過活動膀胱(頻尿、切迫性尿失禁)は、日本人に1千万人以上*いると推定されています。頻尿で、なんの前触れもなく突然トイレに行きたくなり、間に合わずにちょこっとモレしてしまったり、トイレに慌てて駆け込んでもチョロッとしか出ない、なんてことありませんか? この過活動膀胱の対策について、前回に引きつづき、女性泌尿器科医の二宮典子先生に伺いました。
*日本排尿機能学会
過活動膀胱は、脳のクセ!?
増田:頻尿やトイレに突然行きたくなって我慢できないなどの過活動膀胱に困っている人がたくさんいます。実は、私もその一人です。なぜ突然、尿意が起こるのか? 過活動膀胱の仕組みを教えてください。
二宮先生:過活動膀胱は、読んで字のごとし、過剰に活動する膀胱です。それほど尿がたまっていないのにトイレが近くなったり、なんの前触れもなく突然強い尿意に襲われ(尿意切迫感)、トイレが間に合わず、ちょっともれたり(切迫性尿失禁)、人によっては一度に大量にもれてしまうこともあります。
一般的に、1日の日中の排尿回数は5~7回程度で、睡眠中には、排尿のために起きないのが正常といわれています。これ以上の回数トイレに行っているという人は、頻尿に該当するかもしれません。
では、なぜ尿がたまってもいないのに、尿意が突然起こってしまうのか? 正常な膀胱は、脳からの指令によって尿意がコントロールされています。しかし、過活動膀胱では、脳からの指令による膀胱コントロールがうまくいかず、膀胱が過剰に収縮してしまいます。その原因は明確にはなっていないのですが、骨盤底筋群や骨盤底を構成する靭帯の弱まり、脳やせき髄などの機能低下、膀胱粘膜の弱さなどと考えられています。
また、脳の中枢が条件反射的に記憶していて、便座に座るや否や排尿するクセや、家に着くとすぐ排尿したくなるクセができてしまっているという要因もあります。
増田:我慢できずギリギリになってしまうのは、排尿のクセですか?
二宮先生:そうなんです。尿もれの経験のある人は、早めにトイレに行く習慣をつけてしまい、トイレで座ってリラックスして排尿する“快感”を脳が覚えてしまっているのです。ですから、私は患者さんに、家に帰って急いでトイレに行くときには、「掃除のためにトイレに入ったと思え。すぐに排尿できないと思いなさい」とアドバイスしています。そうして少し我慢するクセをつけるのです。
増田:過活動膀胱の人も、トイレは我慢したほうがいいのですね。
二宮先生:前回もお話ししましたが、頻尿や過活動膀胱の人は、尿を膀胱にためる「膀胱訓練」をすることが大事です。休みの日は、朝起きてトイレに行ったら、午前中はトイレに行かないよう我慢してみます。膀胱に尿をためるクセをつけると、膀胱がストレッチされて、ためやすくなります。
また、朝にたくさんたまっている最初の尿を出すときに、途中でいったん尿を止めてみましょう。尿道を締める筋肉(骨盤底筋)がきちんと使えているかどうかを確認できます。骨盤底筋のトレーニングにもなります。でも、排尿の途中で止めるのは、尿がたくさん溜まっている朝だけにしてください。たまっていないときに行なっても、締める筋肉がうまく使えているかがわかりません。
仲のよいお二人のトークは、テンポよく進みます。
何をどのくらい飲むと頻尿になるか、自分を知ること
増田:頻尿には、水分を飲む量や何を飲むかも関係しますか?
