女性の不快症状の第1位が肩こり。スマホやパソコンによるストレートネックが原因の肩こりも増えています。つらい肩こりを効果的に改善するストレッチやマッサージ法を紹介。前回に引きつづき、女性のヘルスケアにも詳しい整形外科医の青山朋樹先生に伺いました。
京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻 教授
医学博士。群馬大学医学部医学科卒業。京都大学医学研究科博士課程。京都大学医学部附属病院整形外科ほかを経て現職。専門はリハビリテーション医学、整形外科学、再生医学。運動を用いた健康アプローチとしてのトレーニングをウィメンズヘルスのほか、幅広い分野で研究している。
肩こりが女性に多いのはなぜ?
増田:肩こりに悩んだことがない女性は、いないのでは? と思うほど、肩こりは女性にとって究極の悩みだと思います。子どもの頃はなかった肩こりに、年々悩まされるようになるのは、なぜなのでしょうか?
青山先生:筋肉と関節から、いくつかの原因が説明できます。加齢によって、肩周辺の組織がもろくなりはじめること、関節の動きをスムーズにする関節包や滑液包の潤滑液が減ってくること、肩関節は動く範囲が大きいために骨以外の組織が引っ張られやすいことなどがあります。人間はどうしても老化しますので、年々、筋肉、筋膜などの筋バランスが悪くなってきてしまうのが、肩こりが増えてくる要因です。
また、隠れた要因として、ストレスなどの心因性のものもあります。それから、血流が悪いことも大きな要因になりますね。ごくまれにですが、内臓の病気や乳がんなどによる肩周辺の痛みもあります。肩やその周辺の首、背中の強い痛みが続く場合は、病院で相談してください。
取材は終始なごやかなムードで進みました。
ストレートネックが肩こりの原因に
増田:ストレートネックも、若い人の肩こりの原因に多いといわれていますが、どうなのでしょうか?
青山先生:頸椎(首の骨)がまっすぐになっている状態をストレートネックといいます。横から見ると、背骨は首から腰にかけてS字カーブを描いています(下記イラスト参照)。けれども、スマホやPCの画面を覗き込むような悪い姿勢で見ていることによって、自然な背骨のカーブが失われて、まっすぐになってしまうことがあります。ストレートネックは、病名ではなく状態を表す言葉ですが、ストレートネックが原因で、肩こり、首こり、頭痛や腰痛まで起こすこともあります。
いちばんの原因は、やはりスマホやPCを長時間悪い姿勢で見ることです。普段から猫背ぎみの人は頭が胸よりも前に出て、ストレートネックになりがちです。枕の高さが原因になるという指摘もありますが、寝た状態では重力がかかる方向が異なり、頭の重さが首に負担をかけないため、主要な原因とはいえません。
特に女性は、なで肩体型の方や肩回りの筋力が弱い方が多いため、負荷がかかりやすく、男性に比べてストレートネックになりやすいのです。10代から肩こりがあると悩む女性の方も少なくありません。もちろん、生活習慣だけでなく、生まれながらの体型で肩こりになりやすい方もいます。
【正常な脊柱のアライメント(配列)】
ストレートネックになっている可能性があるのはどんな人?
増田:自分がストレートネックになっているかどうか、知る方法はありますか?
青山先生:そうですね。ストレートネックになりやすい方は、下記のような状況が多い方です。
□普段から姿勢が悪く猫背(前屈み)
□デスクワークが多い
□仕事でノートPCを使っている
□スマホを長時間使用する
□多忙でストレスが多い
これらに当てはまる方は、ストレートネックになっている可能性が高いと思います。
増田:とはいっても、スマホを使わないわけにはいかないので、何か注意することはありますか?
青山先生:スマホを長時間使用するとストレートネックになりやすいのは、操作するときに顔が下を向きがちだからです。その姿勢は、頭が体の前に出て、ストレートネックの状態になっているわけです。スマホは、なるべく顔の正面か、視線をほんの少し下げるくらいの位置に持ち上げてみましょう。タブレットも、できればスタンドを使って、机に置いて見るようにするといいでしょう。長時間、首を前に傾けないようにすることが大切です。
また、忙しかったり、ストレスが多かったりすると、交感神経が優位になって、首や肩の筋肉が緊張して固まってしまい、ストレートネックの状態が定着してしまいます。肩まわりを動かして、固まらないように、血行をよくすることも大切です。
肩こりに効果が高いストレッチやマッサージポイントは?
