日本人のほとんどが経験している腰痛。その多くは、背後に大きな病気がない、慢性腰痛やぎっくり腰といわれています。痛みが長引き、慢性化して“腰痛持ち”になってしまう前に、改善していきましょう。腰痛を効果的に改善するストレッチやマッサージ法を、女性のヘルスケアにも詳しい整形外科医の青山朋樹先生に伺いました。
笑顔と白衣がまぶしい先生。
京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻 教授
医学博士。群馬大学医学部医学科卒業。京都大学医学研究科博士課程。京都大学医学部附属病院整形外科ほかを経て現職。専門はリハビリテーション医学、整形外科学、再生医学。運動を用いた健康アプローチとしてのトレーニングをウィメンズヘルスのほか、幅広い分野で研究している。
90%は、原因がわからない“非特異的腰痛”
増田:日本整形外科学会の調査によると、日本で腰痛の人は約3000万人いると推計されています。ひと口に腰痛といっても、その原因はさまざま。腰痛の種類にはどんなものがありますか?
青山先生:医師による検査や診断、治療が必要で、自分では治せない腰痛はわずか10%です。これは、診察や画像検査、血液検査で原因が診断できる腰痛で“特異的腰痛”といいます。特異的腰痛は、椎間板ヘルニアや骨折、感染によるものなどが含まれます。循環器科、泌尿器科、婦人科系などさまざまな病気からくる腰痛もここに含まれます。
残りの90%の腰痛は、原因はさまざまですが深刻な病因はなく、整形外科を受診してレントゲンなどの画像検査を行なっても原因がよくわからない、心配する異常や病気がないといわれる“非特異的腰痛”です。慢性腰痛やぎっくり腰などがここに入ります。
非特異的腰痛は個々で状況が異なり、急性期の激痛は治まっても、腰の痛みや重さ、だるさがいつまでも残り、QOLを下げます。「安静にしていなくては…」とせっかく始めた運動を中止する人も少なくないのです。
しかし、安静にしていては治りません。今は、腰痛は動いて治すのが世界標準です。セルフケアによって十分、予防も改善もできます。
「筋膜性腰痛症」とは?
増田:腰痛の90%も占めている非特異的腰痛には、どのようなものがあるのでしょうか?
青山先生:非特異的腰痛は、おもに慢性腰痛症と診断されますが、これには大きく分けて2種類あり、「筋膜性腰痛症」と「椎間関節症」といわれています。
圧倒的に多いのは「筋膜性腰痛症」です。これは胸腰筋膜という背中の腰部に広がる菱形の大きな筋肉(下のイラスト参照)の炎症によるダメージによって起こります。そのため、炎症や痛みが広い範囲に起こるのが特徴で、前屈み、座位姿勢で痛みます。胸腰筋膜は、お腹からも背中からも引っ張られるので、つらい痛みです。
【筋膜性腰痛症】
〇特徴
・腰のやや広い範囲が痛い
・悪い姿勢が原因になることがある
・疲れやストレスが原因になることもある
〇治療
・急性期は安静にして、消炎鎮痛剤の内服薬や冷湿布で炎症を抑える
・上のイラストの菱形の筋膜とそこにつく筋肉周辺のマッサージを行う
・急性期が過ぎて痛みが少しよく(慢性期)なったらウォーキングのようなエクササイズを行う
・正しい姿勢が大切
・「腰背筋ストレッチ」(本記事の後半で紹介)が慢性期、予防のためにも効果的
「椎間関節症(ぎっくり腰)」とは?
増田:非特異的腰痛の慢性腰痛のうち、もうひとつの「椎間関節症」とは、どんな腰痛でしょうか?
青山先生:椎間関節症は、腰を大きく反らせるなどの動作をしたときに、背中側にある椎間関節がぶつかったり、知覚神経が走っている椎間関節の周囲の関節包を挟んだりして、鋭い痛みが生じます。この急性期の状態を「ぎっくり腰」として診断されることも多いです。椎間関節が横にずれて、横にひじをついているような姿勢になります。「痛いところはここ」と指でさすことができます。
【椎間関節症(ぎっくり腰)】
〇特徴
・椎間関節がずれることで痛む
・腰の中央から親指1~2本分横に圧痛がある
・痛みがくる前に、前屈み、方向転換、物を持った際にピキッといったなど、何らかのきっかけとなるエピソードがある
・前屈み、後ろ反らし、ひねり動作をすると痛みが起こる
〇治療
・消炎鎮痛剤の内服や湿布
・周囲の筋肉のマッサージ
・ブロック注射
・急性期が過ぎたら、「腰背筋ストレッチ」(下記に紹介)が効果的
【腰背筋ストレッチ】
両足で大地を踏みしめるようにしっかりと立って、両腕を上げて、指先から天に引っ張られているように、じっくり伸ばしましょう。腰、背中の筋肉、胸、お腹の左右の筋肉を同時にストレッチすることができ、肩や肩甲骨のストレッチにもなるので、肩こりにも効果があります。10秒1セットを3回行います。デスクワークのあいだに1日何回も行いましょう。
ストレッチの効果によって、いい姿勢で座れるようになります。姿勢が悪いと、腰痛が慢性的に起こりますので、正しい姿勢を心がけましょう。
安静はNG! 腰痛は動いて治す!
増田:ご紹介いただいた、消炎鎮痛剤やセルフケアで治まってくるようならよいですが、痛みやしびれが長引いたら、どのタイミングで整形外科を受診すればいいでしょうか?
青山先生:まず自分でセルフケアを行なってみて少しでも改善があれば、それでいいと思います。完全に治らなくても、少し楽になった、改善しつつあると思えば続けてみてください。
セルフケアを行なっても、よくならない、何も変わらないときは、特異的腰痛(椎間板ヘルニアや坐骨神経痛など)を疑って、整形外科を受診しましょう。レントゲンやMRIなどの検査をして、セルフケアを続けていいかどうかを判断してもらうこともできます。長いあいだ痛いままにしていると、痛みの記憶が残って治りにくくなってしまいます。市販薬より医師の処方薬のほうが痛みの悪いサイクルを早く断ちきることができますよ。
増田:慢性腰痛にしないために、心がけるべきことはなんでしょうか?
青山先生:安静にするべきなのは、急性期だけです。1週間過ぎて痛みが治まってきたら、積極的に動きましょう。
治療のためにも、予防のためにも、毎日続けられるエクササイズを習慣にしてみてください。最初は、デスクワーク中に、気づいたときに伸びをするだけでも、1日20分歩くだけでも違います。美容にもいいですし、姿勢がいいとスタイルも格段によく見えます。ぜひ、毎日続けられることを始めてください。
増田:3回にわたって、肩こり、腰痛について教えていただいてありがとうございました。痛みの改善のためだけでなく、予防のためにも、血行をよくするストレッチとウオーキングが大切なことがよくわかりました。毎日続けられることを実践していきたいです!
取材・文/増田美加 イラスト/帆玉衣絵 内藤しなこ 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/木村美紀(yoi)