二宮先生:はい。自分の体格に合わないほどたくさん水分をとっている方がいますが、モデルさんや女優さんが1日4リットルくらい大量の水を飲むというのを真似たりして水分をとりすぎると、過活動膀胱の原因になる可能性もあります。大量の水分摂取を何年も続けると、腎臓に負担をかける可能性もあります。水分の推奨摂取量は1日1.5~2リットル程度(水分制限などがない人)とされています。尿の色を確認して、無色透明になっていたら水分のとりすぎかもしれません。
特定の飲みものをとると頻尿になる人もいます。コーヒーや緑茶、紅茶などのカフェイン、ビールやワインなどのアルコール、炭酸水などの炭酸飲料を控えることで、過活動膀胱の改善が期待できます。人によって何が頻尿になりやすいかが違うので、体と相談してみてください。
また、辛いものや酸っぱいものは、膀胱粘膜を刺激して、頻尿になりやすいので注意しましょう。これらを控えると過活動膀胱が改善する人もいます。1週間やめてみて、改善するかどうかを試してみてください。
夜2回以上トイレに行くような夜間頻尿で困っている人も、特に夜、飲んだり食べたりするものを工夫することで、回数が減る可能性があります。自分は何をどのくらい飲んだり食べたりするとトイレ回数が増えるのか、排尿日記をつけてみるのもいいかもしれません。
また、脚の筋力が少ないと、脚がむくみやすく、脚にたまった余計な水分が夜寝ているあいだに腎臓に戻っていき、その結果、頻尿になります。むくみを減らすために、夕方以降に散歩をしたり、半身浴をして汗をかくのも、夜間頻尿を減らす対策になります。
冷えると頻尿になる人は、足首を温めてみてください。
骨盤底筋を鍛えるコツ!
増田:骨盤底筋が弱かったり、緩んでいることで、その上に載っている膀胱が尿をためられずにいる、ということもあるのでしょうか?
二宮先生:骨盤底筋の筋力不足や緩みも関係します。骨盤底筋のトレーニングは、過活動膀胱(頻尿、切迫性尿失禁)の改善にも有効です。骨盤底筋トレーニングは、いつでもどこでもできて、予防としても治療としても効果が高いので、おすすめです。骨盤底筋を鍛える基本のやり方をご紹介しますね。
【骨盤底筋群はここ!】
骨盤の底にあるハンモック状に広がる筋肉の集まりが骨盤底筋群。ここの筋肉を鍛えます。
二宮先生:まずは、腟と肛門まわりの骨盤底筋に意識を集中させます。脚や腹筋など、余分なところに力を入れないように気をつけます。
基礎編
①骨盤を立てて座り、お尻をキュッと締める
最初は3秒間キープ。締めたまま10秒間、維持することができるかを試してみます。
②慣れてきたら、ゆっくりと締めたり、緩めたりを繰り返す
10回〜20回を1セット。1日3セットを目安に行います。座っている姿勢だけでなく、立っている姿勢、寝ている姿勢でも行なってみてください。
うまくできない人は、骨盤底筋の筋力が落ちて、弱くなっているかもしれません。お風呂で、腟に指を入れて、指を締めつけることができるかを試してみてください。腟内が動かない人は、骨盤底筋力が落ちている可能性があります。
応用編
基礎編ができて慣れてきたら、今度は肛門、腟、尿道をそれぞれ別々に、締めたり緩めたりをゆっくり繰り返します。
①肛門を引き締める
3秒間引き締める→脱力する。これを3回繰り返す
②腟を引き締める
3秒間引き締める→脱力する。これを3回繰り返す
③尿道を引き締める
3秒間引き締める→脱力する。これを3回繰り返す
増田:過活動膀胱だけでなく、尿もれの予防にも治療にもなるということなので、ぜひ、毎日実践したいと思います。でも、骨盤底の筋力が落ちていて、骨盤底筋トレーニングがうまくできない人もいると思います。その場合は、クリニックに行って診てもらうことはできますか?
二宮先生:女性泌尿器科にぜひいらしてください。近くになければ、婦人科でも診てくれます。
増田:ありがとうございます。次回は、腹圧性尿失禁についてと、女性泌尿器科でどのような検査をして、どのような治療ができるのかを教えていただきます。
取材・文/増田美加 イラスト/帆玉衣絵 内藤しなこ 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/木村美紀(yoi)