頭痛は、4対1と圧倒的に女性に多い病気です。なかでも片頭痛と緊張型頭痛が女性に多いとされています。このふたつの頭痛の特徴とともに、頭痛を招かないようにするための生活習慣や対策を頭痛治療の第一人者、清水俊彦先生に伺いました。
東京女子医科大学 脳神経外科 頭痛外来 客員教授
医学博士。日本脳神経外科学会専門医。日本頭痛学会専門医。米国頭痛学会正会員。汐留シティセンターセントラルクリニック頭痛外来ほか多数の病院で1日平均約200人の患者を診察する頭痛治療の第一人者。著書に『頭痛は消える。』(ダイヤモンド社)ほか多数。
緊張型頭痛なら、体を動かしても悪化しない!
増田:慢性頭痛のうち、最も多い片頭痛の治療法のお話は前回詳しく伺いました。次に多いといわれている、緊張型頭痛はどのような頭痛なのでしょうか?
清水先生:緊張型頭痛は、午後から夕方にかけて痛みが増す傾向があって、肩や首のひどいコリと頭痛がセットで起こります。眼精疲労やめまい、全身のだるさをともなうこともあります。
緊張型頭痛は、体を動かしても痛みが悪化せず、吐き気などもないのが特徴です(頭痛のチェックリスト⇒vol.60)。ストレッチをすることで痛みがラクになるようなら、緊張型頭痛の可能性が高いと思います。
増田:緊張型頭痛の原因はなんでしょうか?
清水先生:緊張型頭痛は、ストレスなどで肩や首、側頭部の筋肉が緊張した結果、血流が悪くなり、筋肉の中に乳酸やピルビン酸などの老廃物がたまることで、神経を刺激するのが原因です。頭を締めつけられるような鈍い痛みが生じるのが特徴です。
下記のような痛みであれば緊張型頭痛ですが、片頭痛も合併している方が少なくありません。
【緊張型頭痛】
□締めつけられるような痛み
□頭の両側、あるいは後ろ側が痛む
□圧迫感、重苦しさ、頭重感がある
□運動をしても症状が悪くなることはない
□日常生活への支障は少ない(軽度~中程度の痛み)
□毎日あるいは高頻度に起こる
□夕方頃起こる
□入浴すると痛みがラクになる
□肩や首こりを感じる
清水先生:片頭痛と緊張型頭痛は、ストレスや疲労、寝不足など、共通の誘発因子があります。そのため、両方とも起こる合併型(混合型)のタイプの方も多くいらっしゃいます。
合併型の症状の現れ方にはふたつあります。ひとつは、日によって片頭痛と緊張型頭痛が起こるタイプ。もうひとつは、日常的に緊張型頭痛が起こっていて、たまに片頭痛が起こるタイプです。
合併型が疑われる場合は、ご自分では適切な対処が難しいと思いますので頭痛専門医を受診することをおすすめします。
緊張型頭痛の対策と治療法
増田:緊張型頭痛は、肩こりや首こりがあって、入浴すると楽になるタイプ、ということですが、お風呂で温めるほか、ストレッチや軽い運動も対策としていいのでしょうか?
清水先生:慢性の肩こりがあったり、座りっぱなしなどの同じ姿勢が続いたりして、首や肩、側頭部の筋肉が緊張し血流が悪くなることで、頭痛が起こることがあります。ストレスで血行が悪くなり、頭痛を起こすこともあるでしょう。
そんなときは、首や肩を軽くストレッチしましょう。肩を上げ下げする、両手を組んで頭の後ろにおいて、手の重さで首を前にゆっくり傾けるなどもいいでしょう。もちろん、入浴などで軽く温めて血行をよくすることも有効です。
増田:頭痛薬などを飲んでもいいのでしょうか?
清水先生:緊張型頭痛は、痛みが軽く、日常生活にあまり支障をきたすことがないので、市販の頭痛薬(鎮痛剤)を月に1回程度飲むことで治ってしまう方も少なくありません。そのような方は、それでよくなればとりあえず、服用頻度が増加しないかぎりは様子を見ても問題はあまりないでしょう。
しかし、「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」にならないよう、頭痛薬の飲みすぎには注意です。そもそも、何度も頭痛薬を飲まないと治まらない頭痛なら、緊張型頭痛だけではなく、片頭痛やほかの頭痛を悪化させるような疾患、例えば甲状腺機能障害や副鼻腔炎などを合併している可能性があります。
増田:病院を受診して緊張型頭痛と診断されたら、どのように治療するのでしょうか?
