天気が悪い日に、頭が痛くなったり、体がだるくなったりした経験はありませんか? もしかしたら、“気象病”かもしれません。気象病とは、気圧や気温、湿度の変化などの影響で心や体に不調が現れる状態のこと。気象病・天気病外来を開設して診療にあたっている久手堅司先生にお話を伺いました。
せたがや内科・神経内科クリニック院長
医学博士。東邦大学医学部医学科卒業。東邦大学医療センター大森病院等を経て現職(せたがや内科・神経内科クリニック院長)。気圧予報・体調管理アプリ「頭痛ーる」監修。自律神経失調症外来のほか、気象病・天気病外来を開設し5000名を超える患者を診察。著書に『面白いほどわかる自律神経の新常識』(宝島社)、『気象病ハンドブック』(誠文堂新光社)ほか多数。
“気象病”とはどんな病気? 増える時期はあるの?
増田:今、ネットやメディアでも話題となっている気象病とは、どのような病気なのでしょうか?
久手堅先生:気象病は、気圧や気温、湿度などの気象変化によって引き起こされる心身の不調のことです。正式な病名ではないので、医師からも理解されにくく「気にしすぎ」「気のせい」などと言われ、理解してもらえず、改善できずにどうしたらいいか悩んでいる人も少なくありません。
症状は頭痛が最も多く、けん怠感、肩こり、めまい、耳鳴りなど多岐にわたり、時にはメンタルに支障をきたす方もいます。
増田:気象病の原因となる気候の変化には、どんなものがあるのでしょうか?
久手堅先生:気象病の原因になるのは、気圧、寒暖差、湿度の3つです。
特に気圧の影響が多く、患者さんの8割くらいが気圧の変化で体調が悪くなっています。人の体は、外からの気圧に負けないように、体の内側から同じ圧力で押し返すことでバランスを保っていますが、気圧の変化が大きくなると、バランスが崩れるため体調を崩しやすくなるのです。特に気圧の低下時に多く見られ、雨の前に体調が悪くなる人が多いのです。そのため、気象病が増えるのは、梅雨どきと9月~10月の台風シーズンです。台風シーズンのほうが気圧の変化が激しいので、よりつらいと思います。
また、7℃以上の寒暖差があると体温調整に使うエネルギー消費が大きくなり、不調が出やすくなります。自律神経は環境に合わせ体温調整をしていますが、気温差が大きくなると自律神経が過剰に働き、疲労がたまりやすくなります。湿度も、気温との関係で適切な範囲にないと、体温調整するのに自律神経に負担がかかります。
女性に気象病が多いわけ
増田:女性のほうが気象の変化に悩んでいる人が多いイメージですが、女性の患者さんは多いのでしょうか?
久手堅先生:はい。7割弱くらいが女性ですね。でも、最近では男性も増えています。また、生活習慣の乱れも増えており、10代~60代と年齢層が広がっている印象があります。
増田:女性に多い理由は、なんでしょうか?
久手堅先生:女性は生理周期や更年期といった女性ホルモンの変動が大きいために、気象の変化にも敏感で、不調が強く出やすいのです。
また、生理による出血のため、貧血になる方が多いことも、頭痛やだるさなどの不調が出やすくなる要因です。さらに、男性に比べてデスクワークが多い傾向にあることや、筋肉量が少ないことも、気象病が女性に多い理由と考えています。筋肉量が少ないために、冷えやすくむくみやすいので、気象病の症状が出やすくなります。
生活面では、不規則な生活、睡眠不足、運動習慣がない方も気象病になりやすいといえるでしょう。
頭痛がある人に、気象病が多い?
増田:気象病の症状の多くは頭痛がらみだということですが、女性に片頭痛が多いこととも関係しているのでしょうか?
