乳がん検診の結果を受け取って、「精密検査」が必要と言われたらどうしたらいいでしょうか。どんな検査をどこで受けるのか? 不安になる人も少なくないと思います。乳腺外科医の片岡明美先生に、乳がん検診の精密検査について、詳しく聞きました。
乳がん検診で「要精密検査」に。どんな検査を受けるの?
増田:乳がん検診で精密検査が必要と言われ、「がんかもしれない」と不安になり、どうしたらいいか戸惑うという声を聞きます。乳がんの精密検査について教えてください。
片岡先生:マンモグラフィを受けた人のうち、10%弱の人が「精密検査を受ける必要がある」と判断されます。あくまでも乳がん検診はスクリーニングなので、がんかどうかを判定する検査ではありません。精密検査を受けてみなければ、がんかどうかはわかりません。精密検査が必要と言われた人のうち、実際に乳がんが発見されるのは約10%未満です。つまり、精密検査を受けた人のうち90%以上の人が良性なのです。
ですから精密検査が必要と言われても、“イコールがん”と思う必要はありません。良性であることを確認するためにも、また悪性の場合は早く今後の治療を始めるためにも、速やかに精密検査を受けてください。
精密検査は、「細胞診」か「組織診」を行います。細胞診は、しこりなどの病変部分の細胞の一部を採取して、がん細胞か否かを顕微鏡で調べる検査です。組織診(針生検)は、細胞診より少しだけ太い針で組織を取って調べるため、細胞診より確実な判断ができます。
針生検は、乳がんかどうかの正確な診断につながる大切な検査です。精密検査で行われる針生検のひとつ「吸引式乳房組織生検」について詳しく紹介します。
【吸引式乳房組織生検】
「吸引式乳房組織生検」は、マンモグラフィや超音波などで病変を診ながら、医師が直径2~4ミリの針を刺して組織を抜き取ります。一度に必要な組織が十分取れるため、検査も1回で済み、診断が確定するまでの不安な時間が短くて済みます。がんであった場合、その後の治療方針の決定などに役立つさまざまな情報が得られます。
【検査時の姿勢】
乳房の病変の状態によって超音波、マンモグラフィ、MRIのいずれかを用いて、医師が病変を確認して、 吸引式乳房組織生検の機器を使って組織を採取します。超音波で病変を確認し、組織を採取。 あお向けの姿勢で行います。
経過観察と言われた。どうすれば?
増田:乳がん検診や精密検査を受けたあと、「経過観察が必要」と言われることも少なくありません。経過観察とはどういう意味で、どのように行われるのでしょうか?
片岡先生:乳がん検診やその精密検査では、がんの有無がわかるだけでなく、良性の病気が発見されることもあります。乳房にしこりができていたからといって、すべてが乳がんではありません。しこりの80~90%は良性のものだと言われています。良性の乳房の病気の中には、乳がんに似たものもあり、治療が必要なものもあります。また、治療の必要がまったくない良性のしこりもあります。
また、現状ではおそらく良性であるけれども、乳がんかどうか最終的に判断がつかないものもあります。その場合は医師の判断によりますが、最初は3~6カ月ごとに2回、その後は1年後、次は2年後、3年後というふうにマンモグラフィや超音波を行います。約2~3年で病変に変化がなければ良性と判断して経過観察を終了します。
私の経験では、経過観察をしている方のうちほとんどは良性です。経過観察のあいだに病変の形が変わったり、大きくなったりした場合は、針生検を行なって診断しますが、乳がんが見つかる可能性は数%以下です。ですから経過観察と言われても、乳がんにおびえる必要はありません。しかし良性に見える乳がんもあるので、医師の指示に従って、必ず再検査は受けてください。
リモートでの取材に、丁寧にご対応してくださった片岡明美先生。
がん研有明病院乳腺外科医長
1994年、佐賀医科大学卒業。九州大学医学部第二外科、国立病院機構九州がんセンター乳腺科などを経て、2016年より現職。日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本外科学会指導医、日本乳癌学会乳腺指導医。検診マンモグラフィ読影認定医師、認定NPO法人ハッピーマンマ理事、認定NPO法人乳房健康研究会理事、日本乳癌学会評議員、日本サポーティブケア学会妊孕性部会メンバー。
乳房の良性の病気にはどんなものがある?
増田:乳がん検診や精密検査で見つかる良性の病気には、どんなものがありますか?
片岡先生:乳がん検診を初めて受けた場合は、マンモグラフィや超音波検査で乳がん以外の病気が見つかることも少なくありません。また、セルフチェックでしこりを感じて受診する方の中にも、乳がんではなく、良性のしこりだったという方も少なくありません。
しこりの80~90%は、良性の病気です。なかでも多いのは乳腺症、乳腺線維腺腫などです。ほかに、葉状腫瘍、乳腺炎、乳管内乳頭腫などもありますので、紹介します。
乳腺症
30〜40代の女性に多い乳腺の生理的な変化で、基本的に経過観察も治療の必要もありません。痛みが強ければ鎮痛剤で抑えます。またほとんどは、将来がんになることもありません。症状は月経周期に関連するしこりや痛みで、月経前にしこりが大きくなり痛みが出たりしますが、月経後に縮小します。
乳腺線維腺腫(にゅうせんせんいせんしゅ)
20~40代の女性にできる乳房のしこりで、弾力があり、触るとクルンクルンとよく動きます。とくに専門医での経過観察や治療も必要ありませんが、セルフチェックで変化を感じたり、大きくなってきたら専門医を受診しましょう。3cmを超えたら摘出手術の対象になります。
葉状腫瘍(ようじょうしゅよう)
楕円形の弾性のあるしこりで、急速に大きくなることが多いのが特徴。しこりが大きくなりすぎる前に、手術で確実に摘出するのが重要です。再発や悪性化する場合もあるので、乳腺専門医での手術とその後の経過観察が必要です。
乳腺炎
授乳時に乳腺に滞った母乳が原因で起きたり、陥没した乳頭から乳腺に細菌が入ることで起こります。乳腺の炎症で、赤く腫れ、痛み、うみ、しこりなどの症状や、高熱が出ることもありますので、産婦人科または乳腺外科の受診が必要です。乳腺内にたまった母乳やうみを出すために、マッサージ、注射器での吸引、皮膚を切開しうみを出しやすくする処置や抗生剤の処方が行われることもあります。
乳管内乳頭腫(にゅうかんないにゅうとうしゅ)
乳管内にポリープのようなしこりができて、ときに乳頭から血液の混じった分泌液が出て下着が汚れることがあります。細胞診などの検査の結果や症状に応じて、手術を行うことで分泌液は止まります。
増田:精密検査やその結果について事前に知っておくことで、無用な不安を感じずに、冷静に臨めますね。次回は、万が一乳がんがわかったときに、冷静に対処するにはどうしたらいいかをお伝えします。
取材・文/増田美加 イラスト/帆玉衣絵 内藤しなこ 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/木村美紀(yoi)