女性に多い冷え。冷えは、さまざまな不調の原因になります。むくみや目の下のクマ、生理痛、便秘、イライラも元をたどれば、冷えからきている可能性が。産婦人科医で漢方の専門医でもある堀場裕子先生に、冷えからくる不調の改善法を聞きました。
慶應義塾大学医学部漢方医学センター 助教
日本東洋医学会専門医・指導医、日本産科婦人科学会専門医、日本漢方生薬ソムリエ、女性ヘルスケアアドバイザー、漢方家庭医。産婦人科医として働いているときから、更年期障害や月経困難症・月経不順などで漢方薬を処方し、自分自身でも漢方薬を飲んでおり、漢方薬の効果を日々実感。多くの患者と接するなかで、西洋薬とは異なる効き方をする漢方の魅力を感じ、困りごと、悩みごとを漢方で改善するための発信や診察を行なっている。
むくみ、生理痛、頭痛、肩こり、便秘…も実は冷えが原因!?
増田:女性は、冷えからくる不調が多いと聞きますが、冷えるとどんな不調が起こるのでしょうか?
堀場先生:冷え症とは、寒さを感じないくらいの温度でも、手足や下半身などの体の一部や、全身が冷えてつらい症状と言われています。
女性の冷えからくる症状は、本当にたくさんあります。むくみ、生理痛、頭痛、肩こり、腰痛、不眠、便秘、下痢、膀胱炎、目の下のクマ、顔色のくすみなども、冷えからくるものがあると考えられます。
増田:冷えやすいタイプや生活習慣には、どのようなものがあるのでしょうか?
堀場先生:そうですね。外来で女性の患者さんを診ていて、冷え症の人に多い生活習慣や特徴をあげてみますね。
【冷えやすいタイプの生活習慣と特徴】
・スムージーや冷たい飲み物をよく飲む
・生野菜をたくさん食べる、果物が好き
・素足でいる
・冬でも薄着でいる
・顔色がくすみがち
・手足だけなど、体の一部だけ冷えている
・しもやけ、あかぎれ、皮膚が乾燥する
・運動習慣がない
・シャワーだけで湯船につからない
・乗り物酔い、二日酔いしやすい
・台風など気圧が変化する前に頭痛がする
女性が冷えるのは、筋肉量と血流に原因が
増田:冷え症の人の生活習慣を見ると、当てはまる女性は多そうですね。冷えを改善すれば、冷えによるつらさやそのほかの不調も改善するということなのですね。そもそも、どうして女性は冷えやすいのでしょうか?
堀場先生:女性が冷えやすい理由は、大きく分けるとふたつあります。
ひとつ目は、筋肉量が足りなくて自分で熱を産生できないことによる冷え。ふたつ目は、血流が悪いために起こる冷えです。
①筋肉量が足りず、自分で熱を作れない人には、食事量が少ない方や、過度なダイエットによる痩せ体型の女性、高齢の方に多いです。コロナ禍による運動不足で筋肉が落ちてしまい、冷えが加速してしまった方もいます。
②上半身(頭部)がほてっているのに下半身が冷えたり、手先や足先だけ冷えたりするのは、血流不足によるものが多いです。生理痛がある、関節痛やひざの痛みがあるなども、血流不足の可能性があります。
①と②が混在している人もいますが、30代~50代の女性は、②の血流が悪い人が多い印象ですね。
靴下や生姜だけでは冷えは解消しない!
増田:筋肉量が少なくて冷える人も、血流が悪くて冷える人も、靴下をはいたり、生姜を食べたりして体を温めれば冷えは改善しますか? 改善策は同じでいいのでしょうか?
