「肩こり・腰痛」はなぜ起こる? 気をつけるべき危険な病気は? 増田美加のドクタートーク Vol.54_1

日本人の約1700万人が肩こり、約2000万人が腰痛を訴えているといわれています。女性の不調の自覚症状のランキングでは、1位が肩こり、2位が腰痛です。この2大症状を改善するためには、原因を知ることが大切。女性のヘルスケアにも詳しい整形外科医の青山朋樹先生に伺いました。
*国民生活基礎調査(2016年)

青山朋樹(あおやまともき)先生

京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻 教授

青山朋樹(あおやまともき)先生

医学博士。群馬大学医学部医学科卒業。京都大学医学研究科博士課程。京都大学医学部附属病院整形外科ほかを経て現職。専門はリハビリテーション医学、整形外科学、再生医学。運動を用いた健康アプローチとしてのトレーニングをウィメンズヘルスのほか、幅広い分野で研究している。

そもそも肩こり・腰痛って何?

増田:肩こり、腰痛が国民病といわれるほど多く、しかも20代~40代の若い世代の女性にも多いのは、なぜなのでしょうか?

青山先生:脊柱(背骨)の構造は、骨、軟骨、椎間板などの硬い組織と、そのまわりにある筋肉、筋膜、靭帯などの軟部組織からできています。

骨や軟骨の不具合で起こる痛みは、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症、骨折などの病気によるものが多いですが、若い世代に起こる肩こり、腰痛は、骨の不具合というよりも、軟部組織である筋肉や筋膜の不具合によって起こる人が圧倒的に多いです。

年齢を重ねるとともに、肩周辺の筋肉や腱などのしなやかさが失われ、筋力や機能が低下します。そのために、肩の痛みや肩こりが起こりやすくなるのです。腰痛も同様です。腰痛を原因別に分類すると、腰部脊柱管狭窄や椎間板ヘルニアなどのように原因を特定できる腰痛は、全体の約10%。残りの約90%は原因を特定しにくい非特異的腰痛といわれる筋肉、筋膜やその機能が低下することによる腰痛です。病院に行くと、慢性腰痛症などと診断されます。

そのように、肩こりも腰痛も、慢性的に問題が生じやすいので、国民病といわれてしまうのです。しかし逆に言えば、これらの肩こり、腰痛の多くはセルフケアで、ある程度改善できるということでもあります。

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肩こり・腰痛とは? 青山先生がわかりやすく教えてくださいました。

姿勢が悪いから肩こり・腰痛になりやすい?

増田:病気が背後に隠れていない肩こり・腰痛が起こる原因として、多いのはなんでしょうか? 原因がはっきりわかれば、自分で予防したり、改善したりすることができますね。

青山先生:肩こり・腰痛の場合、脊柱の骨のアライメント(配列)が自然なS字カーブを描くようないい状態になっていれば、痛みは起こらないのですが、ストレートネックなどの悪い姿勢でアライメントが崩れていると、まわりの筋膜や筋肉が引っ張られて痛みやコリへとつながるのです。

体の筋肉は、拮抗筋といって対になっていて、どちらかがいつも引っ張られていると、その対となる筋肉がいつも縮んだ状態になります。このような筋肉の不均衡によって肩こりが起こります。スマホやパソコンを見ていて、後ろ側の筋肉がいつも引っ張られると、スマホ首といわれるようなストレートネックになって、肩こり、首こりが起こりやすい姿勢になるのです。

【正常な脊柱のアライメント(配列)】
頸椎、胸椎、腰椎がこのように自然なカーブを描けていれば、肩こり・腰痛は、ほぼ起こりません。

正常な脊柱のアライメント

増田:肩こり・腰痛は、ひと言で言えば、“姿勢が悪い”ことが原因なのですね。

青山先生:そうですね。正しい姿勢かどうかは、まず、正面から鏡で見たときに、左右差がないかをチェックしてみてください。左右バランスが悪く、どちらかが引っ張られるような不適切な姿勢も原因になります。左右差は、肩の高さに違いがないかを鏡で見るとわかりやすいです。原因は骨盤の歪みのこともありますし、脊柱の歪みのこともあります。

それから、前後の骨盤の傾きが正しい位置にあるかどうかも大切です。反り腰でも、前屈みの猫背でも、よくありません。肩が内側に入っている巻き肩も、肩こりの原因になります。これらの姿勢チェックは、壁に背をつけて立ってみるとわかりますのでチェックしてみてください

【正常な姿勢と悪い姿勢】

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【姿勢チェック】
後頭部、肩、お尻、ふくらはぎ、かかとの5点が普段の姿勢で、自然に壁につけて無理なくキープできますか?
無理につけようとしないとつかない、ついたとしても疲れて長くは耐えられないなどは、骨盤が前か後ろに傾
いている証拠です。

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増田:姿勢の歪みによる肩こり・腰痛ではなく、20代~40代女性が特に気をつけるべき、肩こり・腰痛を引き起こす病気はありますか? 

青山先生歯のかみ合わせの不良、目の疲れ、ストレス、不安などのメンタルから来る腰痛もあります。また、若い人でももちろん、頸椎や腰椎の椎間板ヘルニアの場合もあります。また、腕が痛くなるテニス肘(上腕骨外側上顆炎)が原因で、肩こりのような痛みが起こることもあります

多くはないですが、肩や腰に強い痛みがあって長引いている場合は、乳がんの転移や子宮がんなどの疑いもないとはいえません。また、若い人には少ないですが、狭心症や心筋梗塞、脳動脈瘤の可能性もゼロではありません。長く続いている痛みは、整形外科を受診してください

肩こり・腰痛改善には温めたほうがよい?

増田:肩こり・腰痛が起こってしまったときの対処法の基本を教えてください。温めていいのですか?

青山先生つらい肩こり・腰痛が起こる前には、前駆症状として筋肉が硬くなって、こわばりが出ます。5キロもある重たい頭を支えている脊柱のバランスが悪くなると、周辺の筋肉がこわばって緊張してしまいます。痛みやコリがひどくなる前にマッサージをしてあげるといいでしょう。ぎっくり腰や寝違えの予防にもなります。

筋肉が柔らかく伸び縮みしているときは、肩こり・腰痛は起こりません。筋肉が緊張して硬く、血行が悪いときに、肩こりや腰痛のアクシデントが起こります

そういう意味でも、血行がよいほうがいいので、入浴などで温めることは大切です。副交感神経が優位になって、リラックスできることも予防につながります。ウォーキングなどの適度な有酸素運動もいいでしょう。反対にストレスがあって交感神経が優位になると、血流が悪くなって肩こり・腰痛につながります。

増田:柔らかい筋肉を維持するために、血行をよくすることは大切なのですね。入浴や適度な有酸素運動で、肩こり・腰痛予防に励みたいと思います。

次回からは、肩こりや腰痛の改善法、自分でできるストレッチやマッサージについて詳しくお伝えします。

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増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

取材・文/増田美加 イラスト/帆玉衣絵    内藤しなこ 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/木村美紀(yoi)

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