気圧や気温、湿度の変化の影響で心や体に不調が現れる“気象病”。天気が悪い日に、頭が痛くなったり、体がだるくなったりしていたら、気象病かもしれません。女性に多いと言われるこの病気は、日常生活での予防と対策が可能です。日常生活での改善やマッサージ、ストレッチ法などを気象病・天気病外来を開設して診療にあたっている久手堅司先生に伺いました。
せたがや内科・神経内科クリニック院長
医学博士。東邦大学医学部医学科卒業。東邦大学医療センター大森病院等を経て現職(せたがや内科・神経内科クリニック院長)。気圧予報・体調管理アプリ「頭痛ーる」監修。自律神経失調症外来のほか、気象病・天気病外来を開設し5000名を超える患者を診察。著書に『面白いほどわかる自律神経の新常識』(宝島社)、『気象病ハンドブック』(誠文堂新光社)ほか多数。
気象病をどう治療する?
増田:気象病のおもな症状は、頭痛が最も多く、倦怠感、肩こり、めまい、耳鳴り、ときにはメンタルに支障をきたす方もいるとのことです(⇒vol.69)が、先生のクリニックではどのように治療しているのでしょうか?
久手堅先生:気象病の症状の中でも、最も多いのが頭痛で、当院を受診する患者さんの8割以上に頭痛がみられます。頭痛の中でも緊張型頭痛がいちばん多く、次に片頭痛の方が多いですね。
緊張型頭痛は、頭の両側が締めつけられるような痛みが特徴。片頭痛は、予兆があったり、血管が拍動するガンガンした痛みが起こったりする頭痛で、吐き気を伴うこともあります。特に天候の悪い時期に、頭痛の患者さんが増えています。
片頭痛の患者さんには、鎮痛薬、トリプタン製剤(片頭痛の薬)、予防薬などから患者さんの状態に合わせて処方します。緊張型頭痛には、鎮痛薬が比較的効果があります。また、漢方薬の「五苓散(ごれいさん)」は、気象変化に伴う頭痛に対して、使用頻度も高く、効果を感じる方が多いので、まず使用してみてもいいと思います。いずれにしても、病院を受診してご自分の症状にあった薬を処方してもらってください。
増田:気象病では、ほかにも倦怠感や首・肩こり、めまい、耳鳴り、うつっぽさや不安感などの症状が現れるケースもあるとのことですが、これらの症状にはどのような治療があるのでしょうか?
久手堅先生:まず背景に隠れた病気がないかを確認したうえで、それぞれの症状を抑えるために、症状によって漢方薬や鎮痛薬など、対症療法的な薬を処方することはあります。
また、当院では治療として漢方薬を処方することが多いです。頭痛で処方することがあると紹介した「五苓散」は、頭痛以外にもめまい、むくみなどにも広く使われています。東洋医学では“気(き)・血(けつ)・水(すい)”という考え方に基づいて体の状態をとらえ、血液以外の体液を“水”と呼びます。気象病の方は、水のバランスが乱れた“水滞(すいたい)”や“水毒(すいどく)”であることが多く、水のバランスを整えることで症状が改善するケースも少なくありません。五苓散には、水のバランスを整えて気象病の症状を和らげる効果が期待できます。漢方薬と運動習慣を組み合わせることで、気象病の症状が大幅に改善した方もいるほどです。
生活習慣で気象病を治す方法
増田: 生活習慣で治す方法はありますか?
久手堅先生:気象病の症状をできる限り抑えるためには、薬だけでなく、規則正しい生活をして、自律神経を整えることのほうが効果的です。
朝起きて太陽の光を浴びることや栄養のある食事を規則正しく食べる、日中は適度な運動をすることが大切です。夜は睡眠の質を高めるために湯船に浸かり、副交感神経を優位にすることもいいですね。特に、これまで運動習慣がない人は、運動に取り組むことで不調が改善するケースも少なくありません。
前回紹介した正しい姿勢を意識することでも自律神経を整えられるので、気象病の対策になります。
また気象病では、低血圧によって動けなくなるくらい不調が現れる方もいらっしゃいます。気象によってどの程度血圧に変化があるかを把握し、自分の体調を自分で管理できるよう工夫することも大切です。今、便利な気象予報アプリがありますので、気圧変化による体調不良が起こりそうな日時を知らせてもらい、体調管理をすることも有効です。当院の患者さんの8割が使っていたのは、「頭痛ーる」というアプリでした。
マッサージも効果的な場合があるので、自宅でできる方法を紹介しましょう。
【耳のマッサージ】
耳をマッサージすると血行がよくなり、自律神経が整います。手のひらで耳を温めながらマッサージするのも効果的です。
① 両耳を持って水平に伸ばして10秒キープ。さらに斜めに引っ張り10秒キープ
② 耳たぶを持って、前に5回・後ろに5回ゆっくり大きく回す
【顔・頭まわりのマッサージ】
特に頭痛のある人は、顔まわりのマッサージで筋肉のコリをほぐします。
①食いしばったとき、あご外側で硬くなる筋肉(咬筋)をほぐします。頬骨の下を内から外へ3本の指で軽く押します。
②両手を熊手のような形にして、耳の上からこめかみに向かって軽くマッサージします。側頭筋は、ストレスや緊張で食いしばることでコリやすい筋肉です。側頭筋のあとは、こめかみも指で優しくマッサージしてください。
食事や睡眠も気象病対策に!
増田:食事でケアできることはありますか?
久手堅先生:ヨーグルトがオススメです。“脳腸相関”と呼ばれる脳と腸の関連性がわかってきていて、慢性的な便秘や下痢などの腸の不調があると、自律神経にも悪影響を及ぼすといわれています。
腸内環境を整えるためのヨーグルトに、セロトニンを増やすバナナを加えて、バナナヨーグルトにしてはどうでしょう。幸せホルモンと言われているセロトニンが増えると、心の安定と睡眠の改善につながります。
夏の疲れを改善し、自律神経を整えるためには、冷たいものを摂り過ぎないように心がけましょう。野菜でビタミンBやCをしっかり摂ることも重要。タンパク質もしっかりと摂ってください。糖質が多くなりやすい方は、注意が必要です。
増田:秋になったときの寒暖差の対策も教えてください。
久手堅先生:暑い夏から秋になって、台風が増えたり、気温が下がってくると、寒暖差と気圧の変化で倦怠感や不眠ほかの不調が出やすくなります。
質のいい睡眠のために、38~41度のぬるめのお湯に首まで10~15分くらい入るのはおすすめです。また、歩く量を少し増やすだけでも、股関節を動かす機会が増え、血行がよくなり、脳に送られる酸素量が増えます。自律神経が整い、心もリフレッシュします。無理のない範囲で、軽く汗をかくような運動を行なってください。
増田:ありがとうございます。久手堅先生が気象病・天気病外来を開設して、今まで理由がわからなかったつらい症状を改善できる手立てがわかって、救われた人が多くいますね。
久手堅先生:診察を続けるうちに梅雨時や台風の時期に頭痛、めまい、倦怠感などの症状が悪化する方が多くいることがわかりました。それらの症状が天候に関連していることを実感し、“気象病・天気病外来”を開設しました。気象病の改善には、薬を処方するだけでなく、生活習慣を整えるアドバイスをすることが多いです。そうすると、つらい不調がよくなって笑顔になってくる患者さんが増えるのを見ています。近年、気象病や天気病外来が少しずつ増えています。悩んでいる方は、ぜひ受診して相談してみてください。
取材・文/増田美加 イラスト/帆玉衣絵 内藤しなこ 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/木村美紀(yoi) Photos by SB/Getty Images