女性に多く、発作的に起こって4~72時間継続するといわれる片頭痛。特効薬や予防薬はどんなものを使うべき? 市販の鎮痛剤で対処してもいいのでしょうか? 片頭痛に詳しい、頭痛治療の第一人者、清水俊彦先生に正しい対処法を伺いました。
東京女子医科大学 脳神経外科 頭痛外来 客員教授
医学博士。日本脳神経外科学会専門医。日本頭痛学会専門医。米国頭痛学会正会員。汐留シティセンターセントラルクリニック頭痛外来ほか多数の病院で1日平均約200人の患者を診察する頭痛治療の第一人者。著書に『頭痛は消える。』(ダイヤモンド社)ほか多数。
片頭痛の症状の特徴は? 頭痛の前兆が起こる?
増田:片頭痛は、日常生活に支障をきたすような慢性頭痛(一次性頭痛)のひとつで、原因となる病気が背後にない頭痛と前回伺いました。片頭痛は女性にとても多く、つらい痛みですが、その特徴を教えていただけますでしょうか?
清水先生:片頭痛は、日本人の8.4%※にあり、男女比で約1:4と女性に多く、特に20代〜40代に集中しているのが特徴です。
片頭痛は、発作的に起こり4~72時間持続して、おもに頭の片側がズキズキと脈打つような痛みが特徴です。片頭痛の名前の由来は片側が痛むことですが、実際は患者さんの4割近くが両側の頭痛も経験しています。また後頭部、頭全体が痛いという方もいます。
ズキズキと脈打つ痛みが多いですが、頭が締めつけられるように痛む場合もあります。ほかの頭痛ではないかの見極め方は、頭を振ったり、体を動かしてみて痛みが増すかで、そうであれば片頭痛の可能性が高いでしょう。(詳しいチェックリストはこちら⇨あなたの頭痛は片頭痛? それとも緊張型頭痛? 増田美加のドクタートーク Vol.60)
また、頭痛発作中に感覚過敏になって、普段は気にならないような光、音、におい、気温や気圧の変化を不快と感じる方が多いようです。吐き気や耳鳴り、下痢をともなうことも多く、階段の上り下りなど日常的な動作で痛みが増すため、寝込んでしまい学業や仕事に支障をきたすことがあります。
増田:片頭痛は、頭痛が起こる前に「前兆」が起こると聞きますが、どのような症状なのでしょうか?
清水先生:片頭痛は、頭痛の前に「前兆のある片頭痛」と「前兆のない片頭痛」の2タイプに分類できます。
前兆症状は、キラキラ、ギザギザした光が視界に現れて見えづらくなる(閃輝暗点)といった視覚症状が90%以上と、最も多いとされています。ほかにもチクチクと痛んだり、感覚症状(アロディニア)、言葉が出にくくなる言語症状などがあります。
通常は前兆が5~60分続いたあとに、片頭痛が始まります。また頭痛が始まる前に、なんとなく頭痛が起こりそうな予感や気分の変調、眠気、疲労感、集中力低下、首こりといった症状を起こす場合がありますが、これは前兆とは区別して「予兆」としています。
※Sakai F, Igarashi H. Cephalalgia 1997;17:15-22
どんなタイプの人が片頭痛を起こしやすい?
増田:片頭痛はどのようにして起こるのでしょうか? メカニズムを教えてください。
清水先生:片頭痛は、生理による女性ホルモンの変動やストレス、疲労などをきっかけに脳内物質のセロトニンの分泌が異常に増減することで、脳血管が拡張し、血管周囲に分布するセンサーの役目をしている三叉神経が刺激されることで、痛みが起こります。
頭痛が起きるときは脳が興奮状態に陥っていることが多く、これを放っておくと少しのことでも脳が過敏に反応しやすくなって、めまいや耳鳴りなどのほかの症状も引き起こす原因になります。
増田:片頭痛を起こしやすい体質やタイプはありますか?
清水先生:片頭痛は光や音、におい、気温や気圧など、ちょっとした変化を読み取る敏感な脳の方に多い傾向があります。敏感な脳を持つと、それだけ脳が興奮しやすいのです。頭の回転が速く、几帳面でいい加減なことができない性格の方に多い印象です。
片頭痛のある方は、日々できるだけ脳の興奮を抑えるような生活を心がけるといいと思います。また生理不順の人は、女性ホルモンが乱れているので、頭痛の頻度が多くなり、悩まれている方が少なくありません。
片頭痛の誘因になる注意すべきことは、下記にまとめました。
【片頭痛のおもな誘因】
・睡眠不足 、あるいは寝過ぎ
・月経周期
・空腹
・疲れ、ストレス
・においや光、音
・人混み
・天候、気温や気圧の変化
・過度なダイエット
・赤ワインやチョコレート、チーズなど
※上記の飲食物に含まれるポリフェノール類のチラミンは血管拡張作用があり、片頭痛の誘因になるといわれています。
清水先生:また片頭痛は、妊娠中に起こることもあります。妊娠中は生理関連の片頭痛は治まりますが、妊娠前からあった片頭痛を放置して治療をしていない人は、妊娠中にも起こることがあります。妊娠前には、適切に片頭痛を治療しておくことが大切です。
妊娠中の片頭痛治療は限られており、おもにビタミンB2、アセトアミノフェンなどを使います。つわりがひどいときには、「メトクロプラミド錠」は使ってもいいでしょう。これらでは治まらないほどのひどい片頭痛で、嘔吐が多く、流産リスクがあるときは、医師の服薬指導のもと、「トリプタン製剤」(詳しくは後述)を使うこともあります。いずれにしても、きちんと正しい治療をすれば、妊娠中の片頭痛も治まります。
片頭痛の治療薬と予防薬
増田:片頭痛はどのように治療しますか? 治療薬、予防薬について教えてください。
清水先生:片頭痛の治療は、痛み発作が起こったときの急性期治療、片頭痛発作を起こす前の予防的治療の2種類があります。
まず、急性期治療は、頭痛発作が起こったときに早く頭痛を治めるための治療です。治療薬としては、①アセトアミノフェン ②NSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)③トリプタン製剤 ④エルゴタミン製剤 ⑤制吐薬(吐き気をやわらげほかの薬の吸収をよくする)があります。
片頭痛の軽症~中等度の症状の場合は、①アセトアミノフェン ②NSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)。中等度~重症の場合や軽症~中等度でも①②で効果がない場合は、③トリプタン製剤 ④エルゴタミン製剤 を使いますが、全身の動脈の収縮作用や吐き気の副作用があり、薬物依存性が生じやすい「エルゴタミン製剤」は現在ほとんど処方されることはありません。
最もよく使われている特効薬が③の「トリプタン製剤」です。片頭痛の原因となる神経伝達物質セロトニンの受け皿である受容体に作用して、片頭痛発作の痛みをやわらげます。痛みの根本原因にアプローチして、痛みの頻度を軽減すると同時に、不必要な鎮痛剤の服用も減らせます。
ただしトリプタン製剤は血管に作用するため、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞など、心臓や脳血管系にトラブルのある人には、処方することができません。しかし、新しく「ジタン系製剤」の「ラスミジタン」という薬剤が承認され、処方可能になりました。
増田:ひどい片頭痛が起こる前に予防したいという人も少なくないと思います。予防的治療薬には、どのようなものがあるのでしょうか?
