子宮腺筋症の治療法には、薬と手術があります。将来の妊娠、出産を希望する場合、どちらをどのタイミングで選ぶかが重要になってきます。今回も産婦人科医の平池修先生に、子宮腺筋症の治療についてと、治療を選択するポイントを取材しました。

どんな治療法がありますか?

増田:子宮腺筋症は、重症度、進行度、ライフスタイルによってさまざまな治療法の選択肢があるということですが、具体的にどのような治療法があるのかを教えてください。

平池先生:この20 年間、新しいホルモン剤や手術法の開発、さらには体外受精の技術の進歩と普及によって、婦人科領域の治療は大きく変わってきました。にもかかわらず、子宮腺筋症の治療法はまだ確立されたものがなく、依然として専門家の間でも議論の対象となっています。子宮腺筋症の治療は、いまだ未解決と言っていいでしょう。

現状では、治療法は大きく分けて薬物療法と手術療法があります。すぐに妊娠、出産の希望があれば自然妊娠を試みてもらいますが、妊娠に至らない場合は不妊治療を行い、ガイドラインなどに沿って体外受精や顕微授精などのART(生殖補助医療)に早めにステップアップすることを勧めています。

薬物療法を先行しても妊娠する力が回復するというエビデンスはないため、子宮内膜症のガイドラインに準じて不妊治療を優先したほうがいいとされています。

下記のチャートで、妊娠、出産を希望する場合とそうでない場合の治療の選択の考え方についてまとめましたので、参考にしてください。

【妊娠、出産に関連した子宮腺筋症の治療の考え方】

子宮腺筋症の治療の選択

ART:生殖補助医療で、体外受精、顕微授精などを指します。
https://www.jaog.or.jp/note/ 日本産婦人科医会 子宮腺筋症への対応より

平池先生:表に示した「子宮腺筋症核出術」は、子宮を残して子宮腺筋症の病変のみを摘出する手術で、厚生労働省が認定する先進医療ですが、先進医療としては東京大学医学部附属病院(以下・東大病院)ほか一部の施設でしか行われていません

子宮腺筋症のみを切除したあとの妊娠では、子宮破裂や癒着胎盤といった周産期合併症の危険性が高まったり、帝王切開が必要になったりなど、特別な注意が必要になるというのがその理由です。もし選択する場合でも、医師と十分相談して、手術のメリット・デメリットを理解したうえで決めることが大切です。

【先進医療を実施している医療機関の一覧/厚生労働省】

子宮を残して子宮腺筋症の病変のみを摘出する手術は、東大病院ほか、一部の施設で先進医療として行われています。医療機関の一覧はこちらの厚生労働省のホームページに紹介されています。

痛みや過多月経をコントロールする薬物療法とは?

増田:つらい月経痛や過多月経を軽減するために薬物療法も行われているとのことですが、どのようなお薬を使うのでしょうか?

平池先生子宮腺筋症の治療で使うお薬は、鎮痛剤、漢方薬、各種ホルモン剤があります。卵巣から分泌される女性ホルモンのエストロゲンによって子宮腺筋症の症状が悪化するため、子宮腺筋症に対する薬物療法は、エストロゲンの分泌や作用を抑えることを目的として使われているものが多いです。以下のような薬物療法を適切に行うことで、QOLは上がってくると思います。

【子宮腺筋症の薬物療法】
●鎮痛剤:NSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)、アセトアミノフェンなど
●漢方薬:当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)など
●低用量ピル(LEP):エストロゲン・プロゲステロンの合剤の内服薬です。卵巣からのエストロゲンの分泌を抑える働きがあります。最近は月1回の休薬期間を設ける使い方だけではなく、連続して使うことで出血する回数を減らし、子宮腺筋症による症状を緩和する方法も行われています。
●ジエノゲスト:黄体ホルモン(プロゲステロン)製剤の内服薬です。子宮腺筋症の症状を緩和する目的で使います。
●GnRHアナログ(GnRHアゴニスト):女性ホルモンが子宮腺筋症を活発にするため、卵巣から分泌される女性ホルモンを閉経状態にまで減らして、無月経にすることで症状を緩和します。偽閉経療法とも呼ばれ、内服薬、注射薬、点鼻薬などがあります。症状を緩和する治療効果は大きいものの、更年期症状、骨量減少などの副作用があるため、連続して6カ月間しか使用できません。
●レボノルゲストレル放出子宮内システム:子宮内に留置する器具で、黄体ホルモン(レボノルゲストレル)を放出します。内服する必要がなく、一度子宮内に留置すると4~5年は効果が継続します。

【子宮腺筋症の薬物療法の選択の仕方】

子宮腺筋症の治療法の選択

GnRHa=GnRHアゴニスト
LNG-IUS=レボノルゲストレル放出子宮内システム
LEP=低用量エストロゲン・プロゲスチン

「研修ノートNo.102 子宮内膜症・子宮腺筋症(3)子宮腺筋症への対応」日本産婦人科医会 (jaog.or.jp)より

手術療法を選択するときはどんなとき? そのポイントは?

増田:2大治療のもうひとつ、手術療法について教えてください。どんなときに手術を選択するのがよいのでしょうか?

