増田美加のドクタートーク ドライアイ

ドライアイの患者さんは国内で2200万人以上*1と言われ、男性より女性に多い病気としても知られています。さらに現在、パソコン、スマホなどの使用、コンタクトレンズ装用者の増加、高齢化も伴って、ドライアイの患者さんはますます増えています。ドライアイに詳しい眼科専門医、天野史郎先生にドライアイのケアについて伺いました。
*1 ドライアイ研究会ホームページより

眼精疲労 ドライアイ 目のトラブル 天野史郎先生

天野史郎(あまのしろう)先生

お茶の水・井上眼科クリニック院長

天野史郎(あまのしろう)先生

1986年東京大学医学部卒業。ハーバード大学研究員、東京大学眼科教授、井上眼科病院副院長を経て2021年より現職。日本眼科学会専門医。日本角膜学会理事。ドライアイ研究会世話人。『MGD 診療ガイドライン』(2023年)責任編集者。

ドライアイが増えているのはなぜ?

増田:ドライアイに悩む女性は、まわりにたくさんいます。どうしてドライアイは増えているのでしょうか?

天野先生ドライアイは、涙の病気です。涙の量が不足したり、涙の質(成分)が変化して、涙が目の表面に行き渡らなくなります。目が乾くという不快感だけでなく、乾燥によって眼の表面を傷つけてしまう場合もあります。

国内の調査研究では、40歳以上の男性の12.5%、女性の21.6%*2がドライアイにかかっています。ドライアイの患者さんが増えているのは、パソコンやスマホなどのVDT(visual display terminals)作業、コンタクトレンズ装用、エアコン使用の増加、高齢化による涙腺の機能低下、薬の使用やほかの病気にも要因があると言われています。理由は不明ですが、欧米に比べて、アジア地域で罹患率が高いことも報告されている病気です。
*2 Uchino M, Nishiwaki Y, Michikawa T, Shirakawa, K, Kuwahara E, Yamada M, et al:Prevalence and risk factors of dry eye disease in Japan:Koumi study. Ophthalmology 118:2361-2367, 2011

増田:ドライアイは、目が乾く、ゴロゴロするなどのほか、どんな症状があるのでしょうか?

天野先生:目が疲れやすい、目やにが出る、目がかゆいなどの不快感にも、ドライアイの可能性が潜んでいるかもしれません。進行すると、視力低下や痛み、角膜上皮剥離(角膜が乾燥してはがれる病気)を発症してしまうこともあります。ドライアイの可能性がある症状を下記にまとめてみました。

【こんな症状なら「ドライアイ」かも】
・目が疲れる
・目が重たい
・目がゴロゴロする
・目が乾く
・目に不快感がある
・目がヒリヒリ痛い
・目が赤くなる
・目がかゆい
・朝、目が開けにくい
・光をまぶしく感じる
・白っぽい目ヤニが出る
・見えづらい
・かすんで見える
・視力が低下した

天野先生5つ以上当てはまるなら、ドライアイの可能性があります。慢性化してしまう前に、早めに眼科で検査することが大切です。また、上記の症状には、別の病気の初期症状の可能性もあります。ドライアイかどうかは自己判断せずに眼科の診察を受けてください。

【ドライアイの目の表面はデコボコに!】
健康な目は、涙と粘膜が正常で、目の表面もまぶたもなめらか。そのため刺激も感じにくく、ものがくっきりと見えます。一方、ドライアイの目の表面はデコボコで、刺激を受けやすくなっています。そのため、ものも見えにくくなってしまいます。

健康な目の表面 目のトラブル ドライアイ

ドライアイの目の表面 目のトラブル

ドライアイの原因は?

増田:どうして目が乾くのでしょうか? ドライアイの原因を教えてください。

天野先生:大きな原因は環境要因です。VDT作業以外にも、エアコン使用による乾燥した空気、過剰なアイメイクなども原因になります

目薬の使い過ぎも良くありません。防腐剤などの添加物が入っていますので、使いすぎに注意しましょう。また、向精神薬や睡眠導入剤などがドライアイの原因になることもあります

シェーグレン症候群や糖尿病などの病気によっても、ドライアイが起こることがあります。特に、シェーグレン症候群は30代~60代の女性に多い病気です。ドライアイだけでなく、ドライマウスなどほかの粘膜や皮膚も乾くようなら、膠原病内科などの病院を受診してみましょう。

また、レーシックなどの目の手術が原因でドライアイを起こすこともあります。そのため近年では、眼内コンタクトレンズを目の虹彩の裏側に挿入するICL手術が増えてきています。ICLのほうがドライアイになりにくいと言われているからです。

コンタクトレンズを装用している方は、含水率の違いなど、ドライアイの目に優しいタイプを選ぶといいでしょう。最近では、酸素透過率値が高いシリコンハイドロゲル素材で作られたコンタクトレンズは、目に負担が少ないとされています。

どうして涙が減ってしまうの?

