女性に多い足トラブルの第1位は、外反母趾です。「外反母趾の原因は、ハイヒールだけではない。足アーチの崩れが根底にある」と話す桑原靖先生。足アーチの崩れをくい止めて外反母趾を進行させない方法を伺いました。
足のクリニック表参道 院長
2004年、埼玉医科大学医学部卒業、同大学病院形成外科で創傷治癒学、難治性足潰瘍およびフットケアを専攻。2013年、日本で初めて足に特化した専門医療機関・足のクリニック 表参道(https://ashi-clinic.jp/)を開院。専門医師、看護師(メディカルフットケア)、義肢装具士(インソール作製)、理学療法士(歩行機能改善訓練)がチーム医療として足のあらゆるトラブルに対応。日本フットケア・足病医学会評議委員。著書に『「足が痛い」本当の原因はコレだ!』(時事通信出版局)、『一生自分の足で歩ける!「最強の土踏まず」のつくり方』(PHP研究所)ほか多数。
外反母趾は、どのようにして起こる!?
増田:外反母趾が女性に多いのは、ハイヒールのせいとばかり思っていましたが、それは間違いだということが前回わかりました。足アーチの崩れが原因とのことですが、足の趾(指)はどのように外反していくのでしょうか?
桑原先生:ハイヒールは、外反母趾を助長する要素ではあるものの、原因にはなりません。外反母趾になるのは、体重や地面からの衝撃を受けとめる、足のアーチ構造が崩れてしまうからです。衝撃で柔らかい土踏まずが押しつぶされ、縦アーチが平らになると扁平足になります。足の甲の半円の横のアーチも、内側方向にねじれながらつぶれていきます。
すると、親指の付け根の関節に無理なねじれの力が加わるため、痛みが出ないように外へ外へと関節が逃げていきます。親指の爪が人差し指側に向いてきていて、親指の側面にタコができていれば、外反母趾の予備軍といえるでしょう。
増田:外反母趾のように骨が変形していても痛くない人もいますが、痛みのない外反母趾もあるのでしょうか?
桑原先生:外反母趾は放っておくとしだいに悪化します。しかし、悪化したからといって痛みが増幅するわけではありません。外反母趾の初期は、親指の付け根が徐々に出っ張ってきて、赤く腫れ、ひどく痛みます。ところが進行して指の関節が完全に脱臼してしまうと、親指自体には痛みをほとんど感じなくなるのです。
けれどもそのかわり、足の変形が激しくて靴がはけなくなってしまいます。さらに進行すると、親指が曲がって人差し指の下に潜り込み、親指の機能は完全に失われ、負荷が人差し指にかかり痛みが出ます。そして、人差し指の関節も脱臼してしまいます。こうなると足全体のバランスが崩れて歩行困難になります。
女性が外反母趾になりやすいのは、もともと骨が細く、骨格が華奢だからです。外反母趾になりやすい人は、扁平足、O脚の人、足の骨組みが柔らかく、グニャリと曲がりやすい人、足の親指の骨が生まれつき長い人、親やきょうだいが外反母趾の人、です。
増田:痛みがある場合は、病院ではどのような治療ができますか?
桑原先生: 痛みや炎症があるときは、湿布や痛み止め、ステロイド注射などで症状を取り、インソールを使って足の骨格構造の崩れを下から整えます。インソールは、医療機関でレントゲンや足形からオーダーメイドで作ることができます。外反母趾の治療であれば、保適適用されることもあります。
約9割の人は、インソールとストレッチなどで痛みから解放されますが、それでも痛い場合に手術を考えます。そのときは、足の専門医を受診してください。サポーター、テーピングや矯正器具では、外反母趾は改善しません。
外反母趾を進行させないためには、姿勢と歩き方が大事
増田:そうなる前に、足のアーチの崩れをくい止める方法を教えてください。
桑原先生:足のアーチの崩れをくい止めて、外反母趾を進まないようにするには、「姿勢と歩き方」が大切です。
まずは正しい姿勢で立つこと。背中が曲がっていたり肩が左右どちらかに傾いていたりすると、重心の位置がずれて、足にかかる力のバランスが崩れます。すると、足アーチが崩れて外反母趾が進行しやすくなるのです。
足アーチが崩れていると姿勢が安定しません。片足で立つとフラフラするのは、足アーチが崩れていて、体をバランスよく支えられていない証拠なのです。
これ以上足アーチを崩さないために、つねに姿勢を整える習慣をつけましょう。自分で鏡を見るのもよいですが、横向きの姿勢を誰かにチェックしてもらうのもおすすめです。
背中が曲がっていないか、肩の高さが左右同じか、骨盤が前か後ろに傾いていないか、膝がのびているか、左右の足のどちらかに重心をかけて立っていないかは、すぐチェックできるポイントです。
増田:歩き方で気をつけることは、どんなことでしょうか?
