女性に多い便秘。なぜ、女性のほうが便秘になりやすいのでしょうか? 便秘の原因はさまざまありますが、女性特有の原因があるのです。便秘を解消するためにも、女性に便秘が多い理由と便秘がもたらす体への影響、解消法を知っておきましょう。便秘症に詳しい中島淳先生にお話を伺いました。
横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室主任教授
大阪大学医学部卒業。社会保険中央総合病院内科、東京大学第三内科助手、ハーバード大学客員研究員、横浜市立大学第三内科を経て、現職。横浜市立大学先端医科学研究センターセンター長、横浜市立大学学術院 医学群長。『慢性便秘の診療ガイドライン2017』作成委員。『便通異常症診療ガイドライン2023』評価委員でもある。
女性に便秘が多い原因は?
増田:何日も便が出なかったり、残便感があったり、便秘をすると、体や心の不調につながり、日常生活にも支障をきたすことも少なくありません。なぜ、便秘は女性に多いのでしょうか?
中島先生:女性に便秘が多い理由は、いくつもあります。女性ホルモンのひとつであるプロゲステロン(黄体ホルモン)は、便秘を引き起こす原因になります。プロゲステロンの分泌量が多い、生理前のPMS(月経前症候群)の時期は、便秘になる人が多いですね。
また、便を押し出すためには、ある程度の筋力が必要ですが、女性は男性に比べて筋肉量が少ないため、便秘につながりやすいという理由もあります。
ダイエットをしていたり、朝食をしっかり食べないことも、便秘の原因です。人は、朝食を食べたあとに腸の蠕動運動が起こり、便意を感じやすいのです。朝食の量が少なかったり、朝食を食べなかったりすると、この自然な便意が起こりません。近年では、便意が起きても、外出先では便意を我慢してしまう人が増えていて、このことも便秘の原因になっています。
増田:便秘があると、腹痛やお腹の張り、不快感だけでなく、肌あれや吹き出物が出たりと著しくQOLが落ちます。便秘を改善しないことによる悪影響はほかにもあるのでしょうか?
中島先生:便秘は、仕事や日常生活の活動性の低下につながり、それがさらに便秘を誘発するという悪循環を起こすことがわかっています。さらに血圧が上がったり、心臓血管系の病気のリスクが上がったりと、便秘が寿命を短くするというデータが出てきました。
便秘症は寿命を短くする!
中島先生:慢性便秘症だと、命にかかわる心臓、脳血管系の病気のリスクが上がるだけでなく、慢性腎臓病、パーキンソン病、認知症の発症に関係したり、糖尿病と合併している人も多いことがわかってきました。現在では、慢性便秘症を消化器の不調のひとつと考えるよりも、全身の疾患ととらえたほうが適切と考えられています。
また、生活の質や労働生産性に影響を及ぼすだけでなく、生存率(寿命)にも関連することが明らかになっています。このグラフのように、慢性便秘症状があるかないかで、生存率の違いを検討した結果、便秘症の人のほうが生存率が約23%低いということがわかりました。
【便秘症の有無による生存率の比較(海外データ)】
Chang JY, et al. Am J Gastroenterol. 105(4): 822-832, 2010.
便秘症に当てはまるのはどんな人?
増田:どのような便秘症状だと、慢性便秘症に当てはまるのでしょうか?
