「排卵前になると、おりものの量が増えるのが悩み」「においが気になる」「ほかの人はどうなのかな?」と読者の皆さんからの声。おりものは、女性ホルモンのサイクルや健康を判断するバロメーターとなる大事なサインです。量やにおい、色などは月経周期や健康状態によっても変わります。そこで、おりものの働きや気になったときのケア方法、異常なおりものについて、4回にわたって産婦人科医の吉本裕子先生に伺いました。

吉本裕子先生のイラストによる、連載第18回の扉

おりものって何? どんな働きがありますか?

増田:おりものを気にする人が多いですが、吉本先生のクリニックにも相談に来る方はいらっしゃいますか?

吉本先生:クリニックを開業して17年目になりますが、本当にたくさんの女性がおりものに悩んで受診されます。大きな病院で診察していたときには婦人科の病気の治療が中心でしたので、開業してみて、皆さんがこんなにおりものに悩んでいることに驚きました。

増田:実はおりものには、体を守る大切な役割があるんですよね?

吉本先生:はい、そうなんです。正常なおりものなのに心配して来院する人も、とても多いですね。おりもののことを正しく知れば、無用な心配をしなくて済むと思います。

「おりもの」というのは、子宮頸部や子宮内膜、腟から出る酸性の分泌物の総称です。汗腺からの汗なども混ざって腟から排出されます。おりものには、「腟内部のうるおいを保って粘膜を守る」「汚れを排出する」「ばい菌などが子宮内に侵入するのを防ぐ」といった働きがあります。また、排卵時にはとろみのあるゼリー状に変わって、腟や子宮頸部を精子を受け入れやすい状態にする働きもあるんですよ。

リモート取材中の吉本先生と増田さん

吉本先生には今回、リモートで取材にお答えいただきました。

吉本裕子(よしもとゆうこ)先生

吉本レディースクリニック院長

吉本裕子(よしもとゆうこ)先生

産婦人科医。日本専門医機構認定専門医。高知医大(現・高知大学医学部)卒業。金沢大学付属病院、富山市民病院を経て現職。NPO法人女性医療ネットワーク理事、富山市医師会理事、性暴力被害ワンストップ支援センター富山協力医師、女性被害者支援ネットワーク医師、富山大学人間発達科学部附属中学校評議員。吉本レディースクリニックは、病気治療だけでなく、女性の人生に寄り添い、心身の拠り所となるクリニックとして定評がある。『Rp.+(レシピプラス)VOL.21 NO.1 2022冬号「ホルモンとくすり」』(南山堂)共同執筆。

月経周期によって、おりものの量や色、においが変わる!

増田:月経周期によって、おりものの状態(量や色)はどのように変化するのでしょうか?

吉本先生:ひと月の月経の周期には、卵胞期・排卵期・黄体期・月経期がありますが、そのタイミングごとにおりものの量や色、においは変わります。もちろん、個人差も大きいです。

女性ホルモンの影響によって、女性の体は一定のサイクルで変化を繰り返しています。これが月経周期ですが、女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンの分泌量が変化するのに伴って、おりものの量や状態も変化します。

月経周期とおりものの関係を、以下のグラフで表してみました。自分なりに月経周期とおりものの変化のパターンを知っておけば、「そろそろ排卵日?」「生理が近い?」と、体の状態を知る目安にもなりますね。

月経周期とおりものの量、色の変化グラフ

【月経周期による正常なおりものの変化】

●月経直後~卵胞期前
月経が終わってすぐは、おりものが少ない時期。月経のなごりで血液が混ざって茶褐色になっていることも。生臭く感じることもあります。その後、排卵が近づくにつれて、量が少しずつ増えてきます

●排卵期
おりものの量がピークを迎える時期。排卵期は精子を運びやすくするために、透明で、卵の白身部分のように糸を引くようなトロッとした状態に変化します。よく伸びるおりものが2~3日続きますが、においは強くありません。この時期におりものに血が混ざることがありますが、たいていは「中間期出血」といって生理的な現象です。中間期出血は、まれに起こる場合は心配いりませんが、毎回、排卵時期に出血する人は、子宮内のポリープなども考えられるので、婦人科を受診することをおすすめします。

