実に多くの女性が頻尿・尿もれに困っていて、20代~60代の女性の2人に1人以上が尿もれを経験していることがわかりました。20代、30代でも、なんと約6割が頻尿・尿もれを経験しています*。その理由と対策を女性泌尿器科医の二宮典子先生に伺いました。
*日本女性20代から60代4万人に聞く尿もれ実態大規模調査(P&Gジャパン)2019年より
痩せすぎや筋力低下も頻尿・尿もれの原因に!
増田:4万人の日本女性を対象とした尿もれ実態大規模調査*で驚いたのは、20代~60代の女性の2人に1人以上が尿もれを経験していたことです。しかも、尿もれを経験しているのは更年期以降の女性だけでなく、20代、30代でも約6割もの女性が経験していました。そのうち、約63%は出産経験がない人でした。尿もれは更年期以降の女性や産後の女性の悩みと思っていましたが、実は年代にかかわらず、誰にでも起こりうることだったのですね。
二宮先生:そうですね。尿もれの原因は、年齢を重ねることだけでなく、ほかにもいろいろあります。座りっぱなしや運動不足などの生活習慣、肥満、過度なスポーツ経験(運動のやりすぎ)なども原因になります。若くても骨盤底の筋肉が弱ってきている女性たちが増えていますが、骨盤底の筋力低下も尿もれの原因になります。
昔は産後や肥満による尿もれがおもでしたが、今は、お産の経験がない10代20代の女性にも尿もれで困っている人がいます。若い世代では、痩せすぎで運動習慣がなく、体が冷えている方に多いですね。痩せていると女性ホルモンの分泌も少なく、筋力もないために、頻尿、尿もれが増えているのでしょう。
また、10代20代の女性の場合、尿もれと思っていたものが実はサラッとした水分の多いおりものだったということもあります。見分けるには、腟に小さいタンポンを入れてみてください。それで尿もれがなくなったら、「おりものだった」ということがわかります。
【女性の骨盤内の構造と骨盤底筋群】
骨盤底筋群(骨盤底の筋肉群)は、尿道、腟、肛門の周辺にあり、恥骨から尾骨までハンモック状に広がっています。
頻尿・尿もれなどの尿トラブルには、いろいろな種類があります
増田:女性の尿トラブルには、どんな種類があるのですか?
二宮先生:いちばん多いのは、「腹圧性尿失禁」といわれる、咳やクシャミをしたときにもれるタイプです。次に多いのは、「切迫性尿失禁」で、突然トイレに行きたくなり我慢できず、もれてしまうものです。切迫性尿失禁の急な尿意は、自分の意思に反した膀胱の強い収縮によって起こるもので、「過活動膀胱(かかつどうぼうこう)」といわれる状態が背景にあります。
増田:これらの尿もれが起こりやすい人には、特徴や共通点はあるのでしょうか?