増田:ドライアイの仕組みを教えてください。

天野先生:ドライアイは涙の病気とお話ししましたが、涙は角膜を守るために2つの層からできています。「液層」と「油層」です

「液層」は、涙の95%を占めています。この液層の水分の蒸発を防ぐために、外側から覆って涙の膜を作り、表面をカバーしているのが「油層」です。油層は、マイボーム腺から分泌されています。油層の膜が薄くなると、「ドライスポット」という部分が現れます。

【目の表面の構造】
涙は角膜を守るために「液層」「油層」という2つから成り立っています。油層は、涙の大部分を占めている液層の外側を覆って、涙の膜を作っています。この涙の膜が薄くなるのがドライアイで、涙でコーティングされていないドライスポットが現れてしまい、角膜表面が傷つきやすくなってしまうのです

ドライアイ 目の表面 涙の層

増田:ドライアイの人は、油層も液層も減ってしまうのでしょうか?

天野先生ドライアイは大きく3つのタイプに分けられます。液層の涙の量が減る「水分不足(涙液減少)型」、油層が減って涙の脂が不足する「脂不足(蒸発亢進)型」、目の表面の細胞を覆うムチンが不足する「ムチン不足(水濡れ性低下)型」です。それぞれ治療法が異なるため、詳しい検査をして、涙の状態やバランスなどを調べる必要があります。

ドライアイの検査と治療法は?

増田:ドライアイで眼科を受診すると、どのような検査を行いますか? 

天野先生:眼科では、どのタイプのドライアイかを調べる検査も行っています。

●「シルマーテスト」 ⇒ 目盛り付きの試験紙を下まぶたに挟んで、涙で濡れた量を調べる。
●「BUT検査(涙液層破壊時間=Tear film Break-up Time)」⇒ 目を開いたまま涙の膜が崩れるまでの時間を計測する。5秒以下だとドライアイと診断される。
●「BUP検査(涙液層破壊パターン=Tear film Break-up Pattern)」⇒ ドライアイのタイプがわかる。
●「生体染色検査」 ⇒ 角膜、結膜に薬剤で色をつけ、ドライアイでできた小さな傷を細隙灯顕微鏡で観察する。 



このほかに問診も行い、ドライアイを引き起こす生活スタイルや環境要因がないかを伺います。

増田:ドライアイの治療法には、どんなものがあるのでしょうか?

天野先生:ドライアイの治療には、外から水分を補う、体内から涙の成分を分泌させる、涙を留めるといったアプローチが挙げられます。

一般的には点眼薬による治療が主流で、人工涙液やヒアルロン酸製剤など、目を潤すタイプの点眼薬と、水分・ムチンなどを体内から分泌させる点眼薬などがあります



涙を留める治療法としては、「涙点プラグ」といって、涙の排出口を液体コラーゲンやシリコン製のプラグで塞いでしまう方法があります

ドライアイのタイプ別に治療を紹介すると、

「水分不足(涙液減少)型」の人には、体内の水分分泌を増やして、ムチンや脂も増やす「ジクアス」という目薬を処方します。目薬だけでは足りず、水分が少なくて、目の傷がひどい場合は、涙が鼻に流れてくる排出口である涙点に蓋をする「涙点プラグ」を行います。

「ムチン不足(水濡れ性低下)型」の人には、ムチン分泌を増やす目薬「ジクアス」や「ムコスタ」を処方します。

「脂不足(蒸発亢進)型」の人は、まつ毛の内側にある「マイボーム腺」の状態を調べてマイボーム腺機能不全であることがわかれば、まぶたを温める温庵法、まぶたの縁をきれいにする眼瞼清拭をまず行います。それに加えて、抗菌薬の目薬「アジマイシン」や軽いステロイドの目薬を使います。さらにクリニックでの施術する方法が新たに登場してきました(これについては次回詳しく紹介します)。

増田:目薬の種類もいろいろあるのですね。自分のドライアイのタイプを知って、適切な目薬を使うことも大切ですね。そのためにも眼科を受診することが大事ということがよくわかりました。セルフケアでできることはありますか?

天野先生濡れタオルを電子レンジなどで温め、まぶたを温めるセルフケアもいいと思います

また、生活スタイルや環境の中で、ドライアイを悪化させている可能性があるものを減らすことも大切です。たとえば、部屋が乾燥していれば加湿器を使用したり、長時間コンタクトレンズを使うのを避けてメガネに切り替えたりもしてみましょう。生活環境を変えずに、目薬だけでなんとかしようとしても、うまく改善できないことも多いのです。

増田:ありがとうございます。お薬に頼るだけでなく、セルフケアは基本ですね。次回は、ドライアイ全体の86%以上と言われている「脂不足」によるドライアイと「マイボーム腺機能不全(MGD)」という病気との関連性について、天野先生に引き続き、詳しく伺います。

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

ドライアイ 目のトラブル 自分でできるケア

取材・文/増田美加 イラスト/帆玉衣絵    内藤しなこ 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/木村美紀(yoi)Photos by  MirageC,Ezra Bailey/Getty Images

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