今年4月から不妊治療の一部が保険適用に。不妊症のカップルが約10組に1組といわれるなか、最近では妊娠を考えるカップルの年齢が上昇して、不妊症はさらに増えているとも指摘されています。今回は、不妊治療の現状と、保険適用になった治療について、東京大学医学部附属病院の廣田泰先生に引き続き取材しました。
今行われている不妊治療とは?
増田:日本では、毎年約6万人の赤ちゃんが不妊治療によって生まれています。これは日本で生まれてくる赤ちゃん(約86万人)の7%で、約14人に1人の割合。この数は年々増加しています(2019年データ)。
そして、日本で不妊症を心配したことがあるカップルは約35%もいて、実際に不妊症の検査や治療を受けたことがある(または受けている)カップルは約18%。カップル全体の約5.5組に1組の割合になります。不妊治療を行っているカップルが年々増えていることがわかりますが、今、病院では、どんな不妊治療が行われているのでしょうか?
廣田先生:不妊治療の病院を受診していただくと、まず検査をして、原因を調べます。不妊の原因は、女性だけにあるわけではありません。約半数は男性に原因があるとされており、検査や治療は女性、男性の両方に対して行います。
男性の場合は精子について、十分な数の精子があるか、活動状態はどうかといったことを調べます。女性は、排卵しているかどうか、ホルモンがきちんと出ているか、排卵後に卵子が子宮へ行くための通り道である卵管がきちんと働いているか、受精卵が着床する子宮の内部の状態はどうか、精子が入っていけるか、などを調べます。しかし、これらの検査をしても、不妊の原因がわからない場合もあります。
廣田先生(左)にはリモートでインタビューをお受けいただきました。右は本連載執筆者の増田美加さん。
廣田先生:また、検査の結果、もし原因となる病気(子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症ほか)があれば、その治療もしていきます。内視鏡手術(子宮鏡・卵管鏡・腹腔鏡)などを行う場合もあります。
おもな不妊治療には、タイミング法、排卵誘発法、人工授精などの「一般不妊治療」、体外受精などの「生殖補助医療」があります。治療は通常、できるだけ負担の少ない簡単な治療から始め、その治療法で妊娠しなければ、必要に応じて高度な治療へとステップアップしていきます。
【男性不妊、女性不妊、原因不明の場合の不妊治療の流れ】
■不妊治療についての詳しい情報はこちらからも!
東京都福祉保健局|子供ができにくいかも?と思ったら:不妊治療を受ける
廣田先生:男性も女性も、加齢によって妊娠しにくくなることがわかっています。治療を先送りすることで、妊娠しづらくなることも考えられます。赤ちゃんが欲しいと思ったら、一定期間を待つことなく、すぐに検査や治療に踏みきったほうがいい場合もあります。
妊娠・出産を希望するおふたりにとって、不妊症では? と考えるだけでも不安だと思います。まずは病気のないことを確認し、人生設計を立てるという目的のためでもけっこうですので、産婦人科医に相談していただければと思います。
保険適用となった不妊治療はこれ!
増田:赤ちゃんが欲しいカップルにとって、不妊治療の保険適用はうれしいことだと思います。今年4月から保険適用になった不妊治療にはどんなものがあるのでしょうか?
廣田先生:これまでも、排卵の有無やホルモン検査などの不妊症の検査は保険適用でした。また、精子の検査、卵管の検査(子宮卵管造影)、超音波による卵巣のチェック、不妊の原因となる病気の治療も保険で行われていました。それ以外はこれまで自費(自由診療)だったのですが、2022年4月からは多くの不妊治療が保険適用になりました。
今後は、原因が不明の不妊症や、治療をしたけれども妊娠・出産につながらなかった不妊症への治療も保険適用に該当します。具体的には、「一般不妊治療」のタイミング法、人工授精だけでなく、「生殖補助医療」の体外受精、顕微授精、受精卵・胚培養、胚(受精卵)の凍結(保存3年間)、胚移植(受精卵を子宮に移植)などです。男性の不妊治療も保険適用になりました。
これまで自費で高額だった生殖補助医療(体外受精、顕微授精、胚移植など)がすべて保険でまかなえるようになったことは、不妊治療を行うカップルにとって大いに助かるのではと思います。
【保険適用となった不妊治療】
リーフレット「不妊治療の保険適用」(厚生労働省)より
増田:かなり広い範囲の不妊治療が保険適用となったのですね。経済的な問題で不妊治療が受けられなかったり、続けられなかったカップルにとっては本当にありがたい制度だと思います。
次回は、保険適用になった不妊治療の年齢制限について、引き続き、詳しく廣田先生に伺います。
東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座 准教授
産婦人科医。医学博士。東京大学医学部医学科卒業。東京大学大学院医学系研究科修了。ヴァンダービルト大学研究員、シンシナティ小児病院研究員留学。東京大学医学部附属病院女性診療科・産科講師ほかを経て、2020年より現職。日本産科婦人科学会 専門医・指導医。日本生殖医学会幹事長、生殖医療専門医・指導医。日本内分泌学会内分泌代謝科専門医・指導医。『治療の難しい不妊症のためのガイドブック』の執筆・編集に携わる。
取材・文/増田美加 イラスト/itabamoe 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/浅香淳子(yoi)