二宮先生:「腹圧性尿失禁」は、妊娠、分娩経験がある方に圧倒的に多いですね。ほかに肥満、便秘なども原因になります。
「切迫性尿失禁」の原因は「過活動膀胱」ですが、過活動膀胱の原因は明確にはわかっていないのです。過活動膀胱は、40歳以上の男女のうち約1千万人以上がかかっていて、その半数に切迫性尿失禁があるといわれています。また、閉経後にフェムゾーンに乾燥、かゆみ、尿もれ、頻尿、痛みなどがあるGSM(閉経後泌尿生殖器症候群)という病態とも複雑に関連しています。
それから、尿もれではないですが、「細菌性膀胱炎」は、20代~40代女性に多いですね。痛くて出血もあるので、クリニックを受診する方は少なくありません。女性は男性に比べて尿道が短いため、尿路感染が起きやすいのです。お風呂での洗い過ぎも原因になりますので、注意してください。
【おもな尿トラブルの種類】
●腹圧性尿失禁
重い荷物を持ち上げる、咳やクシャミ、排便時のいきみなど、お腹に力が入るともれます。週1回以上経験している女性は500万人以上とも。骨盤底筋群を含む骨盤底の筋肉が緩むために起こります。妊娠や分娩経験、肥満、便秘、過度のスポーツなどで腹圧をかけることが原因に。
●切迫性尿失禁
頻尿になり、急に尿がしたくなって我慢できない「過活動膀胱」が起こり、間に合わずにもれてしまいます。多くの場合、特に原因がないのに膀胱が勝手に収縮し、尿意切迫感や尿失禁を起こしてしまいます。
●過活動膀胱
尿意切迫感があって、頻尿(昼間8回以上が目安)や夜間頻尿(就寝後、2回以上トイレに起きる)があります。加齢、ホルモンの低下、血管や神経の障害、ストレスでも起こりますが、はっきりとした原因はわかっていません。
●GSM(閉経後泌尿生殖器症候群)
閉経後、泌尿器や生殖器の老化によって起こる排尿・腟・性機能に関するさまざまな症状。多い順に、尿もれ、頻尿、性交痛、かゆみ、においといった症状が現れます。GSMは慢性的にどんどん進行し、閉経後の半数以上の女性が悩んでいるといわれています。
●細菌性膀胱炎
20代~40代の、どの年齢にも多い症状です。頻尿、残尿感、膀胱の痛み、出血などが起こります。女性は尿道が短く、尿道と肛門が近いため、雑菌が尿道から入りやすく、男性よりも膀胱炎になりやすい体の構造をしています。デリケートゾーンの洗いすぎも原因になります。
【尿もれのリスクが高い人はこんな人】
□妊娠・出産経験のある人
□太っている人
□便秘をしている人
□喘息を患っている人
□重いものをしょっちゅう持つ人
特に、腹圧性尿失禁は、妊娠・出産と大きくかかわっています。産後しばらくすると一度は治まっても、更年期以降に加齢によって再び出現します。荷重労働や排便時の強いいきみ、喘息による慢性的な咳も骨盤底筋を傷める原因になります。
ご自身のYouTubeチャンネルも運営している先生は、とってもお話し上手!
トイレにこまめに行くのはNG!
増田:頻尿や尿もれが心配な人は、ついこまめにトイレに行ったりしますが、どうなのでしょうか?
二宮先生:「尿もれをしないように」と、尿意があまりないのにこまめにトイレに行くクセがつくと、膀胱が広がらなくなり、少しのおしっこしかためられなくなってしまい、かえって頻尿が悪化します。トイレを我慢していると膀胱炎になるというのも、都市伝説のようなもので根拠はありません。
そこで、頻尿・尿もれの人におすすめなのは、「膀胱訓練」です。尿意があっても少し我慢して、膀胱に尿をためるようにする訓練です。まずは自宅にいるときから始めてみてください。やり方は簡単です。「尿意が来た!」と思ったら、まず5分我慢。徐々に10分我慢できるようにしていきます。そのうち排尿間隔が開いて、1日8回未満になったら、頻尿はかなり改善したといっていいと思います。
増田:安心のために尿もれパッドを使用したり、夜間頻尿にならないために寝る前に水分を摂らないようにするというのは、どうなのでしょうか?
二宮先生:尿もれパッドは使っていいと思いますが、予防のためにつけっぱなしにするのは、尿もれを悪化させる可能性があります。かぶれる恐れもあるので、やめたほうがいいでしょう。
また、睡眠中にトイレに行きたくないので寝る前の水分を控えるという方がいますが、水分は普通に摂取してください。もし寝ているあいだに2回以上トイレで起きるなら夜間頻尿ですので、クリニックを受診すれば改善法のアドバイスもしますし、お薬でも治療できます。
増田:ありがとうございます。次回は、夜間頻尿も含めて、頻尿・尿もれの予防や改善につながるトレーニング法や食生活で気をつけることなどをアドバイスいただきます。
取材・文/増田美加 イラスト/帆玉衣絵 内藤しなこ 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/木村美紀(yoi)