「全身性エリテマトーデス(SLE)」も「シェーグレン症候群」も、膠原病の一種です。特に全身性エリテマトーデスは20~40代の女性、シェーグレン症候群は50代女性が発症年代のピーク。いずれも、どんな症状に注意が必要なのか? 気になる症状があったらどうしたらいいのか? 膠原病がご専門の平松ゆり先生にお話を伺いました。
大阪医科薬科大学病院 リウマチ膠原病内科
2009年関西医科大学医学部卒業。大阪医科大学リウマチ膠原病内科入局。大阪医科大学大学院医学研究科博士課程修了。2018年より大阪医科大学リウマチ膠原病内科助教(現・大阪医科薬科大学)。2013年より同大学病院で膠原病疾患女性の妊娠をサポートする母性内科外来を開設、担当。日本内科学会認定医、日本リウマチ学会専門医・指導医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医、日本母性内科学会診療プロバイダー。
「全身性エリテマトーデス(SLE)」ってどんな病気?
増田:「全身性エリテマトーデス(SLE: systemic lupus erythematosus)」という病気は、耳慣れない人も多いと思います。どのような病気なのでしょうか?
平松先生:膠原病(⇒Vol.48)のひとつである全身性エリテマトーデスは、発熱、全身倦怠感などの全身的な炎症と、関節、皮膚、内臓などのさまざまな臓器の障害が起こる病気です。
原因は今のところはっきりとはわかっていませんが、ほかの膠原病と同様に自己免疫疾患で、免疫の異常が大きくかかわっています。20〜40代の女性によく起こる病気で、日本全国に6万~10万人の患者さんがいると考えられています。男女比は1:9と圧倒的に女性に多い病気でもあります。
増田:症状としては、どのようなものが多いのでしょうか?
平松先生:皮膚の症状として特に有名なのは、頬にできる赤い発疹で、蝶が羽を広げている形をしているので、蝶型紅斑(ちょうけいこうはん)とも呼ばれています。また、表皮の角質層が厚くなって隆起し、やがて剥がれて脱落する紅斑(こうはん)も特徴的で、顔面、耳、首のまわりなどにできます。日光過敏症、口内炎、脱毛、関節痛、むくみなどが生じることもあります。
臓器の障害としては、血球減少、胸膜炎、心膜炎、腎炎(尿たんぱく)があり、神経精神症状(けいれん、うつ、情緒不安定)などもあります。
【全身性エリテマトーデスのおもな症状】
・蝶形紅斑(ちょうけいこうはん)…鼻から両頬にかけて、赤い斑点が蝶のような形に現れる。かゆみや痛みはない。初期の症状として約20%の人に現れる。
・関節炎…関節内で炎症が起こり、関節に痛みを伴う。初期症状の中で最も多い。
・発熱…38℃を超える発熱。
・レイノー現象…寒さや冷たいものに触れることなどによって、指先の血流が低下し、青白くなる。数分から約10分で元に戻る。
・全身症状…だるい、疲れやすい、体重の変動、日光過敏症、脱毛、口内炎、むくみ、筋肉痛、神経精神症状、食欲不振など。
これらすべての症状が現れるわけではなく、人によって現れる症状やその程度は異なります。なかには内臓の障害がまったくない軽症の患者さんもいますし、比較的軽症の方もいますが、重症の場合は命にかかわることも。また、シェーグレン症候群や抗リン脂質抗体症候群など、ほかの膠原病と合併することもあります。
症状があるのに放置していると、体が消耗し、病気が進んでいきます。腎機能が低下して透析が必要になったり、免疫が暴走して治療してもよくならないこともあります。症状を感じたら、膠原病の専門医のいる病院で早めに検査してください。
増田:症状以外に、健康診断の結果で注意したほうがいいものはありますか?
平松先生:健診で、尿たんぱく、白血球、ヘモグロビンが低値の場合は注意してください。
増田:原因や発症のきっかけはわかっているのでしょうか?
平松先生:残念ながら、ほかの膠原病と同様に、全身性エリテマトーデスの詳しい原因はわかっていません。血縁に膠原病の人がいるなど、遺伝的な体質に加えて、紫外線(日光)、ウイルス感染、細菌感染、妊娠・出産、薬剤、手術など、なんらかの環境的な要因がきっかけとなって発症すると考えられています。
先ほどあげた症状のいくつかが長期間続いたり、屋外で長く紫外線を浴びたあとに症状が出た場合は、病院を受診して相談してください。全身性エリテマトーデスの疑いがあれば、リウマチ・膠原病の専門医を紹介してもらいましょう。皮膚科でも紹介してくれます。
【関節リウマチを診てくれる専門医を探したい】
「一般社団法人日本リウマチ学会」のホームページに、地域ごとに絞り込める専門医・指導医・専門医のいる施設検索があります。https://pro.ryumachi-net.com/
笑顔が素敵な平松ゆり先生
病院ではどんな検査と治療をするの?