平池先生妊娠・出産の希望があるものの不妊だった場合、子宮腺筋症が進行して子宮が大きくなってしまうと妊娠できなくなる可能性もあるので、病変の広がりと不妊の兼ね合いをみて、担当医とよく相談することが大切です。

この場合の手術とは、先ほどお話しした、子宮を残して子宮腺筋症の病変のみを摘出する子宮腺筋症核出術になりますので、先進医療としては、東大病院ほか、一部の施設のみで行えます。

妊娠、出産の希望がない方でしたら、子宮をすべて切除する子宮全摘術が行えます。根治的な治療となるのはこちらの手術です。東大病院では開腹手術だけでなく、腹腔鏡手術、ロボット支援下手術などの低侵襲手術も行なっています。

どの手術の方法が適切かは、MRIなどで子宮の大きさや癒着の程度などを診て判断します。私たち東大病院では、可能な限り、傷の小さな低侵襲手術を行うことを目指しています。

東京大学医学部産婦人科研究班では、『治療の難しい不妊症のためのガイドブック』(厚生労働省令和3年度子ども・子育て支援推進調査研究事業)https://www.gynecology-htu.jp/refractory/dl//hunin_guide3.pdf を作成しました。子宮腺筋症、子宮内膜症、子宮筋腫ほかの方の治療の難しい不妊症の方々に参考にしていただくガイドブックです。よろしければお役立てください。

産婦人科医の平池 修先生

子宮腺筋症の治療について、丁寧に教えてくださった平池先生。

平池 修(ひらいけおさむ)先生

東京大学医学部附属病院 女性診療科 准教授

平池 修(ひらいけおさむ)先生

東京大学大学院医学系研究科・医学部 生殖・発達・加齢医学専攻 分子細胞生殖医学准教授。医学博士。東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院女性診療科・産科助教、スウェーデン王国カロリンスカ研究所招聘研究員、公立学校共済組合関東中央病院産婦人科医長ほかを経て、2015年より現職。日本産科婦人科学会専門医・指導医。日本産科婦人科内視鏡学会技術認定 技術認定医(腹腔鏡・子宮鏡)。日本女性医学学会認定ヘルスケア専門医・指導医。日本生殖医学会生殖医療専門医・指導医ほか。

子宮腺筋症という病気を知って、今、私たちができること

増田:どんな心構えで治療を受けたらよいかのアドバイスをお願いいたします。

平池先生:症状がひどい子宮腺筋症になると、治療が大変です。妊娠、出産を希望して、治療に悩み苦しんでいる患者さんをたくさん診てきました。

その立場から思うのは、くれぐれも月経痛を放っておかないでほしいということです。月経痛や過多月経がある方は、ぜひ一度、婦人科を受診してほしいのです。そうすれば、病気があるかないか、病気があるとすれば子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症の早期発見にもつながります。早期発見なら、治療もうまくいく可能性が高い。少しでも早く治療すれば、不妊症に苦しまずにすむかもしれません

また、症状がまったくない方にも子宮腺筋症が見つかることもあります。20歳になったら、子宮頸がん検診と同じように婦人科を受診して、経腟超音波検査を行なってみてください。

経腟超音波検査は、妊娠、出産前の方にはハードルが高いかもしれませんが、将来、妊娠したいという気持ちになるかもしれない可能性も大事にしてください。経腟超音波検査を受けることが大人の女性の常識になってくれたら、と個人的には思っています。

将来をつくるのは自分自身です。仕事などに追われている毎日で、難しいと思うかもしれませんが、ヘルスリテラシーを身につけて、将来のライフプランを考える機会も大切だと思います。「赤ちゃんが欲しかった」と泣いている患者さんを治療していると、私たちも悲しい。自分のライフプランをつくるのは自分自身だという自覚を忘れないでほしいです。もちろん、子どもを持たなくてもいい。あなた自身の健康で自分らしい人生を生きるためにも、です。

増田:子宮腺筋症という病気自体がまだわからないことも多く、治療方法も専門家が常に議論しているということを伺い、難しい病気だということが今回よくわかりました。でも、私たち自身ができることもあるということもわかりました。

月経まわりの不調を放っておかないことが、何より大切です。そして、20歳からは大人の女性として婦人科のホームドクターをもって、不調がなくても1~2年に1回は受診して、経腟超音波でチェックすること。こういったヘルスリテラシーを持つことも重要ですね。

婦人科での定期的な検査を大人の女性の常識に。

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

参考資料/
『治療の難しい不妊症のためのガイドブック』東京大学医学部産婦人科研究班(厚生労働省令和3年度子ども・子育て支援推進調査研究事業)難治性不妊を知るためのガイド | 令和3年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業 難治性不妊の病態と新規医療技術の評価・分析に基づく不妊症診療の質向上と普及に資する研究 (gynecology-htu.jp)
先進医療を実施している医療機関の一覧|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
No.102 子宮内膜症・子宮腺筋症 – 日本産婦人科医会 (jaog.or.jp)

取材・文/増田美加 イラスト/帆玉衣絵    内藤しなこ 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/木村美紀(yoi)

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