スマホやパソコンがなくてはならない毎日。目への負担がますます大きくなってきています。目が疲れる、目が乾く、涙が出る、目がかすむなどの症状を感じていませんか? ただの疲れ目なのか、何かの目の病気なのか? 眼精疲労やドライアイに詳しい眼科専門医、天野史郎先生に、女性に多い目のトラブルについて伺いました。
お茶の水・井上眼科クリニック院長
1986年東京大学医学部卒業。ハーバード大学研究員、東京大学眼科教授、井上眼科病院副院長を経て2021年より現職。日本眼科学会専門医。日本角膜学会理事。ドライアイ研究会世話人。『MGD 診療ガイドライン』(2023年)責任編集者。
疲れ目と眼精疲労は違う?
増田:「目が疲れた~」と感じる“疲れ目”と“眼精疲労”とは、違うものなのでしょうか?
天野先生:疲れ目は、パソコン作業や読書など目を使ったことによって、目の筋肉が緊張して、目が疲れたりかすんだりする一時的なものです。疲れ目は、目を休めたり、目薬をさすなどのケアをすることで改善します。
しかし、朝起きたときからつらい症状を感じる、休んでも症状が回復しない場合は、ただの疲れ目ではなく、眼精疲労という病気の可能性があります。眼精疲労は、目が疲れて見えにくい、かすむ、まぶしいなどの目の症状だけでなく、肩や首のコリ、頭痛や吐き気、集中力の低下など、全身症状も生じることが多く、少し休んだり軽くケアをしただけでは治らないことが多いのです。
増田:眼精疲労は女性に多いのでしょうか?
天野先生:眼精疲労を訴えて受診する患者さんは、女性のほうが多いですね。年齢的にはスマホやパソコンで作業をすることが多い、20代~40代の女性に多い印象です。
更年期や年齢と眼精疲労は関係する?
増田:年をとるほど、眼精疲労が増えるというわけではないのですね?
天野先生:加齢によって目の病気は増えてきて、眼精疲労が起こる人も増えますが、いちばん大きな原因となるのは、パソコンやスマホなどの作業によるVDT(Visual Display Terminals)ストレスです。スマホやパソコンなどを長時間見続けることで目を酷使し、画面を凝視するためにまばたきの回数が減り、目が乾いた状態になり、目が疲れやすくなります。
増田:更年期と眼精疲労は、何か関係しますか?
天野先生:更年期世代になると、眼球を支える筋肉が衰え、以前と比べて目の機能をカバーすることができなくなります。水晶体に含まれるコラーゲンも老化によって減り、弾力がなくなり、調節機能が落ちて小さい文字が見えなくなってきます。その結果、ちょっと物を見ただけでも目が疲れやすく、疲労が蓄積して眼精疲労になりやすくなりますね。
【ものを見る仕組みとは?】
目はカメラレンズのような働きをして、水晶体の厚さを調節しピントを合わせています。この調節にかかわるのが「毛様体筋」という筋肉。水晶体を引っ張ったり緩めたりしています。遠くを見るときは毛様体筋が緩まり、水晶体を薄くしてピントを合わせます。一方、近くを見るときは毛様体筋が緊張(収縮)し、水晶体を膨らませてピントを合わせます。
増田:更年期になると女性ホルモンが低下して、肌の乾燥を感じるのと同じく、ドライアイやドライマウスなど粘膜が乾く症状を感じることも増えてきます。目のトラブルも女性ホルモンと関係があるのでしょうか?
天野先生:眼精疲労と女性ホルモンの関係は、わかっていないことが多いのです。確かに、生理周期でPMSの時期などに疲れ目やドライアイを訴える方もいます。妊娠・出産時期に眼精疲労を訴える方や、閉経後に眼精疲労がひどくなったと訴える方もいます。このような女性ホルモンの大きな変動にともなって、目のトラブルが出てくる人もいるのですが、医学的にはまだその関係はよくわかっていないのです。
VDTストレス以外に気をつけるべきことは?
増田:眼精疲労の原因は、先ほどお話されたスマホやパソコン作業によるVDTストレスが大きいとのことですが、ほかに注意すべきことはありますか?
天野先生:注意したいのは、ドライアイ、白内障や緑内障、眼瞼下垂などの目の病気です。これらも原因になりますから、眼精疲労を放置せず、眼科を受診して原因を見極めることが大切です。
また、眼鏡やコンタクトレンズの度が合っていないことも原因になります。長い間、眼鏡やコンタクトを使っている方は、定期的に検眼をして度数が合っているかを確認することも大切です。老眼を放置していたり、かけている眼鏡やコンタクトレンズの度が合わなくなっているなども原因として多いですね。
増田:ドライアイが原因になって、眼精疲労が起こることもあるのでしょうか?
天野先生:眼精疲労とドライアイは、共通した原因で起こることが多いです。デジタルによるVDT作業で毛様体筋に負荷をかけ、その結果まばたきの回数が減って、涙の分泌も減ることになります。そのことで、眼精疲労もドライアイも併発してしまう方は少なくありません。どちらも、目にとって悪い生活習慣から起こることが多いのです。
眼精疲労のおもな要因は?