増田:筋肉を動かすことが大切なのですね。簡単にできて効果のあるストレッチやエクササイズ、マッサージなどを教えてください。
青山先生:デスクワークが長く続くときは、できれば1時間に1回、立ち上がってください。そのときに簡単にできるエクササイズとストレッチを紹介します。
【肩甲骨を動かすエクササイズ】
肩甲骨を動かすことで肩こりを改善、予防できます。腕を大きく回すことで、肩甲骨も一緒に動きます。内回し、外回し10回ずつを1セットで。
【首のストレッチ】
首を左右にゆっくりと倒します。首まわりの筋肉が伸びます。前後も同様にゆっくりと倒します。左右、前後各10秒ずつ行います。
【肩と肩甲骨まわりのマッサージポイント】
肩こりの予防や改善に即時効果があるマッサージポイントは、肩甲挙筋(けんこうきょきん)と菱形筋(ひしがたきん)です。
①肩甲挙筋の肩の付け根のところを重点的に押します。
②菱形筋は、肩甲骨に張り付いている筋肉です。肩甲骨にくっついているところを上から下に向かってマッサージします。自分ではできないので、マッサージしてもらうか、道具を使います。道具は、筋膜リリースに使う筒形のフォームローラーやマッサージボール、マッサージ棒などがあります。
増田:ほかにセルフケアとしては、血行をよくするために、体を温めるのがいいのでしょうか?
青山先生:肩こりの方は、血行促進のために、シャワーだけで済ませずに湯船で温まることをおすすめします。運動は、腕をしっかりふって早めの速度で歩くウォーキングがおすすめです。姿勢もよくなりますし、リラクゼーション効果も期待できます。
肩こりを治療するときの湿布剤は冷感 or温感? 薬の選択は?
増田:肩こりで市販の湿布剤を使うときは、冷感と温感のどちらを使うのがよいのでしょうか?
青山先生:消炎鎮痛薬は、冷湿布でも温湿布でも効果は同じです。どちらでも気持ちのいいほうで構いません。肩こりは、筋肉が硬くなって血流が悪くなっているので、血流をよくしてリラクゼーションになるという意味では温湿布がいいかもしれません。でも、冷湿布でも気持ちよければそれでOKです。
増田:整形外科などのクリニックを受診すると、どのような治療になりますか?
青山先生:肩こりの原因は、骨(頸椎)、筋肉、神経、血行、メンタルなどがありますが、どれであれ、病院でする治療は薬物を使った療法が共通した治療法です。薬物療法には、外用薬、内服薬、注射薬の3つがあります。
外用薬には、消炎鎮痛薬を配合した湿布やローション、ゲル、スプレーなどがあります。使い勝手がよいものを医師と相談して選びましょう。
肩こりの治療で使われる内服薬には、炎症を抑えて痛みを軽減させる消炎鎮痛薬や、筋肉の緊張を緩めて血流を改善する筋弛緩薬などがあります。そのほか、筋肉の疲労をやわらげて神経機能の回復や筋肉の疲労回復を促すビタミン剤B1やB6が使用されることもあります。また、ビタミンEは血流を改善、ビタミンB12は神経の機能を回復させるといった効果も。そのほか、漢方薬もあります。
痛みが筋膜や筋肉の表面近くなら外用薬で、より体の奥のほうの痛みなら内服薬が適しています。外用薬も内服薬も、痛みを抑えるには同じ効果が期待できますが、胃腸が弱い人や眠くなるのがイヤな人は、外用薬で対処するほうがいいかもしれません。
飲み薬、外用薬でも痛みが改善しない場合、注射という選択肢もあります。2タイプあり、筋肉への注射と神経への注射です。筋肉への注射は、局所麻酔薬やステロイド薬を。神経への注射は、神経ブロック注射を肩こりの原因となる神経に注射します。
増田:セルフケアではどうにもならないときは我慢せず、整形外科で治療すると薬の選択肢も多くて、いいですね。温めて動かすことが重要ということもわかりましたので、実践していきたいです! 次回は腰痛の改善法を引きつづき、青山先生に伺います。
取材・文/増田美加 イラスト/帆玉衣絵 内藤しなこ 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/木村美紀(yoi)