清水先生:緊張型頭痛の急性期には、筋緊張をやわらげる薬や、痛みに対する限界値(閾値)を上昇させて、あまり頻繁に痛みを感じなくさせるような抗うつ薬を少量処方して治療します。
緊張型頭痛では、これらの薬が予防にもつながることが多いといわれています。しかし、この場合も3カ月以上使いつづけても改善が得られない、もしくは頭痛薬の服用頻度が増加した際には、「薬剤の使用過多による頭痛」の悪化が見られることもあるため、服用頻度や服用量には注意を払ってください。
【緊張型頭痛でおもに使われる薬】
●鎮痛薬(頭痛薬)及び、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)
●カフェイン:痛みをやわらげる効果がある
●抗うつ薬:特に慢性の緊張型頭痛において、痛みの限界値(閾値)を上昇させる
●抗不安薬:緊張した気分をやわらげる効果がある
●筋弛緩薬:筋肉の緊張をほぐす効果がある
●ボツリヌス毒素:ほかの薬では痛みが抑えられない場合に用いられる
片頭痛と緊張型頭痛、日常生活で気をつけること
増田:片頭痛や緊張型頭痛を持っている方が、できるだけ起こらないようにするには、日常生活で気をつけることはありますか?
清水先生:片頭痛と緊張型頭痛では、やるべきこと、やってはいけないことが少し違います。それぞれ、ご紹介します。
【片頭痛の対策は?】
・規則正しい生活をする。休日でも睡眠時間は一定に
・朝食をとるよう心がける。和食中心の生活に
・カフェインと糖分を適度にとる
・強い光を避けるため、帽子とサングラスを常備する
・香水や芳香剤など、強い香りを避ける
・チョコレートや赤ワインなどをとりすぎない
【緊張型頭痛の対策は?】
・ストレッチや入浴で首や肩の筋肉をほぐす
・ストレスや疲労をためすぎず、適度に解消する
・座りっぱなしなど同じ姿勢を取りつづけない
増田:やってはいけないこと、症状軽減のためにやったほうがいいことはありますか?
清水先生:慢性的な頭痛を抱えている人は、できるだけ脳が興奮しないように、生活のなかで脳を刺激するような行動を避けてください。
まず、片頭痛の人は、強い光、強いにおい、大きな音は、脳を刺激しやすいので、適度で心地よい照明や音楽、アロマなどの微香でリラックスして過ごしてください。
空腹で血糖値が減少すると、脳血管がゆるんで周囲の三叉神経を刺激し、片頭痛が起こりやすくなります。お腹が空きすぎないようにしましょう。チラミンやポリフェノールなどの血管拡張物質が入ったチョコレートや赤ワイン、柑橘系の果物はとりすぎると、片頭痛が起こりやすくなるので要注意です。頭痛の前兆を感じたら、コーヒーや紅茶などを飲むと、カフェインが水分を体外に排出し、拡張した脳血管を戻してくれます。
片頭痛を予防する作用が期待できる食材は、脳血管や脳の神経細胞を安定させる作用のある、マグネシウム、ビタミンB2、カルシウム、食物繊維を多く含む食材です。例えば、納豆、わかめ、ごぼう、卵、きのこ類など、和食の定番食材は頭痛を起こりにくくしてくれる食材です。
緊張型頭痛の人は、コリやストレスで筋肉が緊張して、血管が収縮し、血流が悪くなることで起こりますので、体を温めて血流を促すことで予防や改善になります。
しかし、片頭痛の対処法は真逆です。脳の血管の拡張によって、脳血管周囲の三叉神経が刺激されて痛みが起こりますので、逆に痛いところを冷やし、広がった血管を収縮させることで痛みをやわらげることが可能です。ですから、片頭痛のあるときには、血流を促す熱い湯船に長時間つかるのは避け、ぬるめのシャワーで済ませるのもよいでしょう。
また、片頭痛がある方のこんな習慣は、片頭痛を起こしやすいので要注意です。
・混雑した場所に出かけることが多い:人混みは、音、光、香りなどの物理的な刺激も高く、密閉空間では酸素が薄くなり脳血管を拡張させます。
・ポニーテールにしている:頭皮を引っ張っていると後頭神経や三叉神経が刺激され、脳血管周囲の三叉神経にその情報が伝わり、頭痛が誘発されることがあります。
・休日に寝すぎる:不眠だけでなく寝すぎや短時間の昼寝、もしくは二度寝も片頭痛の誘因になります。
・電気をつけたまま寝る:蛍光灯の光が瞼を通して、眼球の視神経から過敏な脳を刺激します。
・朝食べない、ダイエットしている:空腹は低血糖になり、午前中に片頭痛を起こす原因に。
増田:日常生活で気をつけて対策できることもたくさんあるのですね。病院での治療に加えて、セルフケアも行うことで、できるだけ片頭痛や緊張型頭痛などの慢性頭痛を改善し、予防にも役立てられたらよいと思いました。清水先生、3回に渡ってありがとうございました。
取材・文/増田美加 イラスト/帆玉衣絵 内藤しなこ 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/木村美紀(yoi)Photos by RUNSTUDIO,worldofstock/Getty Images