮腺筋症の根治治療は、子宮を摘出することです。妊娠、出産を終えた年齢の方や、お子さんを望まない方なら、子宮を全摘出することで子宮腺筋症は治ります。
けれども、これから妊娠、出産を考えている方は、どういう治療の選択をするか悩むところだと思います。子宮腺筋症の治療をどうするか? 妊娠、出産の時期はどうするか? 人生の計画、ライフプランニングが重要になってきます。
増田:将来、妊娠や出産をしたいと思っている方には、症状の重い子宮腺筋症にならないための対策も大事だと思います。予防できる方法はないのですか?
平池先生:確実な予防法はありませんが、月経痛があったらそのままにしないことは非常に重要です。月経痛は、将来の子宮内膜症発症のリスクになりえます。そして、子宮内膜症と子宮腺筋症はよく合併します。
ですから、月経痛があったら、低用量エストロゲン・プロゲスチン製剤(LEP)を服用するなどして対策をしておくことで、将来の子宮腺筋症、子宮内膜症の予防になるかもしれません。少なくとも、LEPで月経痛や過多月経の悩みが軽減して、自分で月経をコントロールできることは間違いありません。
増田:そうですね。少なくとも月経痛や過多月経を放っておかずに、不調の背景に隠れた病気はないか、婦人科できちんと診断してもらうことは大切ですね。次回はさらに詳しく、子宮腺筋症の具体的な治療について伺います。
参考資料/
『治療の難しい不妊症のためのガイドブック』東京大学医学部産婦人科研究班(厚生労働省令和3年度子ども・子育て支援推進調査研究事業)(https://www.gynecology-htu.jp/refractory/dl//hunin_guide3.pdf)
No.102 子宮内膜症・子宮腺筋症 – 日本産婦人科医会 (jaog.or.jp)
子宮腺筋症 | 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ|厚生労働省研究班監修 (w-health.jp)
取材・文/増田美加 イラスト/帆玉衣絵 内藤しなこ 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/木村美紀(yoi)