増田:リウマチ・膠原病専門医がいる病院では、どのような検査をするのですか?
平松先生:全身性エリテマトーデスの診断は、問診、視診、触診が大切です。「どういった症状がいつから現れたのか」「日光に長時間あたったか」「家族に膠原病のある人がいるか」などを確認します。視診や触診では、皮膚症状や関節症状のほか、全身の症状を調べます。
血液検査と尿検査も行います。血液検査は、免疫の異常や白血球や血小板減少の有無、全身性エリテマトーデスとかかわる自己抗体、腎機能や肝機能など、臓器の状態などを調べます。尿検査では、尿タンパクや尿潜血等をみて腎臓の機能を確認します。また、脳や神経、心臓や肺などの状態を調べるために、エコー検査、CT、MRIなどの画像検査を行うこともあります。
増田:どのような治療をするのでしょうか?
平松先生:ほかの膠原病と同じく、全身性エリテマトーデスは、完全に治すことは現段階では難しいと考えられています。病気が落ち着いて安定している状態(寛解)を維持することが治療の目標です。
皮膚症状や関節症状に対しては、「消炎鎮痛剤」や「ステロイド剤」「ヒドロキシクロロキン」などが使われます。腎炎や中枢神経病変などを合併した場合には、必要に応じて、ステロイドパルス療法や大量ステロイド療法、免疫抑制薬、生物学的製剤が使われます。ステロイド剤には多くの副作用がありますので、副作用を抑える薬も服用しながら治療します。
以前より薬の選択肢も増えて、治療しながら妊娠・出産に向かうこともできるようになりました。治療を継続しながら出産も、留学も、仕事の継続も可能です。
増田:内服薬や注射で通院しながら、治療できるのですね?
平松先生:発症した初発のときは、2~3カ月入院が必要になることもあります。寛解の状態までもっていけるかどうかは、最初にしっかり治療することが大事なのです。高用量のステロイド治療をしているときは感染症にもなりやすいので、入院したほうが安心です。症状が落ち着いたら、経過を診ながら薬の調整をしつつ、通院で治療していけます。
長期の治療にはお金もかかりますが、全身性エリテマトーデスは指定難病になっていますので、重症度によっては医療助成の対象になります。
日常生活で注意してほしいこと
増田:日常生活で気をつけることはありますか?
平松先生:強い紫外線にあたることが病気の悪化の原因につながるため、紫外線対策はつねに十分に行なってください。
また、ステロイド剤、免疫抑制剤を使っているときは、細菌やウイルスに対する免疫の機能も抑えられてしまうので、感染症にかかりやすくなります。手洗い、うがい、マスクなどの感染症対策が大切です。
長期間、ステロイドを使用する場合は、骨粗鬆症、動脈硬化、糖尿病などへの対策も必要になります。血栓症やエコノミークラス症候群にも注意が必要です。
病気の特性上、ストレスは病気の再燃にかかわることも多いため、ご家族やまわりの方のご協力を得て、なるべくストレスが少ない生活を送れることが大切です。最後に、定期通院や投薬については主治医の先生の指示に必ず従ってください。
「シェーグレン症候群」ってどんな病気?
増田:もうひとつ、女性に特に多い膠原病の「シェーグレン症候群」はどのような病気なのでしょうか?
平松先生:膠原病の一種のシェーグレン症候群は、涙や唾液を作っている目や口などを中心に炎症を起こす全身性の自己免疫疾患です。原因はまだよくわかっておらず、40~60代の女性に発症しやすい病気です。男女比は1:17と圧倒的に女性に多く、日本には7万~8万人の患者さんがいらっしゃいます。また、関節リウマチの方の2~3割の人が、シェーグレン症候群を発症しています。
増田:どのような症状が起こるのでしょうか?
