「汗ジミが気になって着る服の色が限定されて困る」「わき汗で仕事や勉強に集中できない」などの悩みを抱える人は少なくありません。わき汗に悩んだら、どんな治療ができるのか? 多汗症の診療ガイドライン策定*1にもかかわった汗治療の専門家、藤本智子先生に取材しました。
*1『原発性局所多汗症診療ガイドライン 2023年改訂版』(日本皮膚科学会ガイドライン)
池袋西口ふくろう皮膚科クリニック院長
浜松医科大学医学部医学科卒業。東京医科歯科大学皮膚科入局。東京医科歯科大学皮膚科医員・助教、多摩南部地域病院皮膚科医長、東京都立大塚病院皮膚科医長を経て2017年より現職。医学博士。日本皮膚科学会認定専門医。東京医科歯科大学皮膚科臨床講師、日本発汗学会理事ほか。池袋西口ふくろう皮膚科クリニック院長。
わきの多汗症に悩む人は約260万人も!
増田:暑い季節は特に「わき汗が心配で外出時に洋服が限定されて困る」「制汗剤が手放せない」「仕事や勉強に集中できず外出することがイヤになる」とわき汗に悩む声は、たくさん聞こえてきます。でも、わき汗の悩みで病院に行っていいのか? と悩みます。どんな症状なら、病院へ行っていいのでしょうか?
藤本先生:わき汗の場合、日常生活の支障を感じているかどうかが、治療のとても大事な指標になります。「汗ジミや汚れが気になって着る服の色が限定される」「わき汗が気になって人との会話に集中できない」などの悩みがある方は、どうぞ皮膚科を受診してください。
わきの多汗症は、体温調節に必要な量を超えて、通常よりも多くわき汗をかいてしまうことで日常生活に支障をきたす病気。医学的には「原発性腋窩多汗症(げんぱつせいえきかたかんしょう)」と呼ばれています。
わきの多汗症の発症率は、12~59歳男女の3.7%にいて、日本には約260万人の患者さんがいると推測されています。男女差はありません。でも、女性のほうが気にする方が多いので、受診する患者さんは女性が3倍多いです。
わき汗に困るのは夏が多いですが、ある調査では、わき汗をかいて困ったことがある人のうち約7割の人が、冬でも1週間に1回以上困ることがあると答えています。*2
*2「脇に大量に汗をかいて困ることがある15~69歳男女1,505名Webアンケート調査」 2022年1月(マルホ)
わきの多汗症を見極めるチェックリスト
増田:なるほど。自分がわき汗で困っていたら、皮膚科を受診していいということですね。病院では、わきの多汗症(原発性腋窩多汗症)の診断は、どのようにするのでしょうか?
藤本先生:通常は、わきの下の視診、触診などは必須ではないため、問診でどのような場面でどのくらいの汗が出るのかをお聞きします(Tシャツが染みる?ジャケットやスウェットが染みる?コートまで染みる?等)。発汗量の測定は通常行いません。
問診で伺う内容と同様の自分でできるチェックリストを紹介しますので、気になる方はチェックしてみてください。
□明らかな原因がないまま、6カ月以上、局所的(わき)に必要な量を超えて汗をかいている
+
<以下の2項目以上があてはまる>
□最初に過剰な汗が出たのは25歳以下のときである
□左右同じように汗が出る
□睡眠中は汗が止まっている
□1週間に1回以上、過剰な汗が出る
□家族にも同じ病気の人がいる
□汗によって日常生活で困ることがある
上記に当てはまる方は、原発性腋窩多汗症と診断がつく可能性が高いです。
緊張する場面など、精神的な問題でわき汗は増えます。それが余計にわき汗をふやす刺激となります。一部では家族性も認められ、遺伝の関与も考えられることもあります。
わき汗の治療法は選択肢がたくさんある!
増田:原発性腋窩多汗症は、皮膚科で治療法が確立されているのですね?