増田:眼精疲労を起こす要因はひとつではなく、さまざまな要因が絡み合って起こっているのですね。
天野先生:おもな眼精疲労の要因を整理してみましょう。
①パソコン、スマホなど目の使いすぎ
1日8時間以上パソコンやスマホでのVDT作業を行っている人は、VDT症候群と呼ばれ眼精疲労などの目の不調が起こりやすくなります。明るさなどの環境を整えることも大切です。これまで近視や乱視などがなく眼鏡が不要だった人も、40歳を過ぎたら眼科で老眼や乱視の程度を確認してみましょう。必要があれば、特にVDT作業中は適切な遠近両用、中近両用などの眼鏡を使いましょう。
②眼鏡やコンタクトの度が合っていない
近視、遠視、乱視、老眼などの視力矯正の不良で起こる調整性の眼精疲労があります。度数の合わない眼鏡やコンタクトレンズでパソコンやスマホを長時間使用すると、ピントを合わせるために毛様体筋は常に緊張し続け、眼精疲労を引き起こします。眼鏡をかけない、老眼鏡を定期的に変えていないことも眼精疲労を悪化させます。
③ドライアイ
ドライアイは、目の表面での涙液の安定性が低下して目が乾燥し、目の表面が傷つきやすくなる病気です。加齢のほか、長時間のVDT作業や室内の乾燥、コンタクトの使用などの原因で起こります。目の疲れを訴える人の約6割は、ドライアイがあるという調査結果もあります。
④緑内障、白内障や眼瞼下垂など目の病気
40代以降増える白内障、緑内障、眼瞼下垂、加齢黄斑変性などには注意が必要です。いずれも初期症状に乏しいのですが、なかには目の疲れ、見えにくさや目のかすみなどの眼精疲労の症状から始まる場合があります。いずれも早期発見できればさまざまな治療法があります。眼精疲労を感じたら、眼科を受診することは重要です。
ブルーライトやアイメイクは要注意!
増田:目の健康を考えたときに、注意しなくてはならないことはありますか?
天野先生:目のトラブルに悩んでいる方は特に、目にとって悪い生活習慣を改善することが大切です。パソコン作業を減らせば、それだけ目の負担も減少します。しかし仕事上そうはいかない方が多いのだと思います。そんな方は、30分に1回程度こまめに休憩をとって、長時間作業し続けないことや、まばたきを意識して行うように心がけることが大事です。疲れ目や目の乾きのための目薬をさすなどのケアもしましょう。
また、夜、スマホやパソコンなどの作業をするときには、ブルーライト用の眼鏡をかけて、ブルーライト対策をしてください。パソコンやスマホなどからのブルーライトは、覚醒度を高めるとともにメラトニンを抑制し、よい眠りを阻害します。
ブルーライトの眼鏡をかけるのは、夜間だけにしてください。ブルーライトとは、太陽光線に含まれている光です。夜、パソコンからのブルーライトを浴びることで、脳が昼と錯覚してしまうことが眼精疲労の原因になります。ですから、昼間はブルーライトを浴びてもOKなのです。昼間にブルーライト対策の眼鏡をかける必要はありません。脳が昼間かどうかわからなくなって、体内時計が狂ってしまいます。
増田:ブルーライト眼鏡は、スマホやパソコンを見るときには常にかけていたほうがよいのかと思っていました。昼間は不要で、夜間のスマホやパソコン作業のときだけでよいのですね。
また、アイメイクが目のトラブルになると聞いたことがありますが、どうなのでしょうか?
天野先生:まつ毛の近くには、涙の脂に関係するマイボーム腺があります。アイラインなどのアイメイクをまぶたギリギリまで行うと、涙の脂の腺を塞いでしまうことになります。また、まつ毛のエクステンションの接着剤も同じく目にはよくありません。ドライアイなど目のトラブルにつながりますので、目の健康を考えるなら、気をつけたほうがいいでしょう。
増田:眼精疲労で眼科を受診すると、どのような治療ができますか?
天野先生:残念ながら眼精疲労に特効薬はありませんが、ビタミンB12などが配合された点眼薬や、目の乾燥を防ぐドライアイの点眼薬を処方することがあります。また重症の方には、内服薬が有効な場合があります。しかしながら、眼精疲労は環境要因が大きいので、まずは先ほどお話したような原因(VDTによる目の酷使、矯正度数の見直し、ドライアイ、背後に隠れた病気はないかをチェック)を少なくするような対処法をすることが大切です。
増田:眼精疲労を感じている場合は、生活習慣の改善で軽減できることがいろいろあるのですね。次回は、特に女性に多いと言われるドライアイについて引き続き、天野先生に伺います。
取材・文/増田美加 イラスト/帆玉衣絵 内藤しなこ 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/木村美紀(yoi)Photos by MirageC,Ezra Bailey/Getty Images