おりもののほとんどは正常なもので、私たちの体を守ってくれている存在だということが、前回までの吉本裕子先生のお話でわかりました。では、異常なおりものとは、どんなものなのでしょうか? おりものの異常は、病気のサインである可能性もあります。性感染症の可能性があるおりものの見分け方について、引き続き、吉本先生に伺いました。
異常なおりものとは、どんなもの?
増田:おりものは私たちの体を守ってくれていて、「腟のうるおいを保って粘膜を守る」「腟内の汚れを排出する」「ばい菌などが子宮内に侵入するのを防ぐ」といった働きがあることがわかりました。一方で、異常のある注意すべきおりものとは、どんなものなのでしょうか?
吉本先生:おりものが変化することが多い病気は、いくつかあります。よくあるのは「細菌性腟症」です。過労やストレスで免疫力が低下すると、細菌の侵入を防いでいた腟の自浄作用の力が落ちて、腟に炎症が起こるのが細菌性腟症です。
細菌性腟症になると、おりものが、風邪を引いたときの黄色っぽい鼻水のように変化することがあります。魚の腐ったようなにおいがしたり、おりものが皮膚に付くとかゆみが出ることもあります。細菌の種類によっては、もっと濃い、黄土色っぽい色になることも。いつもの自分のおりものと違う、と変化に気づいたら、婦人科で相談しましょう。腟錠で治療することができます。
ほかにも、腟カンジダ症や、性感染症のクラミジア感染症や腟トリコモナス症、淋菌感染症などの病気が原因で、おりものの状態や色が変わったり、悪臭がする場合もあります。
病気が原因のおりものとは?
吉本先生:病気によるおりものは、下の表のような状態、色、においになります。そのほか、子宮腟部びらんや子宮頸管ポリープなどの場合には、おりものに血が混じることがあります。いつもの自分のおりものと違うと感じたら、婦人科を早めに受診してください。
気になる「性感染症」とはどんな病気?
増田:おりものの異常がサインになる腟カンジダ症や性感染症は、どんな病気なのか教えてください。
吉本先生:性感染症は、おもにセックスによってうつる病気です。知らないうちに感染したり、他人にうつしてしまったりすることもあります。性感染症の原因となるのは菌や微生物ですが、さまざまな種類があり、症状や治療法もそれぞれ異なります。上の表にあげた病気について解説しますね。
【腟カンジダ症】
●原因:カンジダ属の真菌(カビの一種)。風邪などで免疫力が低下したり、歯の治療などで抗生剤を服用したりすることでカンジダ以外の菌が死滅し、カンジダ菌が増殖して起こります。
●症状:外陰部に我慢できないほどの強いかゆみがあります。おりものが増え、白いカッテージチーズや豆腐カスのようなポロポロした状態になるのが特徴。外陰部が赤く炎症を起こすことも。
●治療:抗真菌剤の腟錠を腟内に挿入します。ドラッグストアでも購入できますが、クリニックでは1錠で1週間の作用がある腟錠があります。かゆみの強い外陰部には、塗り薬を処方します。
【腟トリコモナス症】
●原因:トリコモナス原虫が寄生することによって起こる腟炎です。男性にも寄生するので、セックスでお互いの病原菌をやりとりするピンポン感染を起こしやすいのが特徴。
●症状:黄色や黄緑色っぽいおりものや、血液の混じったおりものがあります。泡が混じったおりものが出ることや悪臭がすることも。外陰部にかゆみや痛みがあります。
●治療:抗トリコモナス剤の服用と腟錠を併用します。
【クラミジア感染症】
●原因:クラミジア・トラコマティスという微生物が原因。セックスによる感染症ですが、オーラルセックスによって、のどの粘膜に感染することもあります。また、卵管炎を起こすと子宮外妊娠や不妊症の原因になります。
●症状:特に初期は、無症状の場合が多いです。おりものが増えてくることもあります。性交時出血がある人もいます。進行して腹膜炎を起こすと、腹痛や発熱があります。また、のどに感染すると、咽頭炎、扁桃腺炎を起こすこともあります。
●治療:抗生物質を服用します。
【淋菌感染症】
●原因:セックスによる淋菌の感染で起こりますが、まれに抵抗力のない女性や子どもでも、浴場やプールなどから感染することがあります。
●症状:おりものが増えたり、膀胱炎のような排尿痛があったり、外陰部がかゆくなったりします。男性は女性より症状が出やすく、尿道から黄色い膿っぽいものが出たり、尿道炎を起こし、排尿時に痛むので、パートナーが先に感染に気がつくことがよくあります。
●治療:抗生物質を服用します。
いつもと違う、と思ったら婦人科へ!
増田:おりものがサインとなる病気はたくさんありますね。性感染症の可能性があるおりものもあるので、普段から自分のおりものの状態をよく見ておくことは大事ですね。
吉本先生:ぜひ、普段から関心を持って、「何か変だな」「いつもと違うな」と思ったら、婦人科を受診してください。ドラッグストアで買える薬もありますが、初めての人は、本当にそのお薬で大丈夫なのか、効くのかどうかわからないと思います。性感染症には、将来の妊娠、出産に影響する病気もあります。検査して病気を正しく見極めることはとても大切ですので、ためらわずに受診してください。
増田:ありがとうございます。次回は、性感染症を予防する方法と、性感染症の危険度チェックを吉本先生に教えていただきます。
吉本レディースクリニック院長
産婦人科医。日本専門医機構認定専門医。高知医大(現・高知大学医学部)卒業。金沢大学付属病院、富山市民病院を経て現職。NPO法人女性医療ネットワーク理事、富山市医師会理事、性暴力被害ワンストップ支援センター富山協力医師、女性被害者支援ネットワーク医師、富山大学人間発達科学部附属中学校評議員。吉本レディースクリニックは、病気治療だけでなく、女性の人生に寄り添い、心身の拠り所となるクリニックとして定評がある。『Rp.+(レシピプラス)VOL.21 NO.1 2022冬「ホルモンとくすり」』(南山堂)共同執筆。
取材・文/増田美加 イラスト/itabamoe 撮影/島袋智子 Photo by newannyart / iStock / Getty Images Plus 企画・編集/浅香淳子(yoi)