堀場先生:靴下や生姜で温めるだけでは、解決しない冷えもたくさんあります。冷えを改善すれば、それ以外の不調も改善する可能性が高いので、正しい冷え対策が大切です。
①の筋肉量が足りない場合の冷え改善策としては、栄養をしっかりとる必要があります。どうやって栄養バランスのよい食事をとったらいいかわからない人は、食事を一食プロテインに変えるところから始めてみてはどうでしょう。バランスのよい栄養をとるだけでも、体は温まります。加えて、運動を心がけて少しずつでも筋肉をつけていくようにしましょう。
②の血流が悪くて冷えている人は、体を動かすことで血流がアップすると、冷えが改善できます。冷えから来るむくみやそのほかの不調対策にもいいです。運動の種類は、負荷をかけて脚を動かすことがいいので、階段の上り下り、踏み台昇降、エアロバイクなどが効率的です。ジョギングや水泳でもいいと思います。ウォーキングなら、脈が速くなる程度の歩き方をすることが大事。重りを持って、腕を振って肩を動かして歩くなど、プラスの負荷をかけることで運動効率が上がります。
短いスカート、素足、冷たい飲み物などは、血流が悪くなり、体を冷やし、むくみの原因にもなります。できるだけ冷やさないように、服装や食べるものの工夫をすることも大切です。スカートよりパンツ、ワンピースよりブラウスとスカートのセットアップにしたほうが、ウエストまわりが冷えずに済みます。薄手の腹巻きや使い捨てカイロなども上手に活用しましょう。
入浴は、有効な冷え対策!
増田:むくむのは、冷えからくることもあるのですね。冷えない、むくまない体にするにはどうしたらいいのでしょうか?
堀場先生:簡単にできる冷え対策として、入浴は効果的です。湯船に入って、額にじんわり汗をかくくらい温まりましょう。冷えや冷えによるむくみ、代謝が悪くて起こるむくみ対策にもいいです。
また、冷えている人が気をつけたいのは、冷たいものを食べたり飲んだりすることです。冷たいものが欲しいときは、温かいものを飲んで胃の温度を上げてから飲食する、冷たいもの温かいものを交互に飲食するなど冷やしすぎない工夫が大事。アイスクリームやスムージーなどをどうしても食べたい人は、毎日から週3~4日にするなど、頻度を減らすことから始めてみてください。
冷えに効く漢方薬の選び方
増田:食事や衣類で、自分で冷える原因を作っていたわけですね。冷えないためのセルフケアを行なっても、どうにもならない冷えに、漢方薬の役立て方を教えてください。
どういう冷え、むくみに、どんな漢方薬がいい? その選び方は?
堀場先生:冷え症の人は、冷えプラス、ほかの症状が必ずあります。冷えに加えて、どんな症状があるかによって、選ぶ漢方薬が異なります。また加えて、栄養はしっかりとれているのか、運動しているのか、湯船で温まっているのかなどの生活習慣から、どういうタイプの冷えかを判断して、漢方薬を処方しています。
たとえば、冷えてむくみやすい人は、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)。生理痛、目の下のクマなどがある人は、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)。便秘がある人は、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)。イライラ、不安などがある人は、加味逍遙散(かみしょうようさん)などを処方することが多いです。
増田:自分に合った薬もわかるし、健康保険も効くので、漢方薬は医師に処方してもらったほうがいいのでしょうか?
堀場先生:忙しくてすぐに受診できない人は、まず薬局やドラッグストアなどで市販の漢方薬を購入して試してみてもいいかもしれません。飲んでみて自分に合っていることがわかれば、そのまま飲み続けてもいいですし、健康保険で手に入れたければ、そのあと医療機関を受診して処方箋を出してもらってもいいでしょう。
お話したように、冷えでもタイプによって漢方薬が異なるため、選ぶのが不安なら、ぜひ医師を受診してください。医師は、漢方専門医だとより詳しいですが、婦人科、内科、その他の診療科でもほとんどの医師が漢方薬を処方した経験がありますので、相談してみてください。
増田:ドラッグストアと病院の漢方薬の違いはあるのでしょうか?
堀場先生:市販の漢方薬の中には、漢方薬を構成している生薬の分量が医師処方のものより、少なめになっているものがあります。市販の漢方薬は、生薬以外にビタミンCなどのほかの成分も加えていることがあります。その分、市販薬のほうが値段も高めです。
増田:なるほど、よくわかりました。賢く使えば、漢方薬は女性の冷えにまつわる不調対策の大きな味方になりますね。次回は、多くの女性が悩んでいる「疲れ」の解決法を伺います。
取材・文/増田美加 イラスト/大内郁美 企画・編集/木村美紀(yoi)