藤本先生:はい。わき汗によって日常生活で困っている方のために、保険適用の塗り薬など身近な治療法があります。治療法の選択肢も増えています。
わき汗に困っていなければ治療する必要はありません。そもそも汗をかくことは大事なことです。けれども必要以上の汗は、汗のために対人関係に困ったり、普段の実力を発揮できないなど生活のQOLを低下させることがあります。また更年期の方は、ホットフラッシュと同時にわき汗に悩む方もいらっしゃいます。
増田:原発性腋窩多汗症には、どのような治療法がありますか?
藤本先生:さまざまな治療法があるので、皮膚科医と相談して、自分の症状やライフスタイルに合った方法を見つけることができます。治療を続けることで、過剰な汗を改善、抑制して、わき汗による日常生活への支障をなくすことを目指します。
暑い日や運動をしたときは、制汗剤やわき汗対策のインナーなど、一般的なセルフケア対策も必要です。一方で、汗を必要以上にさけるのではなく、定期的な運動などで必要な汗をかく習慣を維持することも大切です。
治療薬としては、以前は、汗腺を物理的に閉じて発汗を抑える「塩化アルミニウム外用薬(自費)」しかなく、かぶれなどの副作用がありました。しかし今は、1日1回塗るだけの保険適用の抗コリン外用薬があります。汗腺に作用して、交感神経から伝達される汗を出す信号をブロックして、過剰な発汗を抑えてくれるものです。
重症例には、わきへのボトックス注射(保険適用)を数カ月に1回行う方法もあります。1回の注射で約半年間(4カ月~1年)の効果を保てます。わきに薬を注射して、交感神経から伝達される汗を出す信号をブロックして、過剰な発汗を抑える治療です。
また、多汗症の症状が重く、ほかの方法で効果がない場合にマイクロ波による照射(自費)を選択することもありますが、ボトックス注射まででほとんどの人が効果を感じます。
セルフケアでできること、制汗剤などの選び方は?
増田:制汗剤など、一般的なセルフケア対策も大切とのことですが、どのようなセルフケアが有効でしょうか? また、病院の塗り薬と、市販の制汗剤は何が違うのでしょうか?
藤本先生:病院の塗り薬は、発汗を抑えることを目的とした「医薬品」です。病院のほうが濃度が高いので、効果が高いとされています。
制汗剤は、発汗を防ぐこと(作用は緩やか)を目的とした「医薬部外品」または、清潔にすることを目的とした「化粧品」です。市販のお薬や制汗剤、汗拭きシートで効果を感じている方は、そちらでも決して悪くないです。特に軽症の方は、市販の制汗剤などでも十分効果を感じる方は多いです。
市販の制汗剤を選ぶときは、わき汗制汗成分「塩化アルミニウム水和物」(クロルヒドロキシアルミニウム=ACH)の成分が入っているものにすると、効果を感じやすいでしょう。また、スプレータイプよりロールオンやクリームタイプのほうが肌に密着するのでいいでしょう。
セルフケアでは制汗剤のほか、汗拭きシート、下着のわき汗パッド、速乾性のある下着なども上手に使ってください。いろいろなもの使って、自分に合ったものを組み合わせて対策することはいいと思います。
増田:ありがとうございます。わき汗は、セルフケアで改善できることもたくさんあるのですね。セルフケアだけで困ったら皮膚科を受診ですね。保険が使えて、1日1回塗るだけでいい塗り薬なら、治療のハードルも下がります。困っている方は相談してみてください。次回は、わき汗だけでない多汗症について、引き続き藤本先生に伺います。
参考資料/『原発性局所多汗症診療ガイドライン 2023 年改訂版』日本皮膚科学会
取材・文/増田美加 イラスト/帆玉衣絵 内藤しなこ 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/木村美紀(yoi)Photos by SrdjanPav,RunPhoto,LeviaZ/Getty Images