中島先生:慢性便秘症の可能性がある自覚症状を紹介します。
【当てはまる人は慢性便秘症の可能性が】
□排便時間に1分以上かかる
□排便時にいきむ
□便がうさぎの糞のように硬い
□排便時に痛い
□便意を感じない
□残便感がある
□お腹が張り、痛いことも
□排便のために何回もトイレに行くことがある
□排便後、肛門に詰まった感じがあり不快
中島先生:以前は、残便感や少量しか出ないといった症状があっても、毎日少しでも排便があれば、「便秘ではない」と医師から対応された方がいたかもしれません。
しかし今は、たとえ毎日排便があっても、トイレで出にくいなどの排便困難感や残便感、不快感、うさぎの糞のように便が硬いなど、便秘に伴う症状で日常生活に支障があれば、慢性便秘症と診断して治療の対象になるという考え方になっています。
それは、慢性便秘症が循環器疾患や脳血管疾患、慢性腎臓病、認知症など、寿命にかかわる重大な病気との関連がわかってきたからなのです。
便秘症の改善法①:食事で「食物繊維」をとる
増田:便秘を治すため、便秘予防のために、日常生活ですべきことを教えてください。
中島先生:便秘改善のためには食事、排便姿勢と日常生活の改善も大事です。セルフケアですべきことは、睡眠時間をたっぷりとる、規則正しい生活と食事、食物繊維と水分を十分とる、定期的に運動をすることです。
年齢とともに腸は動きにくくなってきます。特に注意したほうがいいのは、朝食の量です。朝食はある程度の量を食べましょう。人間の腸は、朝食後数分から1~2時間で蠕動運動が起こります。この蠕動運動を促すのが食事をとることで分泌される胆汁酸。朝食をとらないと腸管内の胆汁酸が不足し、便通が起こりません。そして食後、副交感神経が優位になる時間を持つことで便意が起こります。
食事の内容として重要なのは、食物繊維です。食物繊維を1日最低20gはとってほしいですね。これはキャベツなら1玉の量に相当します。江戸時代は1日100gとっていたと言われていますから、現代人は圧倒的に不足しています。
外来にいらっしゃる慢性便秘症の患者さんは、1日3~4gしか摂っていない人が多く、食物繊維の不足で便のカサが少なく、押し出すことができません。血圧上昇につながりやすいので、排便時にいきんではダメです。無理にいきまないためにも、排便姿勢が大事なこともわかってきました。
【おすすめの便秘改善食材】
●水溶性食物繊維である海藻類、納豆、オクラなどのネバネバ食品やキノコ類。腸内細菌の善玉菌のエサとなり善玉菌を増やします。
●食物繊維は、1日20gが目安。キャベツなら1玉、ニンジン5本、リンゴ6個に相当。玄米や雑穀など、主食で食物繊維豊富な食材を選ぶことが大切。
●大腸の蠕動運動のために必要な胆汁酸の分泌を促す食材は、卵、良質の油。油抜きは良くありません。
便秘症の改善法②:朝の「トイレ時間」を確保すること
増田:食後、副交感神経が優位になる時間を持つことが大事、とのことですが、バタバタと仕事や学校に出かけるのはダメですか?
中島先生:朝ごはんを食べて、腸が動いて便意をもよおすまで約30分~60分が正常な排便時間です。食後少しリラックスした気持ちでいることが大事です。便意が確立している人は大丈夫ですが、便秘気味で便意が弱い人は、なおさら食後ゆったりした時間が必要です。
慢性便秘症の方は、便意が来ない人がほとんどで、治療では薬を使ってでも便意を回復させることを大切にしています。2023年7月改定のガイドラインでも、便意回復の重要性を謳っています。
例えば、朝起きたら、体操やウォーキングをして水を飲み、朝食をしっかりとって1時間経ってから会社に行く。そうすると便意が来て排便してから外出できるので、それを1~2回経験すると、患者さんの満足度、達成感は上がり、継続できるようになっていきます。今は、フレックス制やテレワークが進んできているので、うまくトイレ時間を作ってみてください。
便秘症の改善法③:「排便姿勢」が意外と大事
増田:排便のために適したよい姿勢があるとのことですが、どのような姿勢でしょうか?
中島先生:排便姿勢は、とても重要です。腹圧をかけて便を押し出す際に、便の出やすい方向があります。背筋をのばしてまっすぐ座る姿勢では排便しづらく、かといって前傾しすぎても後傾しすぎてもダメです。ロダンの考える人のように足を床につけ、ひじが膝につく前傾姿勢35度がベストです。
【よい排便姿勢】
大切なのは、膝にひじがつく35度の角度と脚が床につくこと。床につかない場合は、踏み台を置いて、脚に体重がかけられるようにします。
便秘症の改善法④:定期的な運動や腹部マッサージを行う
増田:便通改善のための運動は、どのように取り入れたらよいでしょうか?
中島先生:定期的な運動は、便通のためにも、健康のためにも重要です。運動中は交感神経が優位になるので、腸の運動は止まります。しかし、運動を終えた後、副交感神経が優位になるので便意が来ます。交感神経のメリハリをつけることにもつながり、便秘改善にいい効果があります。
便通改善のための運動なら、朝起きて朝食前にウォーキングなどの有酸素運動を約30分して、水分をしっかりとります。その後、朝食をとるのがよい流れです。運動ができないときには、腹部マッサージをします。おへその周囲を軽く手で押しながら、時計回りに優しくなぜるように約15分が目安です。
増田:食事、トイレ時間、排便姿勢、運動とセルフケアのポイントをありがとうございました。次回は、便秘改善のための治療薬について伺います。
取材・文/増田美加 イラスト/大内郁美 企画・編集/木村美紀(yoi)