桑原先生:歩き方は、ただ足を前に出すのではなく、股関節を使いながら骨盤を前後に動かして歩きます。歩幅は大きく、かかとから着地し、足底のアーチで地面をとらえ、足首を軸に体を前に進め、最後に親指側のつま先でけり出すようにします。脚だけでなく全身を使って歩くのがコツです。
足アーチが激しく崩れている人は、このような理想的な姿勢で歩けません。その場合はインソールを使って、足に優しい靴をはき、足アーチを補正してあげることをおすすめします。
ストレッチでトラブルを防止する!
増田:ストレッチやエクササイズ、マッサージなどは有効でしょうか?
桑原先生:外反母趾を治すことはできませんが、外反母趾のある人がさらに二次的なトラブルを起こすことを予防するために有効です。アキレス腱や股関節周囲のストレッチ、体幹の筋力強化をするといいでしょう。
また、理学療法士さんなどに見てもらい、姿勢や歩き方、ストレッチの方法などのアドバイスを受けることも大切です。足アーチをサポートしてくれる矯正靴下を利用するのもいいと思います。
増田:アキレス腱や股関節周囲のストレッチはどのように行えばいいのか、教えてください。
桑原先生:まず、アキレス腱のストレッチから紹介します。アキレス腱が硬いと、足首が十分に曲がらず、かかとがスムーズに上がりません。足の疲れや痛みの原因になるので、毎日ストレッチして柔軟にしておくことが大事です。ヒールがある靴のほうがラクという人は、アキレス腱ののびが悪く硬くなっている可能性が大なので、しっかり行いましょう。
【アキレス腱のストレッチ】
ふくらはぎとかかとをつなぐアキレス腱が硬いと、足首が十分に曲がらず、かかとがスムーズに上がりません。そのまま歩くとトラブルの要因になりますから、ストレッチでのばすことが大事。両足のつま先を壁に対して垂直にし、前に出した脚の膝を曲げ、アキレス腱が突っ張るのを意識して痛気持ちよく感じる程度にのばします。それを1分間キープし、反対側も同じようにしましょう。
桑原先生:次に股関節です。股関節は足トラブルと密接に関係しています。足アーチが崩れて内側に倒れると、足首の骨が内側に傾きます。すると立つときに、膝は内側にねじれ、それに合わせて股関節もねじれて可動域が狭くなります。ストレッチをして股関節の動きをよくすれば、脚がスムーズに動くようになって足トラブル軽減につながります。
【股関節の前後ストレッチ】
脚の付け根をのばすことで柔軟性を高め、正しい歩き方をサポートします。脚を大きく後ろに反らして、股関節の前後の可動域を広げます。太ももの前面をのばすようにして、思いきり脚を広げましょう。膝が痛いときには、床にクッションを敷いて行なってください。痛気持ちいい程度に、1分間ほどキープ。反対側も同様に。
【股関節のストレッチ 内回し、外回し】
アーチが崩れると足首が内側に倒れて立つため、膝が内側にねじれ、その結果股関節もねじれ可動域が狭くなります。まず、両膝を立て、片方のひざを内側に倒します。脚の付け根の外側が突っ張るのを感じながら、1分キープ。反対の脚も行います。また、あぐら座で両足の裏を合わせ、両膝を開き、上体を前へ倒します。太ももの内側がのびるのを感じながら、1分間キープします。
手術を選択するのはどんなとき?
増田:インソールや靴下、ストレッチなどのセルフケアでどうにもならないときに、手術を選択することになるのでしょうか?
桑原先生:症状がひどく、不具合がインソールでは調整できない場合には、手術という選択肢もあります。足の指の変形や脱臼を改善する方法には、手術しかありません。
写真左は、親指の関節が完全に脱臼した状態です。こうなると、あまり痛みを感じなくなりますが、親指が人差し指の下に潜り込み、人差し指の付け根の関節まで脱臼してしまいます。普通の靴をはくのが難しく、歩行に支障も起こるため、手術を行うことが多い症例です。
桑原先生:手術には、4~5日間の入院が必要です。包帯や松葉杖は必要なし。健康保険適用で自己負担額は5〜10万円程度です。
術後の経過は、執刀医の経験と患者さん本人の足の特徴によって異なります。しかし、欧米に比べて日本の足医療は100年遅れているといわれています。手術する場合は、医師を選ぶことが大切です。経験のある医師は、年間100~200人の外反母趾の手術をしていますが、日本にはまだ少ないかもしれません。
増田:外反母趾の手術に長けている医師は、そんなに少ないのですね。ちなみに桑原先生は、年間何例くらい外反母趾の手術をされているのですか?
桑原先生:年間250~300症例(片方の母趾を1症例として)を10年くらい行なっています。手術は両足行うので、人数でいうと、これまで1000~1500人くらいの方の足を手術しています。
増田:桑原先生のように、経験のある医師が日本には数少ないのですね。これから増えていくことを期待します。まずは手術になる前に、自分の足に注意を向けて、早めの予防をしたり、早めに足の専門医に相談するようにしたいですね。
次回は、巻き爪について予防と改善策を詳しく紹介します。
取材・文/増田美加 イラスト/帆玉衣絵 内藤しなこ 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/木村美紀(yoi)