平松先生:おもな症状としては、ドライアイ(目の乾燥)、ドライマウス(口腔乾燥)ですが、ほかにドライバジャイナ(腟乾燥)があります。ドライアイの症状は、目がゴロゴロする、目が疲れやすい、まぶしく感じるなどで、ひどくなると角膜に傷がついて乾燥性角結膜炎や表層性角膜びらんなどが起こります。ドライマウスは、口が乾く、パンなどのパサパサしたものが食べにくい、長く話すと声がかれるなど。唾液が少なくなるため、虫歯や歯周病になりやすく、味を感じなくなるなどの味覚障害が生じることもあります。
乾燥症状以外では、約半数の方に、全身倦怠感、関節痛、皮疹、日光過敏症、間質性肺炎、神経障害、腎障害、筋症状、血液検査異常などの全身の病変が起こることがあります。
ドライアイやドライマウスは、更年期でも起こりやすい症状です。自己判断で更年期だからと思いこまずに、症状を感じたら、受診して検査をすることが大事なのは、ほかの膠原病と同じです。
どんな検査や治療をするの?
増田:どのような検査で診断をするのでしょうか?
平松先生:病院では、血液検査で白血球減少や免疫グロブリンの増加、自己抗体(抗核抗体、抗SS-A抗体、抗SS-B抗体、リウマトイド因子など)陽性、涙や唾液の分泌量も調べます。唾液腺や涙腺の一部を取り、炎症細胞の存在を確認することで確定診断をする場合もあります。
増田:早期発見をする方法は、何かありますか?
平松先生:血縁に膠原病の方がいらっしゃる場合はハイリスクですので、乾燥症状等を認める際は、定期的に歯科、眼科で診てもらうことも大切です。不妊治療をしている方が、一連の不妊検査で自己抗体陽性が見つかることもあります。
増田:治療はどのようなことをしますか?
平松先生:根本的に治癒を目指す治療法はありません。ドライアイ、ドライマウスの治療は、いずれも対症療法です。
ドライアイには、涙を補充するために人工涙液が用いられます。また、水分保持効果のある「ジクアス点眼®」や粘液を産生する細胞を増やす「ムコスタ点眼®」などの点眼薬も認可されています。そのほか、ドライアイ眼鏡の着用、涙の出口である涙点をふさいで涙の排出を抑える方法(涙点プラグ、涙点縫合)もあります。
ドライマウスに対しては、飲水やうがいといった日常的なケアを中心に、人工唾液や保湿成分が入ったジェルなども用います。また唾液そのものを出しやすくするお薬を処方することもあります。
もしも肺や神経、関節などの症状がある場合には、重症度に応じてステロイドや免疫抑制薬が使用されることがあります。
シェーグレン症候群も全身性エリテマトーデスと同じく、難病指定されているため、重症度によって医療助成の対象になります。
セルフケアでできることは?
増田:日常生活での注意点はありますか?
平松先生:シェーグレン症候群では、乾燥性角結膜炎の早期発見や虫歯、歯周病の予防のために、定期的に眼科や歯科を受診してください。
また、パソコンなどで目を酷使することや、直射日光、エアコンによる乾燥、煙や埃の多い環境を避けるようにしましょう。冷暖房を使う時期は室内が乾燥するので、加湿器などで乾燥を防ぐことが大切です。
虫歯や歯周病の予防のためには、砂糖を含む食事をできるだけ減らすこと。辛すぎるもの、アルコールの飲みすぎは控えましょう。口腔内環境の改善のために、禁煙は特に重要です。洗口液は、アルコールフリーの無刺激のものを選ぶといいでしょう。ストレスをためないようにすることも大事です。ふだん何かのお薬を飲むときには、副作用として口の渇きが起こるものもありますので、主治医や薬剤師さんに確認しましょう。
シェーグレン症候群は、重篤な状態になることはほとんどないので、セルフケアなどのちょっとした工夫で不快症状をやわらげてください。
ひとつ気をつけてほしいのは、シェーグレン症候群をお持ちの女性が妊娠した場合、抗SS-A抗体陽性の患者さまの1%未満ですが赤ちゃんに重度の不整脈が出ることがあります。頻度は高くありませんが、妊娠を希望されていたり、妊娠された際は、ぜひ主治医に相談してください。
増田:いずれにしても、40~60代の更年期世代に多い病気なので、症状があれば受診をして、更年期の症状なのか、ほかの病気なのかを見極めておくことが大事ですね。平松先生、3回にわたって膠原病の関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群を解説くださってありがとうございました!
取材・文/増田美加 イラスト/帆玉衣絵 内藤しなこ 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/木村美紀(yoi)