清水先生:予防薬は、頭痛発作頻度を減少させる、あるいはもし発作が起こったとしても軽く済むようにし、急性期の治療薬が効きやすくなるようにします。予防薬は、片頭痛発作の回数(頻度)が多い方や頭痛の程度、生活への悪影響などを基準にして選択します。
おもな片頭痛予防薬として、①β遮断薬(プロプラノロール) ②抗てんかん薬(バルプロ酸ナトリウム) ③抗うつ薬(アミトリプチリンなど) ④Ca拮抗薬(ロメリジン塩酸塩)などがあります。
これら内服薬の予防薬を処方することもありますが、新たに「抗CGRP抗体薬」もしくは「抗CGRP受容体抗体薬」という、院内指導の下、自分でも注射できる自己注射剤も処方できるようになりました。脳血管周囲の三叉神経から放出される神経炎症物質CGRPや、脳血管壁にある受容体を抑え込んで、片頭痛を改善する薬剤です。なんらかの理由で内服薬の予防薬が使えない、もしくはトリプタン製剤で効果が得られず、寝込んでしまうような症状の重い方には、新たな治療の選択肢になります。自分で注射するのが難しい方は、病院で月に一回、注射を受けていただくこともできます。
市販の鎮痛剤は使ってもいいの?
増田:急性期の治療薬として、①アセトアミノフェンや ②NSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)がありましたが、市販の鎮痛剤(頭痛薬)を使うのは、どうなのでしょうか?
清水先生:忙しい人は、市販の鎮痛剤を服用して痛みをごまかしている場合が少なくありません。すぐに医療機関を受診できないけれど、今のこのつらい痛みをなんとかしたいという場合には、市販の鎮痛剤を使うことがあるかと思います。そんなときは、飲むタイミングがポイントになります。
片頭痛の場合、痛みがひどくなってから服用しても嘔吐するなどして間に合わないことがあります。薬は異常な空腹感や肩こり、生あくびが出る、トイレに行く回数が減る、体がむくむなど、片頭痛の「予兆」を感じた時点で服用しましょう。
また市販の鎮痛剤を選ぶときは、アセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェン、ロキソプロフェンなどの単一成分のものを選びましょう。複合成分の鎮痛剤、カフェイン配合のものは、「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」を起こしやすいので使用頻度には注意が必要です。また喘息がある方は、アスピリン自体が喘息発作を誘発しやすいので控えましょう。
市販の鎮痛剤を安易に繰り返し利用していると、痛みが慢性化してしまい、その鎮痛剤が原因となって「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」に陥る方もいます。月に1~2回、1~2錠飲む程度ならOKですが、週に2~3回飲むなど使用量が増えてきたときは、病院を受診してください。月10回以上、市販の鎮痛剤を飲んでいる人は、一度は病院へ行きましょう。
片頭痛を対処せずに放っておくと、脳が過敏に反応するようになり、つねに脳に興奮状態が残ってしまいます。年をとってから頭痛が軽くなっても、耳鳴り、めまい、睡眠障害、もの忘れなどの「脳過敏症候群」になる可能性が高くなることも危惧されています。
市販の鎮痛剤では根本治療になっていません。頭痛は病気です。自分の頭痛はどういう頭痛かをまず知るためにも受診してほしいと思います。
増田:片頭痛には多くの薬剤があり、治療の選択肢が増えていることがよくわかりました。頭痛と軽く見て自己判断での対処はやめて、早めに医師に診察をしてもらうことが大切ですね。今の頭痛の痛み軽減だけでなく、将来の脳過敏性症候群の予防にもなるならなおさらです。病院選びについては、前回の記事で紹介しています。次回も清水先生に、片頭痛に悩む方が日常生活でできる対策と、緊張型頭痛の対策についても伺います。
参考資料/一般社団法人日本頭痛学会 「市民・患者さんへ」https://www.jhsnet.net/ippan.html
取材・文/増田美加 イラスト/帆玉衣絵 内藤しなこ 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/木村美紀(yoi)Photos by Plusindigo making studio,SilviaJansen,Oscar Wong/Getty Images