慢性の便秘に悩む人は、なんと国内で450万人といわれています。便秘の自覚症状がある人は、男性2.5%、女性4.6%と圧倒的に女性に多いのです*。更年期世代で見ると、女性は男性の3倍も便秘に悩まされています。便秘の治療とお薬について、『便通異常症診療ガイドライン2023』の評価委員でもある中島淳先生に伺いました。
*厚生労働省の国民生活基礎調査(2016年度)
横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室主任教授
大阪大学医学部卒業。社会保険中央総合病院内科、東京大学第三内科助手、ハーバード大学客員研究員、横浜市立大学第三内科を経て、現職。横浜市立大学先端医科学研究センターセンター長、横浜市立大学学術院医学群長。『慢性便秘の診療ガイドライン2017』作成委員。『便通異常症診療ガイドライン2023』評価委員でもある。
病院で受診すべき便秘の症状とは?
増田:便秘とひと口に言っても、さまざまな排便の不快症状がありますが、どんな症状だと、慢性便秘症となるのでしょうか? 慢性便秘症だと、病院を受診したほうがいいのでしょうか?
中島先生:便秘症の3大症状としては、「排便回数の減少」「排便困難感」「残便感」があります。
検査をしたほうがいい、病院に行ったほうがいい便秘の症状は、最近急に便秘になった、血便が出たり、貧血あったりする、などです。気をつけたほうがいいリスクは、大腸の病気をしたり、家族に大腸の病気をした方がいる場合です。下記にまとめました。気になる方は、消化器科を受診してください。
【病院を受診したほうがいい便秘症状とは】
●警告症状
□急に便秘や下痢になったりなどの排便の急激な変化
□理由なく体重が減ってきた
□血便
□お腹にしこりのようなものがある(腹部腫瘤)
□お腹に水が溜まったような動きがある(腹部波動)
□発熱
□関節痛
●リスク因子のある人
□50歳以上で慢性の便秘になった
□大腸の病気にかかったことがある
□大腸の病気にかかった家族がいる
参考資料/「日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断・治療研究会編:慢性便秘症診療ガイドライン 2017」南江堂
病院で行われる便秘症状のチェック・検査は?
増田:消化器科の病院では、どのようなチェックや検査をしますか?
中島先生:見逃してはならない、便秘症を引き起こす病気は大腸がんです。病院では、腸管の炎症や腫瘍といった病気(大腸がんほか)や、そのほか慢性便秘症を起こしやすい病気(甲状腺機能低下症、うつ、糖尿病、慢性腎不全、膠原病ほか)による慢性便秘症でないかを見極めます。また、服用している薬(オピオイド系鎮痛剤、睡眠薬、抗コリン剤ほか)による薬剤性便秘でないか、どうかも確認します。
先ほど紹介した警告症状やリスク因子のある方には、大腸内視鏡、腹部超音波、腹部レントゲン検査などを患者さんの症状や状態によって行います。
また、女性の場合は、女性ホルモンのバランスが乱れて便秘になる場合もあります。生理周期による便秘の場合は、婦人科を受診して相談してください。
【薬剤性の慢性便秘症を起こす可能性がある薬剤】
●抗コリン薬:アトロピン、スコポラミン、抗コリン作用をもつ薬剤(抗うつ薬や一部の抗精神病薬、抗パーキンソン病薬、ベンゾジアゼピン、第一世代の抗ヒスタミン薬など)
●向精神薬:抗精神病薬、抗うつ薬
●抗パーキンソン病薬:ドパミン補充薬、ドパミン受容体作動薬、抗コリン薬
●オピオイド:モルヒネ、オキシコドン、コデイン、フェンタニル
●化学療法薬:植物アルカロイド(ビンクリスチン、ビンデシン)、タキサン系(パクリタキセル)
●循環器作用薬:カルシウム拮抗薬、抗不整脈薬、血管拡張薬
●利尿薬:抗アルドステロン薬、ループ利尿薬
●制酸薬:アルミニウム含有薬(水酸化アルミニウムゲルやスクラルファート)
●鉄剤:フマル酸第一鉄
●吸着薬、
陰イオン交換樹脂:沈降炭酸カルシウム、セベラマー塩酸塩、ポリスチレンスルホン酸カルシウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム
●制吐薬:グラニセトロン、オンダンセトロン、ラモセトロン
●止痢薬:ロペラミド
「日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断・治療研究会編:慢性便秘症診療ガイドライン 2017」南江堂より
便秘薬の選び方は?市販薬は使っていいの?
増田:便秘薬はどのように使えばいいのでしょうか? 市販薬は使ってもいいのですか?
中島先生:お薬を適切に使うことは大切です。ただし、生活習慣や食習慣の改善、排便姿勢や排便習慣の見直しなど(⇒Vol.77参照)のセルフケアを行ないながらです。
お薬は、腎臓の機能が正常である方なら、市販薬の「浸透圧性下剤(酸化マグネシウム)」をまず使ってみるのはいいと思います。『慢性便秘症診療ガイドライン2017年』でもそう示されています。
市販薬で注意しなくてはならないのは、多く出回っている「刺激性下剤」です。刺激性下剤には、アントラキノン系(センノシド、センナ、大黄など)、ジフェニール系(ピコスルファートなど)、ジフェニルメタン系(ビサコジルなど)があり、頓服としてそのときだけ使うのはいいのですが、漠然と長期間連用すると耐性ができ、難治性便秘になるリスクがあります。市販の便秘薬を使うときには、気をつけてください。
浸透圧性下剤(酸化マグネシウム)で効果がなかったら、病院を受診してください。ここ数年で新しい便秘薬が出てきています。
病院では、「上皮機能変容薬(ルビプロストンなど)」「胆汁酸阻害薬(エロビキシバット)」などがあります。「胆汁酸阻害薬(エロビキシバット)」は、失ってしまった便意を改善させる可能性がある新しい薬です。
早いうちに治療を行えば、生活習慣の改善とともに、いずれは便秘薬を飲まずに済むまでになります。慢性便秘症は、一定期間を過ぎると治りにくい病気です。早めの治療をおすすめします。
増田:適切な便秘薬の使い方を教えていただきありがとうございました。治りにくい便秘を自分に合った薬で治すには、消化器内科、内科などを受診して相談することが大切ということがよくわかりました。たかが便秘、されど便秘。慢性便秘症は、寿命にも関係すると言われているから、ひどくなる前に、早めに治しておくべき病気ですね。
参考資料/『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』
取材・文/増田美加 イラスト/大内郁美 企画・編集/木村美紀(yoi)