久手堅先生:気象病の症状の中で頭痛が最も多く、当院を受診する患者さんの8割以上に頭痛が見られます。気象病がらみで起こる頭痛は、緊張型頭痛がいちばん多く、次に片頭痛です。緊張型頭痛は、頭の両側が締めつけられるような痛みが特徴。片頭痛は、予兆があったり、血管が拍動するようなガンガンする痛みが起こる頭痛で、吐き気をともなうこともあります。緊張型頭痛、片頭痛ともに女性に多いので、頭痛の多い方は気象病にもなりやすいといえるかもしれません。
特に、天候の悪い時期は、頭痛の患者さんが増えるように感じます。次に多いのが倦怠感や首・肩こりです。また、うつっぽさや不安感などメンタル症状が現れるケースもあります。
増田:めまいや耳鳴りなども、気圧の影響で気象病の症状なのでしょうか?
久手堅先生:気圧の変化には、特に耳の奥にある「内耳」が反応しています。気圧の変化に敏感な人は、少しの変化でも、脳に異常を知らせる情報を過剰に送ってしまい、自律神経が乱れます。その結果、めまい、耳鳴り、頭痛などの症状を引き起こすと言われています。気象変化に合わせて自律神経が働いているため、気象病と自律神経は切っても切れない関係があるのです。
ですから、気圧を感知する耳になんらかの疾患がある方や耳が弱い方(飛行機で耳がキーンとなったり、乗り物酔いしやすい方)は、治療を行っても症状が改善しにくい場合があります。たとえば、メニエール病※を発症している方は、薬などの治療が効きにくい傾向があります。
※耳の内側に水ぶくれができて、めまいや難聴が起こる病気。
また、もともと血圧の低い方は、全身倦怠感や重だるさ、朝起きられないなどの症状が、気圧の変化で重くなることがあります。
増田:自分が気象病かどうかをチェックする方法を教えてください。
久手堅先生:当院では、気象病の診断のためにオリジナルのチェックリストを使用しています。下記に紹介しますので、参考にしてみてください。
【気象病チェック】
□天候が悪いときに体調が悪い
□雨が降る前や天候が悪化する前に体調の変化によって何となく天気の変化が予測できる
上記2つのどちらかに当てはまる人の約8割は、気象病の可能性があります。これ以外にも以下の項目に当てはまったら、気象病の症状と言えるでしょう。
□片頭痛などの頭痛持ちである
□肩こり、首こりがある。あるいは、首肩の持病や不調がある
□耳鳴りやめまいが起こることが多い
□けん怠感が強い。起床時や日中もだるい
□低血圧気味である。血圧が低くなると体調不良が出る
病院は何科を受診すればいいの?
増田:こちらに当てはまる方は、病院を受診すれば治療してもらえるのでしょうか?
久手堅先生:気象病は正式な病名ではないので、明確な診断基準がありません。なかには、検査を行っても異常が見つからないために、精神的な原因による体調不良と判断され、心療内科や精神科で治療を受けているようなケースもあります。もし、上記のような症状に当てはまり困っていたら、気象病外来、自律神経失調症外来なども徐々に増えてきていますので、探してみてください。漢方内科の医師に相談するのもいいでしょう。
増田:久手堅先生は、気象病・天気病外来を作られましたが、受診される方は増えていますか?
久手堅先生:頭痛で悩んでいる患者さんが、天気と関係していることが多く、そんな方たちのために外来をつくりました。コロナ禍による生活習慣の乱れなどもあり、ここ2~3年、診察を受けに来られる方が増えています。
ネットやメディアの情報を見て、最近では産業医の紹介状を持って受診される方も増えてきました。社会全体が気象病のつらさを理解できれば、つらい人は、梅雨や台風シーズンに休暇を取ったり働き方を変えるなど、しやすくなってくると思っています。
増田:まずは、気象病というものがあると知って、理解することが大切ですね。何が原因だかわからなかったつらい症状が気圧や寒暖差の影響だとわかれば、天気予報を見て予知して対策することもできそうです。次回は、自律神経の乱れと気象病の関係、その対策の仕方を引き続き、久手堅先生に伺います。
取材・文/増田美加 イラスト/帆玉衣絵 内藤しなこ 撮影/伊藤奈穂実 企画・編集/木村美紀(yoi) Photos by inoc,Maria Korneeva,Leonid Korchenko/Getty Images