●黄体期
排卵後、おりものの量はしだいに少なくなり、透明から乳白色に変わります。排卵後は、子宮内にばい菌が入らないようにブロックするため、白濁した糊のような粘り気のあるおりものになります。下着に付いて乾くと、黄色っぽくなることも。さらに生理が近づくと、においが強くなったり、まれに少量の血液が混ざることもあります。

●月経期
月経が始まると、おりものはなくなります。

月経周期とおりもののパターンを知っておくと体調を知る目安に

増田:おりものは、私たちの月経周期を知るサインになりますね。自分のおりものの変化を知っておくと、排卵日や月経日を事前に予測できるかもしれません。次回は、おりものの量やにおいへの正しい対策のしかたについて、吉本先生に詳しく伺います。

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

取材・文/増田美加 イラスト/itabamoe 撮影/島袋智子 Photo by dragana991 / iStock / Getty Images Plus 企画・編集/浅香淳子(yoi)

中込彰子先生のイラストによる、連載第17回の扉
生理の量が多くて貧血気味…。貧血は治療すべき? 増田美加のドクタートーク Vol.17
中込彰子先生のイラストによる、連載第16回の扉
出血の多さ、なんとかしたい。過多月経の対策を教えて! 増田美加のドクタートーク Vol.16
中込彰子先生のイラストによる、連載第15回の扉
ナプキンから漏れる。生理の出血が多くてつらい…これって病気? 増田美加のドクタートーク Vol.15
柴田綾子先生のイラストによる、連載第14回の扉
知っておきたい、HPVワクチンと子宮頸がん検診のこと 増田美加のドクタートーク Vol.14
柴田綾子先生のイラストによる、連載第13回の扉
「HPVワクチン」で子宮頸がんは予防できる? 増田美加のドクタートーク Vol.13
柴田綾子先生のイラストによる、連載第12回の扉
若い世代がなりやすい「子宮頸がん」ってどんな病気? 増田美加のドクタートーク Vol.12
小野陽子先生のイラストによる、連載第11回の扉
PMDD相談室「止まらないイライラ、彼とのケンカ…どうする?」 増田美加のドクタートーク Vol.11
小野陽子先生のイラストによる、連載第10回の扉
増田美加のドクタートーク Vol.10 生理前の不安やイライラがつらいPMDDを治すには?
小野陽子先生のイラストによる、連載第9回の扉
増田美加のドクタートーク Vol.9 生理前の不安やイライラ…。PMDDってどんな病気?
八田真理子先生のイラストによる、連載第8回の扉
増田美加のドクタートーク Vol.8 PMSで起こる眠気、食欲、ニキビ・吹き出物の対策は?
八田真理子先生のイラストによる、連載第7回の扉
増田美加のドクタートーク Vol.7 PMSの痛み[頭痛、胸の痛み、お腹・腰の痛み]をケアする方法は?
八田真理子先生のイラストによる、連載第6回の扉
増田美加のドクタートーク Vol.6 PMSはなぜ起こるの? つらい人とそうでない人がいるのはなぜ?
甲賀かをり先生のイラストによる、連載第5回の扉
増田美加のドクタートーク Vol.5 「生理痛を周りに言えない」「休めない」はどうすればいい?
甲賀かをり先生のイラストによる、連載第4回の扉
増田美加のドクタートーク Vol.4 生理痛で低用量ピルを飲むメリットは? 副作用は大丈夫?
甲賀かをり先生のイラストによる、連載第3回の扉
増田美加のドクタートーク Vol.3 生理痛の痛み止め、毎月飲んでいいの?
甲賀かをり先生のイラストによる、連載第2回の扉
増田美加のドクタートーク Vol.2 だんだんひどくなる生理痛、どうしたらいい?
甲賀先生の似顔絵イラスト
増田美加のドクタートーク Vol.1 つらい生理。ガマンしてはいけない痛みとは?